第4話 内側の問い
問いは、外から与えられるものではない。
---
気づいたときにはもう、
内側に生まれている。
---
十二月下旬。
---
年の終わりが近づくほど、
街の時間は早く進んでいるように見える。
---
「人生の交差点」。
---
カラン。
---
扉が開く。
---
あすかは顔を上げる。
---
朝比奈だった。
---
「こんばんは」
---
「こんばんは」
---
短い挨拶。
---
それだけで夜は成立する。
---
しかし今日は、
あすかの中に残っているものが違った。
---
昨日の帰り道から、
ずっと消えない感覚がある。
---
「このままではいられないかもしれない」
---
その言葉にならない感覚。
---
朝比奈は席に座る。
---
グラスが置かれる。
---
沈黙。
---
いつも通りのはずの沈黙。
---
しかし今日は、
その中に“問い”が混ざっている。
---
あすかはそれを避けられない。
---
朝比奈の存在。
---
この店。
---
積み重なった時間。
---
そして、自分の中に生まれた変化。
---
それらが静かに重なっていく。
---
あすかはグラスを見つめる。
---
氷がゆっくりと溶けていく。
---
その様子が、
なぜか今の関係に似ている気がした。
---
形はある。
---
しかし少しずつ変わっている。
---
止めることもできない。
---
朝比奈が本を閉じる。
---
その動作にあすかは目を向ける。
---
少しだけ早い気がした。
---
しかしそれが正しいのかは分からない。
---
朝比奈が言う。
---
「最近、少し考えることが多くて」
---
あすかは顔を上げる。
---
「何をですか」
---
一瞬だけ間が空く。
---
朝比奈は答える。
---
「距離のことです」
---
あすかはその言葉に少しだけ息を止める。
---
距離。
---
それは今、この関係の中で最も触れていない言葉だった。
---
朝比奈は続けない。
---
説明もない。
---
ただそこに置かれただけの言葉。
---
あすかは気づく。
---
この関係は、
もう“無意識でいられる段階”を越えている。
---
どちらかが気づいている。
---
あるいは、どちらも気づき始めている。
---
しかし言葉にすることを避けている。
---
沈黙が戻る。
---
しかし今夜の沈黙は、
以前のように安定していない。
---
問いを含んだ沈黙。
---
あすかは思う。
---
関係は壊れていない。
---
しかし、
このまま同じ形で続けることはできない。
---
それは予感ではなく、
認識に近かった。
---
やがて朝比奈が言う。
---
「そろそろ帰ります」
---
あすかは少し遅れて答える。
---
「お疲れさまです」
---
朝比奈は軽く会釈する。
---
扉へ向かう。
---
カラン。
---
扉が閉まる。
---
静寂。
---
しかしその静寂は、
もう以前のものではない。
---
あすかはグラスを見つめる。
---
問いが生まれてしまった以上、
関係はもう“そのまま”ではいられない。
---
名前を付けるのか。
---
距離を変えるのか。
---
それとも、
壊れるのか。
---
まだ答えはない。
---
しかし一つだけ確かなことがある。
---
もう、何も考えないままではいられない。
---
(第10章 第5話へ続く)




