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あすかの幸せについて  作者: こうた
第11章 名前のない確信

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第6話 偶然の反復

偶然が続くと、それは偶然ではなくなる。



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十二月下旬。



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夜の空気は変わらないはずなのに、


少しだけ馴染み始めていた。



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「人生の交差点」。



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カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



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朝比奈だった。



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一瞬、あすかは気づく。



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昨日と同じ時間帯。



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同じようなタイミング。



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それが偶然かどうか、


もう考える必要がない気がした。



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「こんばんは」



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あすかが言う。



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朝比奈は小さくうなずく。



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「こんばんは」



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その声も、


少しだけ安定している。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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マスターは何も言わない。



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しかし、


視線だけがわずかに動く。



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“また来た”という確認ではなく、


“続いている”という確認。



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あすかは気づかないふりをする。



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朝比奈が言う。



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「最近、来る時間がだいたい同じになってきましたね」



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あすかは少しだけ考える。



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「そうですね」



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それだけ。



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でも、その一言で十分だった。



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沈黙が流れる。



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しかし今日は、


その沈黙に違和感がない。



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むしろ、


予定されているような沈黙。



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あすかは思う。



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関係は、意図ではなく習慣に近づいている。



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でもそれは悪いことではない。



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むしろ、


一番自然な形に見える。



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朝比奈がグラスを回す。



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氷が鳴る。



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その音が、


少しだけリズムのように感じる。



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あすかは視線を向ける。



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朝比奈もそれに気づく。



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目が合う。



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すぐには逸らさない。



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それが、


もう普通になっている。



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言葉は少ない。



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でも不足はない。



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沈黙は埋められているのではなく、


共有されている。



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やがて時間が過ぎる。



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朝比奈が立ち上がる。



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「そろそろ帰ります」



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あすかは少しだけ間を置く。



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「お疲れさまです」



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朝比奈は軽く会釈する。



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扉へ向かう。



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カラン。



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扉が閉まる。



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あすかはすぐには動かない。



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グラスを見る。



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何も変わっていない夜。



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でも、


確かに積み重なっている夜。



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その差が、


もう無視できないところまで来ている。



---


あすかは思う。



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これはもう偶然ではない。



---


そして同時に、


まだ言葉にもなっていない。



---


その曖昧さが、


心地よくさえ感じられていた。



---


(第11章 第7話へ続く)

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