3話「極東魔法教会」
〜前回のあらすじ〜
前回、リュードとマコトは魔獣に襲われるも、見事撃退。
リュードは魔術『掌から触れた場所ら辺に硬い宝石を生み出すちから』を手に入れる。
だが、謎の人物に短剣を奪われてしまう。
月が地に落ち、そして、太陽が天に登ろうとする。
翌朝になった。
顔に程よく暖かい陽光が差し込み、その温かさで俺は眠りから目を冷した。
布団の感覚、枕の感覚、がいつもと違うことにすぐに気付いた。
今まで味わったことがないほどの極上のもふもふ、気持ちがどんどん沈み込んでいく。
程よい頭の高さ、そして俺の頭を優しく包みこんでいく快感、もう限界だ。
俺はその瞬間、二度寝を開始した。
約1時間ほどの二度寝を終え、ようやく俺は極上のベッドから、上体を起こした。
何畳あるかはわからないが、ここで一生暮らせそうなほどの広さがある。
そして、そのまま辺りを見渡す。率直に言えば、豪邸だ。
ベッドは俺ともう三人は寝られる大きさだ。貴族様々はこういうのが無駄に大きい。
驚くべきは天井、黄金のきらめきを解き放つ巨大なシャンデリアが吊り下がっていた。
そのきらめきの美しさゆえに、言葉を失ってしまう。
「こりゃ、すごい。」
俺は、ようやくベットから、地面に降り立った。
「ん?」
感覚がおかしい。目線が、いつもと違う。俺の額から冷や汗が滲み出る。
「もしかして、身長が、、縮んだ?」
視界が安定しない、足元が崩れ落ちる感覚がする。俺のアイデンティが、
「今の俺、170センチくらいか。まじかよ、12センチくらい縮んじまった。」
多分、昨日の短剣の後遺症というものだろう。
気分が落ち着かない。俺は足を引きずるようにして、保存庫の前に歩み寄った。
気分転換に何か食べよう。俺はおぼつかない手で、保存庫の扉を振り開ける。
保存庫の巨大な空間の中には、豪華そうなというか豪華なティーカップや、
金色の果実、それ以外にも幾つもあり、目を潰しに来るほどの苛烈な発光だ。
マコト、あいつ、貴族育ちなのか。だいぶ羨ましい。
ティーカップの一つくらいもらっても、、、。
俺が欲に負けてティーカップに震える手を伸ばした瞬間。
コンコンコン
まずい、誰か来た。多分、マコトだ。
慌てて俺はティーカップを机に置き、髪を程よく濡らし、いつも通りの型に作り上げた。
服を綺麗に整えながら、俺は一度咳払いをし、扉に向けて言った。
「いいぞ。」
「入るわ。」
もちろん、扉を開けて来たのはもちろん彼女、マコトだった。
彼女は、机に置かれた一つのカップに疑問をもちながらも、椅子に座ってくれた。
よしよし、作戦どおり。
次に俺はさっき触れたティーカップのポッドにそうな上品な茶いれて沸かし、
1つのティーカップに丁寧に注いでゆっくりとカップを置いた。
庶民の中のかなりの貧乏人の俺でも、これくらいのもてなしはできる。
という雰囲気を彼女に出して、好感度を上げ、
このカップ貰おう作戦。
至って順調に進んでいる。まあ、マコトは無表情すぎて本当にそうかは、不明だが。
そして、俺もゆっくりと、椅子に腰をおろした。
だが、マコトは一切、ティーカップに一切手を付けずに、真剣な顔でこちらを覗いている。
まさか、悟られたのか。彼女の勘はよく当たる。あの洞窟の休憩のときのように。
俺は、唾をゴクリと飲み込み。込み上げるものを抑える。
彼女の勘が当たっていないことに賭けるしかない。
彼女がついに口を動かし始める。
「いきなりだけど、本題に行く。
リュード、あなたに短剣捜索を協力して欲しい。」
マコトは、椅子から立って、頭を深々と下げた。
なんだ、、気付いていなかったのか。それは置いておき、マコトは俺に対し、
