1話 「始まりの宝刀」
「あれが、噂の。」
布がほつれてボロい服を着た一人の男が、大きなあくびをするかのような洞窟の
地下奥深くで、凛として立っていた。
「やっとか。」
その男は、瞼をシャッターを締めるかのように静かに閉ざし、
ここまでの自分自身に起きた奇跡の旅路を噛み締めているようだ。
大海に乗り出して、1年。
そう、怒涛の1年だった。
あの日、ある商人から、このあからさまに嘘に塗れた話を信じなければ、
俺は今まで通りの一文無しに等しい泥のような毎日を
当たり前かのように過ごしていただろう。
だが、人生逆転、一括千金のこの大チャンス、
独占欲が駆り立てられ、宝を貪りたい、という熱望が
俺の凍りついた冒険心にエンジンをかけるように、
俺の中で、火花が散った。
それ以降、俺は長きに渡って暮らしていた故郷の街の裏通りを
一度、視線だけ向けて、宝を目指し旅路を切り拓くことを決心した。
これまでの旅路では、極寒の地を極限状態で耐え抜き、
灼熱の台地を、体を燃やしかけられながら、必死に走り、
時には、巨大な翼竜に半殺しにされ、絶望を飲み込んだこともあった。
まあ、たまたま、近くをうろついていた老兵が、
日常的な感覚で、あっさり一撃で屠ってしまったのだが。
1年では感じられないほどの黄金の体験。
人生が何度あっても、足りないほどだ。
語り尽くせないほどのことがあり、
そしてついに伝説の宝が眠るといわれる極東に分布する島、
その名も、
『ヴァナギス島』
に俺は、自家製の筏で音もなく漂着した。
緑が豊かでありながらも、島自体は発展しており、
特に、自動で無から水を造る装置には、
度肝を抜かれ、気がつけば左膝が地にくっついていた。
島の建築物や服装などは、俺の故郷の人々とはかけ離れてはいるが、
島の人々や雰囲気は、非常に近しいものを感じた。
まるで俺を家族というもののように、
親切な声で色んな物を振る舞ってくれた。
その中のひとりの案内人に導かれ、
俺は近場の宿屋で滞在を決め、
街の人に宝の在処を知るものを探ることにした。
そして、探ること30日、
ほとんど宝の尻尾を掴めないまま、日を重ねていたが、
ついにその情報を手中に収めることに成功し、
気持ちを抑えられずにはいられずにいた。
その場所は
『アンディーンの洞窟』
と呼ばれる大地が大きく口を開けたかのような巨大洞窟であった。
ここは常時小雨が降っているらしく、それは今日という日も例外ではなかった。
俺は一足、洞窟に足を踏み込むと同時に、
ぬるっとした感触が、足に染み込んでいった。
思わず、俺は顔をしかめる。まあ、自分の顔は鏡越しじゃないと見えないが。
だがしかし、俺は己の心の炎に従い、
洞窟の湿りと虚無を押しどけながら、奥へとゆっくりと歩み始めた。
そしてついにたどり着いた。
「あれが噂の。」
歴史を感じさせる石造りの階段の頂上にアレはたたずんでいた。
俺は、ぼろい階段をボールで遊ばれている犬かのように駆け上がっていく。
無機質で冷たい階段を登り終え、奥にある朽ち果てたボロボロの木箱に目を向け、
もう一度、これまでの旅を噛み締めながら、
歩みよる。ついに終わるのか、目尻の辺りが少し熱くなる。
俺は、眼をこすって、木箱に再び見向き。
重々しい木箱の蓋を門を押し開けるかのように、
ゆっくりと、開く。
「これは、」
短剣だ。中には一つの短剣だけが収められていた。
だが、その短剣からは恐ろしいほどの存在感を放っていた。
それは俺が昔、ごろつきに出会った時に感じた感覚を超越していた。
ま、あの頃は子供だったということも当然あるが。
なにか、触れてはいけないものに触れたという感覚だ。
俺の中で警鍾が鳴り響く。
俺は短剣から素早く間合いを取り、警戒した。
背中が汗で濡れてベタッとしている。もちろん、汗は止まることがなく流れ出続ける。
この剣は色々と奇妙な点がある。
一つはあの威圧感。
もう一つは、何千年も昔の剣のはずなのに錆一つすらなく、常に手入れされたかのように、
鈍色に煌めいていることだ。
「ここまで来たんだ。引けるわけねえ。」
