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2話「紋様の鼓動」

〜あらすじ〜

極東に分布する島、ヴァナギスに到着した俺のこと、リュード・セイルクリア。

アンディーンと言う名の洞窟に入り、宝の短剣を手にすることに成功。

しかし、魔法教会の任務で来た羽羅附マコトから、短剣は危険なものと判明。

適当に売りさばく予定であったが、魔法教会に売り渡すことにし、

この洞窟を出ようとしていたところだった。

俺達は、もと来た道を淡々と歩き始めた。

どういう理屈か、この洞窟は、絶え間なく俺の集中力、

いや、精神力を貪り削ってくる。

一刻も速く出ないと、気力が切れて、後はおさしの通り。

いかりのように重い足をふるい上げながら、ゆっくり進んでいく。

だが、マコトとのいざこざで精神面はボコボコ。

もう限界というものを軽く凌駕している気もする。

だんだん、俺は足取りがもつれて遅くなっていく。

気付いていないのか、

マコトは疲れ切っている俺のことには目もくれず、先へ先へ進んでいく。


この洞窟は、小雨の影響で、常にぬかるんでおり、いい気分で行けるものでは到底ない。

さらにプラスアルファで湿った土の匂いと強烈な湿気が洞窟中で充満している。

ここから帰るときの劣悪感は半端じゃないはずだ。

だが、マコトは迷いなく常に一定の速度で力強く歩いていた。

疲労感とか感じないのか。それとも、感じれないのか。

マコトの歩き方を見るに、強がっているようには全く持って見えなかった。

その間に、俺とマコトの距離がだいぶ離されてしまった。

俺は休憩したいという気持ちを抑えて、マコトに追いつこうと、必死に足を動かす。

その時、マコトは俺のことをたまたま気付いたのか、歩みを止め、振り返る。

「大丈夫?」

「・・休憩がしたいんだが、いいか。」

マコトはすんなりと了承してくれた。俺が離れていたことにも気付いていなかったそうだ。

たまたま、短剣があった場所と、似たような構造物があった。

俺達は、そこで、一休みすることにした。


「ふぅ、」

腰をゆっくりと下ろし、一息つき、俺はふと疑問に思ったことがあった。

それは、マコトが俺がいないことに気づき話しかけてきたことだ。

あの時、マコトの視野が届かない位置から、俺は後をつけるように歩いていた。

足音で、気づくか。いや、気付いてないなら違うか。なら、第六感、、、

「やはり、彼女には、なにか、、」

「どうかした?」


俺自身にも気づかないうちに、声にしていてしまった。

だが、ボソボソ声だったので、内容を聞かれずに済んだ。

もし聞かれたら、ストーカー認定が確定していた。

「なにも?」

二人の休憩は終わり、再度ぬかるんでいる床を進み始める。


俺は、体力が少し回復したので、一緒に横に並んで歩いた。

理由はもちろん、単純に知りたいことがあるからだ。

リュードは、昔から疑問や不思議が生まれた瞬間、それを突き止めようとする。

そんな男だ。ヴァリツォンなんて言われて気にならない輩はない!

「なあ、マコト。このヴァリツォンの短剣って、なんなんだ?

もとより、極東魔法教会が目を付けているほどの代物ってのは、

分かるんだが。実際どれくらい危険なんだ?」

彼女は意外だ、知らないのか、と言わんばかりの表情をした。

無表情な彼女だが、これだけははっきりと分かった。


「ヴァリツォンの短剣は、パレオスタという古代文明の遺品の一つ。有名よ。」


リュードの頭の中で、疑問が無象にも増えていく。パ、パレオスタ?

