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あすかの幸せについて  作者: こうた
第10章 定義の圧力

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第4話 内側の問い

問いは、外から与えられるものではない。



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気づいたときにはもう、


内側に生まれている。



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十二月下旬。



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年の終わりが近づくほど、


街の時間は早く進んでいるように見える。



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「人生の交差点」。



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カラン。



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扉が開く。



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あすかは顔を上げる。



---


朝比奈だった。



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「こんばんは」



---


「こんばんは」



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短い挨拶。



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それだけで夜は成立する。



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しかし今日は、


あすかの中に残っているものが違った。



---


昨日の帰り道から、


ずっと消えない感覚がある。



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「このままではいられないかもしれない」



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その言葉にならない感覚。



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朝比奈は席に座る。



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グラスが置かれる。



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沈黙。



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いつも通りのはずの沈黙。



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しかし今日は、


その中に“問い”が混ざっている。



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あすかはそれを避けられない。



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朝比奈の存在。



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この店。



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積み重なった時間。



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そして、自分の中に生まれた変化。



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それらが静かに重なっていく。



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あすかはグラスを見つめる。



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氷がゆっくりと溶けていく。



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その様子が、


なぜか今の関係に似ている気がした。



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形はある。



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しかし少しずつ変わっている。



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止めることもできない。



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朝比奈が本を閉じる。



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その動作にあすかは目を向ける。



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少しだけ早い気がした。



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しかしそれが正しいのかは分からない。



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朝比奈が言う。



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「最近、少し考えることが多くて」



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あすかは顔を上げる。



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「何をですか」



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一瞬だけ間が空く。



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朝比奈は答える。



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「距離のことです」



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あすかはその言葉に少しだけ息を止める。



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距離。



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それは今、この関係の中で最も触れていない言葉だった。



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朝比奈は続けない。



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説明もない。



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ただそこに置かれただけの言葉。



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あすかは気づく。



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この関係は、


もう“無意識でいられる段階”を越えている。



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どちらかが気づいている。



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あるいは、どちらも気づき始めている。



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しかし言葉にすることを避けている。



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沈黙が戻る。



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しかし今夜の沈黙は、


以前のように安定していない。



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問いを含んだ沈黙。



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あすかは思う。



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関係は壊れていない。



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しかし、


このまま同じ形で続けることはできない。



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それは予感ではなく、


認識に近かった。



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やがて朝比奈が言う。



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「そろそろ帰ります」



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あすかは少し遅れて答える。



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「お疲れさまです」



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朝比奈は軽く会釈する。



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扉へ向かう。



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カラン。



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扉が閉まる。



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静寂。



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しかしその静寂は、


もう以前のものではない。



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あすかはグラスを見つめる。



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問いが生まれてしまった以上、


関係はもう“そのまま”ではいられない。



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名前を付けるのか。



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距離を変えるのか。



---


それとも、


壊れるのか。



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まだ答えはない。



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しかし一つだけ確かなことがある。



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もう、何も考えないままではいられない。



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(第10章 第5話へ続く)

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