恐る恐る間合いを詰め、剣に危険性がないことを確認してそっと持ち上げた。
「やばい代物を手に入れちまったぜ。
売れば何十年も遊んで暮らせるのか。」
俺は、生まれ変わる自分の姿に期待と妄想を膨らませていた。
豪華な家に、うまい飯、それから、、、
その時、背後から聞き慣れない雑音が俺の耳に響き渡った。
コッコツ、、コツ。
真後ろからかすかに足音がする。
何者かがこの短剣を奪いに来たに違いない。あの商人か。
微動だに震える手を押さえつけ、心を落ち着かす。
「誰だ。」
「まさか、、、先客がいたなんて、、」
後ろにいたのは、
少女だと思われる背格好の女性がいた。
身長は158cm程度だと思われ、
髪は束ねてポニーテールになっていた。
一見ただの少女に過ぎないが、
彼女の薄紅色の瞳がそれを否定してくる。
引き続き警戒を続けたほうがよさそうだ。
「、、あなたの、それは危険なもの。
私はそれを回収するように命じられた。
だから、ここにいる。」
彼女は無表情で端的に話してくる。
何を考えているか全く持って読めない。
冷や汗が再度、ゆっくりと垂れてくる。
「はっ、流石に何も無しで、
先に手に入れたものを渡すほどの義理はねぇよ。」
俺は決意を決めて言い返した。再度、手の震えを抑えて。
辺りの空気はすでに静まり返っており、ジメジメしさをまるで感じない。
彼女は、腕を組んで、少し考えた後、こちらに向き直る。
殺意の帯びたような眼光で。
「そう、、、、なら、、、、」
「それを、買うわ。」
「なにィ!?」
一気に場の緊張感が消し飛ぶ。汗も一気に引いていった。
俺は、謎すぎるその発言に息を飲んだ。
・・一旦、頭を整理しよう。
俺は、彼女の瞳を見て、敵意があることを察した。
次に、腰に付けてある刀で斬りかってくる。
という算段を付けて交渉は諦め、
俺は反撃することに集中していた。
その瞬間、買い取ると彼女は言った。
なら、あの眼はなんだったのか、と俺は熟考してみたが考えるだけで、
わけが分からなくなっていく。考えるだけムダだ。そう脳内で結論付けた。
「な、いくら出せるか、ていうか、あんたそもそも、何歳なんだよ。」
とにかく、探ってどんな人物か調べる。交渉はそれからだ。
彼女は依然として表情を変えない。というか下手なだけなのか。
「私は、19歳。
依頼元は、極東魔法教会から。
だから、いくらでも出せる。」
まじか、、俺は、あまりにも、衝撃的で言葉が出せなかった。
まず一つ、魔法教会絡みの本当にやばい代物であること。
おえらいさんがたくさん陣取ってる魔法教会が絡んでくるとなると、
当然国もついて回る羽目になる。
これは、大儲けは確定だ。そこらの商人に売り飛ばすよりも信頼できる上、
多めの金額を出しても買ってくれそうだ。
「わかった。その契約に乗ろう。
あんた、名前は?」
彼女は、先程と同じように表情を一切動かさずに答えるが、
少しほっとしたようにも見える。
路地裏暦約18年の男なので、女子の心など全く知らないが。
「私は、羽羅附マコト。
あなたは、」
「俺は、リュード・セイルクリア。
30日くらい前に、この島に滞在させてもらっている
で、本当にいくらでも出せるのか?」
彼女、いや、マコトは強く頷く。
「ええ、、その短剣、
ヴァリツォンの短剣は
非常に危険性の高いもの。
教会なら、なんであろうとも必ず手に入れようとするはず。」
これで、俺のニュー・ライフは仕上がったも同然。
勝利の余念に浸りたいところだが、
今はそれより、ヴァリツォンってのが少し気にかかる。
歴史書の偉人の一人なんだろうけど。
彼女が、先を急いで進むので、休む暇もなく俺は再び歩き出した。
虚無で覆われている洞窟の外に向けて。
外では、満月のきれいな夜だが、雲で大きく隠れている。
その朧気な光が、辺りをぼんやりと突き刺していた。
:続く、、、、、、
魔法はここの世界にはあります。
詳しくは次回に書きたい。
設定(あまり重要じゃないというか無駄)
リュードは22歳。身長は182cmくらいかな。
マコトは本当に19歳。




