重過ぎる愛!!
「サキ、もうわたしだけを見て。……あなたは、一生わたしが面倒を見てあげる」
「えっ……そ、それはある意味アニオタとして、一生働かずに推し事(と優花里さんのお世話)ができるっていう、究極の夢の生活かもしれないですけど……」
一瞬だけ脳内にバラ色のニート生活が浮かびかけたが、彼女の瞳の奥にある「絶対的な色」を見て、すぐに現実に引き戻される。万が一疑われる様な事があると……こ、怖い。
「でも、その代わり……絶対に他の人には目を向けないで。いい?分かるわよね?」
「で、でも、鏡子ちゃんは親友だし……その、これまでも助けてもらったこともあるから、無視するのは……」
わたしの言葉に、優花里さんは少しだけ瞳を細めた。
「……そうね。友人関係として、表面的に会うことくらいは許してあげる。でも、それ以上はだめ……」
「そ、それ以上って……?」
思わず聞き返すと、優花里さんはわたしの首筋にそっと手を添え、獲物を狙う猛禽類のような、美しくも恐ろしい笑みを浮かべた。
「心も、身体も、あなたの人生の優先順位も……すべて『一番』はわたしであること。鏡子さんに一秒だって余計な『情愛』を向けないで。もし約束を破ったら……」
「や、破ったら……?」
そこで言葉を切り、彼女はわたしの耳たぶを甘噛みした。
「その時は、この家から二度と外に出さないようにして、わたしが一生あなたを『飼って』あげるわ」
(ひ、ひえぇぇぇぇぇ……! ついに言っちゃったよ、監禁宣言を言っちゃったよこのお嬢様!!)
鏡子ちゃんの執着も凄まじいけれど、優花里さんのそれは「財力」と「権力」と「生活環境の完全支配」がセットになっている分、逃げ場がない。
スマホは今もベッドの隅で、鏡子ちゃんからの着信を告げて震え続けている。
鏡子ちゃんの怒りの着信と、目の前の優花里さんの冷徹な独占欲。
わたしの平和なアニオタライフは、日曜の朝から完全に崩壊の音を立てていた。
「な、なんで急にこんなことになっちゃったの……!?」
頭の中がパニックで真っ白になる。
あの冷静沈着で、常に品位を保っていたお嬢様の優花里さんが、スマホを投げ捨てるなんて。
昨日、わたし何か変なことしたっけ!?
必死に記憶を遡るけれど、思い当たるのはお風呂での密着と、あの「愛してる」の告白くらいだ。……まさか、あれがトリガーだったの!?
「ゆ、優花里さん! 鏡子ちゃんから鬼のように連絡が来てるんです、出ないと本当に、大変なことに……っ!」
「どうして? サキはわたしだけのものなんでしょ? わたしを愛してるのでしょ?だったら他人の電話なんかに出る必要なんて、ないわよね?」
優花里さんは小首を傾げ、本気で不思議そうに目を瞬かせた。
その純粋なまでの独占欲が、かえって恐ろしい。
確かに、こんな絶世の美少女で大富豪の優花里さんに「わたしのもの」なんて言われるのは、オタク冥利に尽きるシチュエーションだ。
でも、現実には明日も学校があるし、何より鏡子ちゃんを怒らせたら、今度は家に帰ったら鏡子ちゃんに監禁されかねない。なに?!このどっちに転んでも監禁エンドって?!
「と、とりあえず、電話だけは……!」
ベッドの向こうのスマホを回収しようともがくけれど、優花里さんの細い腕は驚くほど力強く、わたしを羽交い締めにして離してくれない。
「優花里さん、どうしちゃったんですか!? 昨日の夜までは、あんなに優しかったのに!」
「昨日の夜、確信したの。サキを手放してはいけない、この子は一生わたしが守り、側に置くべきなんだって。わたしが全霊をかけて愛を注ぐべきなのは、あなただけなんだと」
(ひ、ひえぇぇぇ! ヤンデレ大爆発だよー!!)
変に財力と権力を持っているだけに、逆らえばわたしの社会的生命……いや、物理的な命すら危うい気がしてくる。まずはこの「愛の暴走特急」を停車させなきゃ。
「ゆ、優花里さん! よく分かりました! あなたの気持ち、痛いほど伝わりました!」
「分かってくれたの? サキ」
「はい! なので……まずは冷静になりましょう! ね?ね?ね?」
「わたしは冷静よ。サキに対して、これまでにないほど、自分に正直になっているわ」
(どこがだよ!!)
喉まで出かかったツッコミを必死に飲み込む。
「ま、まずは朝ごはんです! お腹が空いたら人間、カリカリしちゃうものですから。食堂へ行きましょう!」
「それもそうね。……ふふ、サキ、一緒に食べに行きましょ」
ようやく拘束が解けた。
「優花里さん、とりあえずその……わたしの顔面Tシャツは着替えてください! わたしもメイド服に着替えますから!」
「分かったわ」
そう言って優花里さんが着替えたのは、またしても「リリー」のコスプレ衣装だった。
(尊い……! 朝から生リリー様とか神すぎる……。はっ! ダメだ、見惚れてる場合じゃない! 毒気を抜かれてる間に、どうにかして彼女を正気に戻さないと!考えるんだ、わたし!)
愛がどんどん重くなる優花里。
サキは無事に伊藤家から戻る事が出来るのでしょうか?




