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あすかの幸せについて  作者: こうた
第11章 名前のない確信

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第5話 帰り際の余韻

関係の温度は、


その場にいるときよりも、離れたあとに分かることがある。



---


十二月下旬。



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夜は静かに続いていた。



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「人生の交差点」。



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カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



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朝比奈だった。



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「こんばんは」



---


あすかが先に言う。



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朝比奈は少しだけ間を置いて、


「こんばんは」と返す。



---


その間が、


もう気にならない。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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マスターは何も言わない。



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しかし、今日はどこか柔らかい空気が流れていた。



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朝比奈が言う。



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「今日は、少し寒さが優しいですね」



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あすかは少しだけ考える。



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「慣れてきただけかもしれません」



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朝比奈は小さく笑う。



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「それもありますね」



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会話は短い。



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でも途切れない。



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そのことが、少しだけ嬉しい。



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あすかは気づく。



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以前は、沈黙を避けるために言葉があった。



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今は違う。



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沈黙を共有するために、言葉がある。



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その違いが、


静かに関係の質を変えている。



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時間が過ぎる。



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特別なことは起きない。



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でも、


何も起きていないことが心地いい。



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やがて朝比奈が立ち上がる。



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「そろそろ帰ります」



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あすかは少しだけ間を置く。



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「お疲れさまです」



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朝比奈は軽く会釈する。



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扉へ向かう。



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カラン。



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扉が閉まる。



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その音が、


いつもより少しだけ静かに感じる。



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あすかはすぐには動かない。



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グラスを見つめる。



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さっきまでそこにあった時間が、


まだ残っている気がする。



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それは記憶というより、


余韻だった。



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マスターが静かに言う。



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「いい時間になってきたね」



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あすかは答えない。



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でも、


その言葉を否定する理由もなかった。



---


外は冷たい夜。



---


しかし店の中だけは、


少しだけ温度が違っている。



---


あすかは小さく息を吐く。



---


そして思う。



---


この関係は、


もう“始まりかどうか”を気にする段階を越えている。



---


ただ、


続いていくものになっている。



---


(第11章 第6話へ続く)

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