俺は、顔を俯けて、彼女の反応を伺う。

マコトは、俺の様態を見て、もう一つの可能性に気付いたようだ。

彼女は少し、こちらの動きを探るように言った。

「もしかして、、知らない?本当に、」

素直に白状する。多分、変なことすれば、即拘束溶かされそうだ。

「ああ、知らん。」


マコトは、少しため息を吐いた。

「・・古代パレオスタ文明は今の人類の技術をいとも容易く、遥かに超越している。

だが、その文明は、何らかの原因で、消滅した。その後、残された遺物の一つが、

そのヴァリツォンの短剣。」

そんな文明があったのかと、リュードは深く感心する。だが、また謎が増えた。

なぜ、滅亡したのか、と。リュードは、低級庶民のような者なので、

歴史家のような考察は、悔しいが到底できない。

彼女は話を続ける。


「そして、ヴァリツォンの短剣には、

強力な魔力エネルギーが蓄えられていて、

刺したものに、『魔術』を目覚めることがある。

でも、必ず 成功するとは限らない。

刺した瞬間、エネルギーに耐えられず、

魔獣のように成ってしまうことも・・・」

「一つ質問していいか。」

俺の探究心は遂に限界を超え、話を遮って、質問してしまった。

マコトは腕を組み、少し不服そうに言った。

「何か、またわからないことがある?」

「『魔術』ってなんのことだ。」

魔法ではなく、魔術。貧乏人のリュードには縁がなさすぎる話だ。

ちなみに、魔法なら少しの知識がある。まあ使えないが。

「魔術は、人個人に発現する魔法を凌駕する力。

前提として、魔術は魔術回路が一定以上ないと、

発現しない。そして、魔術が使える者には、

固有の紋様が体の何処かに浮き出る。」

彼女は自身の左腕の袖を少しまくって俺に見せた。

「これが、紋様。」

彼女は言った。俺は、息をゴクリ飲む。

確かに、くっきりと形どられており、何が何を意味しているのかは

凡人の俺にはよくわからなかった。

「まあーとりあえず、魔術ってのは、

個人個人違うものってことだよな」


戻り始めてから約20分くらいがたった。

そろそろ出口が見えてもいい頃合いだ。

この洞窟は、所々で枝分かれしており、

さらに、蛇のように縦横無尽に曲がりくねっている。

迷わず入り切ることは、まず不可能だ。当然、出その逆も、だ。

ようやく、細苦しい狭い道から解放され、

大きな場所に出た。

ここまでくれば、もう少しだろう。安堵感に満たされ、その場で腰を下ろす。

「やっと、出られる、、、」

俺はかなり、限界が近かった。

肉体的な疲労はそこまでだが、魂がガッツリ削られたような脱力感に支配されている。

「・・・ちょっと待って。」

マコトに不意に服の裾をぐいっと掴めれて、弾かれたかのように、歩みを止めた。

女性に服を引っ張られることなど、低級庶民のリュードには、まあないことだ。

俺の心臓の鼓動が速く、大きく鳴り叫び、それをぐっと抑える。

「ど、どうかしたのか。」

「静かに。」

彼女は力強い眼で静かに言った。先程の感覚は一瞬にして蒸散した。

俺は、姿勢を少し低くし、足を一歩下げて、辺りを見渡した。

背中に隠している左手には、先程のヴァリツォンの短剣を

ぐっと力を込め、熱を帯びるほどに強く握りしめた。

リュードは、地味に腕力がそこそこある。

大のおとな三人相手にして負かすくらいだ。

辺りの空気の湿気が消え去り、かわりに肌を刺すような、ピリついた空気が、

洞窟中の温度を下げていく。首筋の感覚が今にもなくなりそうだ。

空気感が、急に動きを変え、こちらに沈み込んでくる。

・・来る!

彼女は、摩擦音を微塵も立てずに、するりと刀身を鞘から払った。

剥き出しの敵意を彼女から感じる。その敵意が俺だったらと思うと、ゾッとする。


シュバッ!


瞬きもする間に、彼女は、白銀の刀身を辺りの暗黒ごと斬り裂いた。

踏み込みに使った足は、洞窟の岩石を踏み砕き、ヒビが俺の足元にまで広がっていた。

暗闇にまぎれて姿の分からなかった何かは、装甲をつけてたかのような獣の様で、

無慈悲に、真っ二つに両断されていた。

彼女は死んだ獣に眼を向けずに刀にべっとりとくっついた血液を振り払う。

俺は、状況に追いつけず、その場にただ佇んでいた。

「これは、、」

「魔獣。あと何匹か、いる。」

彼女は、不意に前に出る。このとき、俺も一緒に前に出なかったことが、

俺自身の運の尽きを明確に表していた。

「なっ!」

先程の奴と同じ様な形の魔獣が、俺に飛びかかる。

魔獣の膂力は俺を圧倒的に上回っており、そのまま、床に投げ飛ばされた。

背中に衝撃が走る。痛いとかいうレベルじゃない、下手すれば、折れてる。

派手に飛ばされてた音で、マコトはすぐに反応し、カバーしようと引き返したが、

そうはさせまいと、もう一匹が彼女に攻撃を仕掛ける。

『間に合わない』


彼女はそう悟った。魔獣は、床にたたきつけられた俺を今度は腹あたりを掴み、

壁にぶつけ、大きく口を開けた。

だが、奇跡なことに、俺の運はまだ尽きていなかった。

両手は開いており、反撃はいとも簡単にできる状態だった。魔獣の知能が低くて助かった。

しかし、問題なのは、反撃が効くかどうか、俺の腕力でやつの装甲を貫けるかわからない上、

右肩には力がほぼ入らない。マコトが来るまで、耐えるか、、、

魔獣の手が、腹の骨を砕き、爪がめり込んで、血がだんだんと口にも込み上げてくる。

それは、死までの時間を、コップと水で表したかのようだ。溢れたら死ぬ。

やるしかない、というかその道しか残されていない。

「か、覚悟はもうすでに、一年前に置いてきた!」

「待て!」

彼女は、呼吸の音を狂わせながら言った。人に心配されるようなことは、

今まで全く無かった。これが最後になるかもしれないのに。


バジシッ!