嫌味一つも言わず、逆に協力して欲しいだなんて。
聖人というか危ない人間に騙されやすそうなやつだ。
とりあえず、マコトの頭を上げさせないと、罪悪感で心が潰れ散りそうだ。
「頭、上げろよ。」
マコトはゆっくりと深々と下げた頭を元の位置に戻す。
「そもそも、俺が、短剣を放置していたせいだから、
マコト、お前が謝る必要なんてねえよ。
しかも、俺が取り返さなければ最初の話なしだろ。
協力なんかいくらでもしてやるよ。」
氷の仮面のような彼女の顔に一筋の光が当たって溶け出し、口角が僅かに持ち上がった。
引きつったような、けれどどこか愛らしい、不器用な笑顔だった。
瞬く間に、その笑みは初めからなかったかのように掻き消えていた。
「たしかにそうだ。」
「切り替え速すぎだろ。」
その後、ちょっとした軽口を交えてマコトは再度椅子に座り、
全く飲んでいなかった茶ようやくを少し飲んでくれた。
不思議にも、カップの中の茶は温かさを保たれていた。
彼女がの小さな唇カップに触れた途端、口からカップを反射的に遠ざけた。
「少し・・」
「どうかしたか。」
「なんでもない。あなたが協力してくれると人数倍、力強いなと感じただけ。」
これってもしかして。と言う期待はするだけ無駄。
心の奥にでもしまっておこう。もう3度も、ドキドキはせんよ。と思いつつ、
鼓動は速まる現状。考えるのをやめて話を変えよう。
俺も、ポッドに残った茶をカップに入れ、一口飲み込む。
彼女一人だけが茶を飲むのは、孤独感を感じさせてくるからだ。
リュードは茶を飲んだことがない。それ以前に、茶は貴族がたしなむもの。
一般人が飲むことはまああり得ない。ゆえに味はよくわからなかった。
「っていうか、ここどこで、俺の傷はどうやって治したんだ。」
茶やカップの事があって、忘れかけていたが、ぎりぎりで記憶力は間に合った。
マコトは隠しもせず、茶を飲みきって言った。
「ここは、私の家の客人用の部屋、あなたの傷は、私が魔法で治した。」
「貴族様は、客室までもか。」
すごすぎて、もはや呆れてくる。
そもそも、この客室使われたことあるのか。カップは新品のように白い上、
他の物品も、使われた形跡を感じない。客室を作る意味なんてあったのか。
いや、金持ちお貴族ならやりかねないな。
俺も、苦い茶を飲み切り、そしてコップを手品を利用して裏ポケットに隠しこんだ。
「さて、そろそろ、行こう。」
マコトは、椅子から、勢いよく立ち上がり、コップを片付けた。
こちらの様子を伺う感じはない。俺は、息を少し吐き、肩の荷をおろした。
「どこへ行くんだ。」
マコトは、窓を開け、朝の清々しい空気を、肌に浴びながら言う。
「極東魔法教会。」
マコトの豪邸から、歩いて25分程度の丘に魔法教会は建っている。
特徴的な屋根に、大きな銀の鐘が取り付けられており、様々な人が
ここを拠点として動いている。
「これが、魔法教会。・・でかいな。」
正直、マコトの豪邸を見た後じゃ迫力に欠ける。アレが大きすぎるだけだと思うが。
マコトは几帳面に配列された石の道を、一歩ずつ丁寧に踏みしめていく。
迷いを埋め込んでいくかのように。
そして、俺たちは、幾年もの歳月を重ねた重厚な樫の扉を、
全体の力を肩に寄せ集め扉に押し込んだ。
重厚な扉は、辺りの静寂を引き裂くように、騒音を鳴らしながら、
教会内部の姿を明らかにさせた。
色とりどりな光が、教会内の無機質で冷たい石の床に生命を与えるかのように、
暖かく、神々しく輝いていた。
教会内の真ん中には、一筋もの狂いもない曲線を描いたカウンターが鎮座している。
年期の入った真っ赤な炎のようなカーペットを俺達は足音を揃え、
