第6話 偶然の反復
偶然が続くと、それは偶然ではなくなる。
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十二月下旬。
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夜の空気は変わらないはずなのに、
少しだけ馴染み始めていた。
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「人生の交差点」。
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カラン。
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扉が開く。
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あすかは顔を上げる。
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朝比奈だった。
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一瞬、あすかは気づく。
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昨日と同じ時間帯。
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同じようなタイミング。
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それが偶然かどうか、
もう考える必要がない気がした。
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「こんばんは」
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あすかが言う。
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朝比奈は小さくうなずく。
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「こんばんは」
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その声も、
少しだけ安定している。
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朝比奈は席に座る。
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グラスが置かれる。
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マスターは何も言わない。
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しかし、
視線だけがわずかに動く。
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“また来た”という確認ではなく、
“続いている”という確認。
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あすかは気づかないふりをする。
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朝比奈が言う。
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「最近、来る時間がだいたい同じになってきましたね」
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あすかは少しだけ考える。
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「そうですね」
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それだけ。
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でも、その一言で十分だった。
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沈黙が流れる。
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しかし今日は、
その沈黙に違和感がない。
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むしろ、
予定されているような沈黙。
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あすかは思う。
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関係は、意図ではなく習慣に近づいている。
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でもそれは悪いことではない。
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むしろ、
一番自然な形に見える。
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朝比奈がグラスを回す。
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氷が鳴る。
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その音が、
少しだけリズムのように感じる。
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あすかは視線を向ける。
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朝比奈もそれに気づく。
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目が合う。
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すぐには逸らさない。
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それが、
もう普通になっている。
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言葉は少ない。
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でも不足はない。
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沈黙は埋められているのではなく、
共有されている。
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やがて時間が過ぎる。
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朝比奈が立ち上がる。
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「そろそろ帰ります」
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あすかは少しだけ間を置く。
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「お疲れさまです」
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朝比奈は軽く会釈する。
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扉へ向かう。
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カラン。
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扉が閉まる。
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あすかはすぐには動かない。
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グラスを見る。
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何も変わっていない夜。
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でも、
確かに積み重なっている夜。
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その差が、
もう無視できないところまで来ている。
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あすかは思う。
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これはもう偶然ではない。
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そして同時に、
まだ言葉にもなっていない。
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その曖昧さが、
心地よくさえ感じられていた。
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(第11章 第7話へ続く)




