ヤンデレ開花!!
次の日の日曜日の朝。
豪華なカーテンの隙間から差し込む朝日が、ちょうどわたしの顔を直撃して目が覚めてしまった。
隣を見ると、優花里さんがスヤスヤと寝息を立てている。
その寝顔は相変わらず国宝級に美しいのだけれど、着ているのが「わたしの顔面ドアップTシャツ」なせいで、せっかくの神々しい雰囲気が台無しだ。シュールすぎてる。
毎晩この姿で寝てるんだ……
ふと、床に置いたリュックの中でスマホが小刻みに震えているのに気づいた。
嫌な予感がして、優花里さんを起こさないよう、抜き足差し足でカバンへと向かう。画面の光が漏れないよう手で覆いながら通知を見ると……。
「うげっ……やっぱり……」
案の定、画面は鏡子ちゃんからのRINE通知で埋め尽くされていた。
『サキちゃん、アニソンカフェ明日(日曜)行かない?』
『サキちゃん?』
『既読がつかないんだけど? 大丈夫?』
『どこにいるの? まさか……こんな時間まで会ってるの?』
『もしかして伊藤先輩と? お泊まりなんかしてないよね?』
『もしかしてそうなの……』
怖い。怖すぎる。
夜中の2時を過ぎてののRINEの連投は、もはやホラー映画の演出だよ。返信する勇気なんて一ミリもないけれど、通知を開いた瞬間に既読がついてしまった。
(あ、既読ついちゃったよ! 鏡子ちゃん、絶対今スマホ握りしめて待ってるはず……これ、また二人の間がせっかく収まったのにまたバトルが始まっちゃうの?)
「――サキ、何を見ているの?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
背後から突然抱きしめられ、心臓が口から飛び出すかと思った。
振り返ると、そこには起きたばかりの優花里さんがいた。けれど、その瞳にはこれまでに見たことがないような、冷たくて鋭い光が宿っている。
「ゆ、ゆゆゆ優花里さん?」
「……後藤さんから? またあの子からのRINEなの?」
「あ、ゆ、優花里さん、これはその……」
言い訳をする間もなく、肩を強く抱き寄せられ、唇を塞がれた。 朝の静寂の中で、深い、深い、吸い込まれるような激しい口づけ。
「……あ、ん……っ」
ようやく解放されたとき、優花里さんは艶かしい表情のまま、わたしの耳元で凍りつくような甘い声で囁いた。
「後藤さんの事はもう忘れて……サキ、これからはわたしだけを見て」
「え……? 優花里さん……?」
「前に約束した通り、登下校と学校にいる間はあの子といるのは我慢してあげる。けれど、それ以外のあなたの時間は、全てわたしにちょうだい」
彼女の指が、わたしの頬をなぞる。その独占欲に満ちた手つきに、背筋がゾクゾクと震えた。
「もう、誰にもサキを渡さない。あなたは一生、わたしと一緒にいるのよ」
(ええええ〜!? なんで!? なんで一晩でこんなに執着が強くなってるの!? これじゃ鏡子ちゃん以上のヤンデレだよ〜!)
「ゆ、優花里さん、きゅ、急にどうしたんですか……?」
「昨日、あなたと一緒にいてよく分かったの。あなたは、わたしやうちのメイドたちにとっても必要な人。……特に、わたしにとっては、もうサキしかいないの」
優花里さんのヤンデレ気質が、ついに完全に開花してしまった。 憧れのお嬢様との甘いお泊まり会のはずが、気づけばわたしは、逃げ場のない「愛の監獄」に閉じ込められようとしていた。
RINEの既読がついた瞬間、スマホが壊れたんじゃないかと思うほどの勢いで鏡子ちゃんからの追撃が始まった。
バイブの振動が鳴り止まず、ついに画面の「鏡子ちゃん」の着信表示を見られてしまった。
「ひっ……! 出、出ないと……!」
慌ててスマホを手に取ろうとしたその時、わたしの指先が触れる前に、優花里さんの白い手がそれを奪い取った。
「あ……優花里さ――」
次の瞬間、わたしのスマホは放物線を描き、広いベッドの向こう側へと投げ捨てられた。
「えええええええっ!?」
驚愕で声が裏返った。あの、常に冷静沈着で礼儀正しく、おしとやかだった優花里お嬢様が、人のスマホを投げ捨てるなんて。
彼女は驚くわたしの両肩を掴み、ベッドに押し戻すようにして顔を近づけてきた。
元々持っていた優花里のヤンデレが完全に開花してしまいました。
折角の鏡子との休戦状態もこれで台無しになるのか……?