教会内の空気を乱さずに、歩みを運んでいく。
マコトはカウンターの中央に置かれた、一筋の曇もなく冷徹な光を突き刺す銀のベルを
1回鳴らし、誰か来るのをじっと待った。
その間に俺は、魔法教会内の左にある高級バーのようなところへひっそりと足を運び込んだ。
その内装は非常に技巧を重ねており、貫禄のあるアンティークな家具が幾つも佇んでいた。
さらに、奇妙な絵まである。額縁が金で装飾されており、光の反射で華やかに煌めいていた。
低級庶民の俺は、すでに言葉をなくし、ただ、眺めてるのに徹していた。
「何してるの。」
「うおぉ。」
急に声をかけられ、背筋がゾッとする。
マコトはいつも通りの無感情だが、今は少し不機嫌そうに手を組んでこっちを見ている。
勝手に行動したツケが回ってきたか。俺は額に手を抑え、空虚な言葉を付け足していく。
「いや〜、マコトちゃん、これはね、こ、この部屋が、どんな部屋なのか見ていたんだよ。
この部屋なんだろな〜。ははは。」
場が一気に静まり返っていく感覚が肌身に感じられる。
しかし、ここで引き下がるわけには行かない。
ただ時が残酷に過ぎ去っていく。
その時、
「マコトさん、見つかりましたか。」
おれじゃあない。別の男性の声だ。
「ええ・・ここにいた。」
少し落ち着いた感じの声で彼女は喋る。
「あんたは、誰なんだ?」
俺は、その男に聞く。男の身長は、俺より少し低いくらい。
灰色のトレンチコートを着ており、落ち着いた大人と言う雰囲気を
全身から感じさせる。しかし、目には、情熱を秘めた赤い目をしていた。
「僕は、来見 レンといいます。
あなた達に、上の人達からの任務を伝えに来ました。」
「で、いた?索敵系の魔術師。」
マコトは来見に聞く。ここに来た理由はそれか。
俺は心のモヤが溶け、スッキリした気分だ。
「それが・・・一人だけしかいなくて。」
来見はバーの椅子に座り、懐から一枚の写真を取り出して話を続ける。
写真の中の女性は、マコトと同じくらいの年に見える銀髪の少女だった。
瞳の色は鮮やかな水色で、写真に入り込んだ光で、美しく反射していた。
「この子です。名前は、リュリヒア・ロー・レゾリュート。
この島の血と西の大陸の血をもつハーフの女性です。
そして、この子は、吸血鬼の血を受け継いでいるとのことです。」
「吸血鬼か。」
「その子は今どこにいるの?」
「この写真の日の時は、アンディーンの森の中にいたとのことです。」
俺は肩を下ろして、安堵する。明確な場所まで把握していたとは。
この来見レンという男ものすごい頼りになる男だ。こいつは信頼できる。
「リュード。」
マコトが、颯爽と準備を進め、こちらを待っている。
「ああ、行こう、、いやちょっと待ってくれ。」
俺はレンに聞いた。どうしても聞かなくてはならないことだ。
「吸血鬼って特殊能力とか弱点とかあるのか?」
「確かな情報はありませんが、吸血すると、大幅に魔力を回復する能力があるそうです。
あと、日光を当てても、何の効果もないです。」
「助かるぜ。」
来見に別れを告げ、教会の扉を引き開ける。
そして、北に進路を変え、アンディーンの森へ向けて、歩みを始める。
「そういえば、さっきはすまん。」
「なんのこと?」
マコトは首をかしげる。表情が据え置きなのが、彼女らしくてとても可愛らしい。
「さっき、怒ってなかったのか。」
「ん?まったく。」
マコトはきょとんとしている。てっきり、当分、話を聞いてくれなくなるのを覚悟していたのだが。
まあ、よしとしよう。俺はそう定義付けた。
春のそよ風が気持ちよく肌をかすめる。
魔術師としての俺の冒険が今始まりを告げた。
:続く、、、、




