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あすかの幸せについて  作者: こうた
第11章 名前のない確信

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第4話 第三者の一言

関係は、当事者だけで成立しているようでいて、


意外と外側の一言で形を与えられてしまう。



---


十二月下旬。



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夜の冷たさは変わらないのに、


店の中だけは少し柔らかい。



---


「人生の交差点」。



---


カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



---


マスターだった。



---


いつも通りグラスを拭きながら、


ふと二人を見る。



---


少しだけ間があった。



---


それは観察というより、


確認に近かった。



---


マスターが言う。



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「最近、ここ落ち着いてるね」



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あすかはすぐには答えない。



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朝比奈も同じだった。



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沈黙が一瞬だけ流れる。



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マスターは続ける。



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「いい意味でね」



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軽い言い方。



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しかしその言葉は、


空気に少しだけ残る。



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あすかは気づく。



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これは評価ではない。



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ただの事実の提示でもない。



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“関係の輪郭を外側からなぞる行為”だった。



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朝比奈が小さく笑う。



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「そう見えるんですね」



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マスターは肩をすくめる。



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「見えるというより、そうなってる」



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それ以上は言わない。



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しかし、それで十分だった。



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あすかはグラスを見つめる。



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“そうなっている”。



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その言葉が、


なぜか少しだけ重い。



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朝比奈が視線をあすかに向ける。



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あすかもそれに気づく。



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目が合う。



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今日は逸らさない。



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少しだけ、そのまま。



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何も言っていないのに、


何かが共有されている感覚。



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あすかは思う。



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この関係はもう、


二人だけのものではないのかもしれない。



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マスターがいる。



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空間がある。



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そして、“そう見える”という第三者の視線。



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それらが、


静かに形を作っている。



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朝比奈が言う。



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「なんか、不思議ですね」



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あすかは聞き返す。



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「何がですか」



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朝比奈は少しだけ考えてから言う。



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「何も変えてないのに、変わっていく感じです」



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あすかはすぐに否定できない。



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むしろ、それが一番正確だと思った。



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沈黙が落ちる。



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しかし今日は、


その沈黙が落ち着いている。



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怖くない沈黙。



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むしろ、


居場所のような沈黙。



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やがて時間が過ぎる。



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朝比奈が立ち上がる。



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「そろそろ帰ります」



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あすかは少しだけ遅れて答える。



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「お疲れさまです」



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朝比奈は軽く会釈する。



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扉へ向かう。



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カラン。



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扉が閉まる。



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あすかはすぐには動かない。



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マスターがグラスを拭きながら言う。



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「悪くないね、あの感じ」



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あすかは少しだけ視線を上げる。



---


何も答えない。



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でも否定もしない。



---


その沈黙が、


すべてを少しだけ肯定していた。



---


(第11章 第5話へ続く)

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