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あすかの幸せについて  作者: こうた
第11章 名前のない確信

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第7話 二人だけの沈黙

誰もいない空間は、静かではなく“強調された関係”になる。



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十二月下旬。



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夜はさらに深くなっていた。



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「人生の交差点」。



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カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



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朝比奈だった。



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しかし今日は少し違う。



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店の奥に他の客はいない。



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マスターも奥で作業している気配だけがある。



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つまり、


ほぼ二人だけの空間だった。



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「こんばんは」



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あすかが言う。



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朝比奈は少しだけ間を置いてから答える。



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「こんばんは」



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その声が、


少しだけ小さく感じる。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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マスターは必要以上に出てこない。



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空間は、


意図的ではないのに“閉じている”。



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あすかはそれに気づく。



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逃げ場がないわけではない。



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でも、


視線の置き場が少ない。



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朝比奈が言う。



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「今日は静かですね」



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あすかは小さくうなずく。



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「いつもより、ですね」



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それだけ。



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しかしその会話で十分だった。



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沈黙が落ちる。



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でも今夜の沈黙は、


これまでと違う。



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“間”ではない。



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“二人の形”そのものだった。



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あすかは思う。



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この人といる時間は、


もう説明を必要としていない。



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理由も、


意味も、


問いもいらない。



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ただ成立している。



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朝比奈がグラスを見つめる。



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そして、少しだけ息を吐く。



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「こういう時間、嫌いじゃないです」



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あすかはその言葉に、


すぐに反応できない。



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少しだけ遅れて言う。



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「私も、そう思います」



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その瞬間、


空気がわずかに変わる。



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軽くなるのではない。



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“整う”ような感覚。



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沈黙が続く。



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しかし今夜は、


それが自然に続く。



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やがて時間が過ぎる。



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朝比奈が立ち上がる。



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「そろそろ帰ります」



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あすかは少しだけ間を置く。



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「お疲れさまです」



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朝比奈は軽く会釈する。



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扉へ向かう。



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カラン。



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扉が閉まる。



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あすかはすぐには動かない。



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この沈黙は、


以前のものとは違っている。



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“二人だけで成立した沈黙”。



---


それが、


少しだけ残っている。



---


あすかは思う。



---


この関係は、


もう偶然でも習慣でもない。



---


ただまだ、


名前を持っていないだけだ。



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(第11章 第8話へ続く)

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