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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第3章 一年の二学期

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そんなあなたを許さないのだわ!!

「も、もう優花里さん……これ以上の幸せはこの世に存在しません……っ!」


 何十枚、あるいは何百枚とシャッターを切り終えたわたしの顔は、間違いなく人生で一番の「至福」に満ちていた。


 ふう、と一息ついてカメラを下げた瞬間だった。

 視界の端に、強烈な違和感……というか、とてつもない存在感を放つ「何か」が飛び込んできた。


 「ええ〜っ!!こ、これ……なんですか……!?」


 壁一面を埋め尽くさんばかりの、巨大なタペストリー。

 そこに映し出されているのは、先日ここで、メイドコスプレされた時の、わたしの姿だった。


 「ああ、それは引き伸ばして印刷するだけだったから、すぐに出来上がったのよ。3Dフィギュアの方は、あと少しだけ待っていてね♡」


 優花里さんは、リリーの衣装のまま、事も無げに微笑む。


「い、いえ! フィギュアはまだで良かったです……でも見たいような、見たくないような……」


 圧倒されるのはタペストリーだけではなかった。

 棚にはわたしの写真が飾られたフォトフレームがいくつも並び、あの夏の別荘で撮ったオフショットまでが、聖遺物のように安置されている。


「ほら、もうここは『サキ部屋』なのよ!」


「サ、サキ部屋って……恥ずい……恥ずかしすぎますって……!」


 自分の巨大な顔に見下ろされながら過ごすなんて、どんな羞恥プレイだろうか。


 けれど、優花里さんが毎日この大きなわたしの写真を見つめ、慈しんでいるのだと思うと、否定しきれない嬉しさが込み上げてくる。……いや、でもやっぱり、感情の整理が追いつかなくて微妙な気持ちになる。怖いよ。


「いいでしょう? この部屋、これからまだまだ『サキ』が増えていく予定なのよ!」


「優花里さん、すみません……それは本当に勘弁してください!もうこれ以上は……」


「どうして? これでいつでも、あなたの姿を視界に入れられるのよ。これ以上の幸せが、この屋敷のどこにあるというのかしら?」


「あぁ……はい……。分かりました、もう好きにしてください……」


 大好きなアニメのリリーの格好をした絶世の美少女に、至近距離で「愛」を説かれたら、アニオタのわたしに拒否権なんてあるはずもなかった。


 静かな部屋にインターホンのチャイムが響き、はるみさんの落ち着いた、けれどどこか弾んだ声が届いた。


「優花里お嬢様、サキ様。お茶のご用意が整っております」


「分かったわ、今すぐ降りるわね」


 優花里さんに促され、私たちはエレベーターで二階の食堂へと向かった。


 扉が開くと、そこには前回と同じく、凛とした立ち姿で三人のメイドさんが待ち受けていた。


「サキ、みんなあなたと話をするのを本当に楽しみにしていたのよ」


「あ! ありがとうございます! さなさん、あやさん、はるみさん!」


 わたしはぺこりと頭を下げる。


「いえ、サキ様とアニメのお話をするのがあまりに楽しくて。今日という日を指折り数えて待っておりました」


 はるみさんが、いつになく熱のこもった瞳で微笑む。

 どうやら、さなさんとあやさんも前回の交流でアニメに興味を持ったようで、食堂には巨大なプロジェクターが用意されていた。


 映し出されたのは、もちろん『リリー』の最新エピソード。


 大画面で躍動するリリーを眺めながら、その横には「本物のリリー」の姿をした優花里さんが座っている。

 さらに、メイドカフェ顔負けの制服を着た美しいメイドさんたちが、真剣な眼差しで画面を見つめ、「このシーンが素敵ですね」と共感してくれる。


 (……ここ、極楽浄土かな? アニオタの夢を全部詰め込んだような空間だよ……!)

 わたしは堰を切ったように熱弁を振るい始めた。

 作画のこだわりから、キャラクターの心理描写まで。

 特にはるみさんとは波長が合うようで、気づけば二人で手を取り合い、「ここ! ここの表情が尊いんです!」と絶叫に近い盛り上がりを見せていた。


 そんな私たちの様子を、優花里さんはゆったりと椅子に腰掛け、愛おしそうに、慈しむような目で見守ってくれていた。


(鏡子ちゃんなら、ここで『サキちゃんの隣はわたし!』って割り込んできそうだけど……)


 はるみさんたちは、あくまで「優花里さんの下でサキと語り合うアニオタ仲間」としての節度(?)を保っているからだろうか。

 

 優花里さんも嫉妬するどころか、自分の愛する人が自分の大切な使用人たちと仲良くしている光景を、心から楽しんでいるようだった。


 食堂での賑やかな鑑賞会が終わり、私たちは再び三階の「優花里のサキ部屋(仮)」へと戻ってきた。


「はるみたちが言っていた通り、このアニメは本当に奥が深いのね。サキの解説のおかげで、リリーの孤独や強さがより鮮明に伝わってきたわ」


 優花里さんはソファに腰を下ろし、リリーの衣装のパニエをふわりと広げた。


 その隣に座るわたしの手を取り、彼女はじっと見つめてくる。


「さて……約束通り、少し勉強も見てあげようかしら。サキ、教科書を出して?」


「は、はい! お願いします!」


 わたしは慌ててリュックから数学の問題集を取り出した。


 けれど、問題は勉強の内容じゃない。


 教えようと覗き込んでくる優花里さんとの距離が、近すぎるのだ。

 リリーの衣装のフリルがわたしの腕に触れ、彼女の髪から漂う高貴な香りが鼻先をくすぐる。


「サキ……? ここ、公式の使い方が間違っているわよ」


 耳元で囁くような、甘く落ち着いた声。

(無理だよ〜! 勉強どころじゃないよ! 推し(リリー)に密着されて勉強なんて、オタクの脳細胞が死滅しちゃうよ!)


 赤面して固まるわたしの様子を見て、優花里さんはいたずらっぽく微笑んだ。


「あら、どうしたの? 集中しないと、『リリーはそんなあなたを許さないのだわ!』……よ?」


 ああっ!リリーの決め台詞だ〜!そんなの言われたら余計に頭に入らないよ〜、も〜!優花里さんのイジワル〜〜〜!

まだまだ至福の時間が過ぎていきます。

ただ、優花里のサキ部屋はちょっとホラーですが。

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