表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすかの幸せについて  作者: こうた
第11章 名前のない確信

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/141

第2話 会話が少しだけ長くなる

関係は、急に変わるものではない。



---


ただ少しずつ、


“戻らない方向”へ傾いていく。



---


十二月下旬。



---


夜は静かに深くなっていた。



---


「人生の交差点」。



---


カラン。



---


扉が開く。



---


あすかは顔を上げる。



---


朝比奈だった。



---


「こんばんは」



---


あすかが先に言う。



---


朝比奈は一瞬だけ驚いたように見えたが、


すぐに小さく笑う。



---


「こんばんは」



---


その笑い方が、


ほんの少しだけ柔らかい。



---


あすかは気づく。



---


昨日よりも、


少しだけ距離が近い。



---


それは物理的なものではない。



---


空気の話だった。



---


朝比奈は席に座る。



---


グラスが置かれる。



---


マスターは何も言わない。



---


しかし、いつもより少しだけ視線が短い。



---


“見守る側”に戻っている。



---


あすかはそれに気づかないふりをする。



---


朝比奈が言う。



---


「昨日の帰り、少し夜風が気持ちよかったです」



---


あすかは少しだけ考える。



---


「そうですね。もう冬ですけど」



---


「でも、嫌な感じではなかったです」



---


あすかは小さくうなずく。



---


「分かります」



---


会話が続く。



---


いつもより、少しだけ。



---


途切れない程度に。



---


途切れないことが、


少しだけ嬉しい。



---


あすかは思う。



---


前は、


沈黙を埋めるために話していた。



---


今は違う。



---


沈黙を壊さないために話している。



---


その違いに気づいた瞬間、


少しだけ胸が静かに動く。



---


朝比奈がグラスを持つ。



---


氷の音。



---


その音が、


なぜか今日だけ近い。



---


あすかは視線を向ける。



---


朝比奈もそれに気づく。



---


目が合う。



---


すぐには逸らさない。



---


ほんの一瞬、


そのまま。



---


何も起きていないのに、


何かが起きているような時間。



---


あすかは思う。



---


この時間は、


もう“偶然”ではない。



---


でも、


“約束”でもない。



---


その中間。



---


まだ名前のない場所。



---


朝比奈がふと口を開く。



---


「ここに来ると、少しだけ時間の流れが違う気がします」



---


あすかはすぐに答えない。



---


少し考えてから言う。



---


「それは、いいことですか」



---


朝比奈は少しだけ笑う。



---


「たぶん、いいことです」



---


あすかも、少しだけ笑う。



---


その笑いは小さい。



---


でも消えない。



---


沈黙が戻る。



---


しかし今夜の沈黙は、


もう“間”ではない。



---


“共有”に近いものだった。



---


やがて時間が過ぎる。



---


朝比奈が立ち上がる。



---


「そろそろ帰ります」



---


あすかは少しだけ間を置いて答える。



---


「お疲れさまです」



---


朝比奈は軽く会釈する。



---


扉へ向かう。



---


カラン。



---


扉が閉まる。



---


あすかはすぐには動かない。



---


グラスを見る。



---


今日は、


何も特別なことは起きていない。



---


それなのに、


少しだけ特別だった。



---


その矛盾が、


静かに残っている。



---


(第11章 第3話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