ヴァリツォンの短剣を、俺の右手の甲に思い切り、突き刺した。

腕が焼けるように熱いさらに、重い。この星が、締め付けているかのようだ。

眩しい光と衝撃波が、洞窟の壁をみるみると砕いていった。

魔獣たちは、直前に勘付いたのか、少し距離を取っていた。

そして暫く経ったあと、光と衝撃波が止んだ。

「リュード、、、」

ヴァリツォンの短剣で貫かれた者は、適合できないとほぼ必ず死ぬ。

煙が引いていく。彼女の手に震えがでる。心に冷たい重圧が重くのしかかる。

いくら懺悔の言葉を並べても、その重りは決して外れない。

「私のせいで、、」


「これ、なんか本当になにか変わったのか。

あまり、違和感も何もないぞ。」

彼女は驚きのあまり、腰を抜かし、熱くなった顔をうつむかせる。

泣き崩れている彼女を見て、なんかやっちゃたな、とは思いつつ、

かける言葉が思いつかない。

しかしそんなことより、今は、すこぶる気分がいい。

先程の出血も疲労ももちろんあるが、それ以上に、体と気分が高揚する。

「リュード!」

彼女が、前を見ろと言わんばかりに鋭く叫ぶ。


二体の魔獣が、俺に先程よりも速く襲いかかってきた。

だがしかし、それはあまりにも遅かった。死ぬ瞬間は、何もかも遅く感じるそうだが、

俺は今、その対極だ。これが、果たして、短剣で得るちからの一つなのか。

そして俺は、本能的に地面に手を付けていた。意味は知らない。

次の瞬間、地面から巨大な円錐状の無色透明な宝石のようなものが

次々と現れ、魔獣の体を槍のように貫いていった。

その硬度は驚異的で、あの装甲を一撃で撃ち抜いた。


「なんだこれ、、」

先程の高揚はどうしたのか、俺は唖然とする。

「あなたは、剣に適合したの。

それは、あなたの魔術。」

気分を落ち着かせた彼女が端的に言う。

「俺がか、、」

正直、実感はなかった。人間そんなものなんだろう。

「リュード、あなたの魔術は多分、『掌から触れた場所と掌から、硬い宝石を生み出す力』

岩魔法に近いものを感じるけど、その宝石のようなものは、私でも斬れないそんな気がする。」

「掌から宝石を生み出す能力か、、」

少し悪巧みできそうだなと思った。だが、俺が集中するのをやめた途端、宝石が粉々に砕け散った。

これはだめだ。


「ま、そう簡単には行きませんよと。」

まあ、大金入る上に能力付けて、ついでに心配してもらえた。

一人ではしゃぐ俺に対して、マコトは、指先が震え、辺りをキョロキョロしていた。

「・・ヴァリツォンの短剣はどこ?」

「確か、そこら辺に、、、ない!」

俺が指さした方向には、俺の血以外なにもなかった。

「ここには俺とマコトしかいなかったはず。」

彼女は俺の腕を掴み無理やり引っ張る。先程の鼓動がまた、来る!

「ちょ、おい。」

「急いで、速くしないと。」

そうして、俺達は洞窟の外に向けて駆け抜けた。

だが、、、

「誰も、いねえ。」

洞窟の外は、ただ二人が、月の光に照らされているだけだった。

「あの近くにいたはず、どうやって。」

マコトは、刀身を再び抜き、辺りを用心深く徘徊する。

「マコト、すまん、もう限界。」

「え。」

意識が遠のいて行く。こんなところで終わるのか、、俺。

瞼をゆっくりと閉ざし、深い眠りに落ちた。

___________________


「これが、かの有名なヴァリツォンの短剣か。」

一人のローブに身を包んだ男が囁く、

「これを使えば、あの憎き教会に、、、

ぐへ、ぐへへへへへへぇぇぇぇぇ。」

男は、近くにいたカエルを踏み潰しながら言う。

カエルの体液が地面に飛び散り、染み込んでいく。

血に濡れた短剣が月の光に当てられ、鈍く煌めいている。


:続く、、、、、


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