次の週末!!
放課後は、いつも通り(あるいはいつも以上に)腕を絡めてくる鏡子ちゃんと一緒に帰宅した。
校門を通る際、優花里さんは凛とした表情で風紀委員の活動に戻っていたけれど、目が合った瞬間にだけ、ふっと柔らかな光が宿ったのを私は見逃さなかった。
(よし、これで明日からの平日は鏡子ちゃんと。そして休日は優花里さんと……)
綱渡りのようなスケジュールだけれど、今のわたしにできる最善の妥協案だ。
帰宅して、山積みの課題を片付け、至福のアニメ鑑賞タイムに浸っていると、スマホが小刻みに震えた。
画面には「優花里さん」の文字。
『サキ、次の土日は予定がないのだけれど、うちに泊まりに来るかしら? メイドたちも、またあなたに会えるのをとても楽しみにしているわ』
「え?お、お泊まり……っ!?」
思わず持っていたリモコンを落としそうになった。
脳裏をよぎるのは、優花里さんの気品あふれる笑顔と、あの個性豊かなメイド隊の面々。
はるみさん、さなさん、あやさん……。
優花里さんと二人きりも嬉しいし、緊張もするけれど、彼女たちと一緒に過ごす時間も、今では私の密かな楽しみだった。
(もしよかったら、みんなでアニメ鑑賞会ができたら嬉しいな……!)
そんな期待を込めつつ、二つ返事で承諾のメッセージを送る。
すると、直後にメイドさんが全力でジャンプして喜んでいるシュールなスタンプが連打で返ってきた。
……これ、まさか優花里さん作ったの?
まあ、これで週末の予定が確定した。
これまでは、日がな一日部屋にこもってアニメを消化するだけだった、わたしの休日が、優花里邸への訪問というビッグイベントに塗り替えられていく。
(ついでに、分からないところの勉強も教えてもらおう。優花里さん、教えてくれるの上手だし……)
優花里さんが平日の朝を「一歩引く」形で譲ってくれたおかげで、校内での直接的な衝突は目に見えて減った。
けれど、それで全てが丸く収まったわけではない。
毎朝、校門をくぐる瞬間の空気は、未だにマイナス四十度の極寒地帯だ。
「おはよう、後藤さん。……美山さん、今日も無事に登校できて何よりだわ」
「おはようございます、伊藤先輩。サキちゃんのことは、わたしが『完璧に』守り抜いていますから。ご心配なく」
「そう、あなたなら安心ね、あなたみたいな人を、確かヤンデレって言うのかしらね……?」
(いや、十分優花里さんもヤンデレだよ……)
挨拶を交わす二人の視線が空中で激突し、バチバチと火花が散る。
そのたびに、私の右腕に絡みつく鏡子ちゃんの力がギュウゥゥッと強まり、骨が悲鳴を上げそうになる。
一方で、斜め後ろから私を見守る優花里さんの視線も、執着と独占欲を孕んでじっとりと背中に張り付いているのを感じる。
(……表面上は穏やかだけど、これ、マグマが溜まり続けてるだけだよね!?)
それでも、放課後の鏡子ちゃんとの時間と、週末の優花里さんとの約束。
この絶妙な、そして危ういバランスの上に、私の二学期は辛うじて成り立っていた。
そして、金曜日の放課後。
「ねえ、サキちゃん、明日の土曜日さ、新しくできたアニソンカフェ行かない?」
隣を歩く鏡子ちゃんが、弾んだ声で誘ってきた。
(――キタッ!!)
心臓が跳ね上がる。嘘はつきたくない。
でも、ここで「優花里さんの家にお泊まりに行く」なんて言ったら、今度はリムジンが爆破される勢いで修羅場になるだろう。
「あ、あはは……ごめんね、鏡子ちゃん。明日は優花里さんとの予定が入ってるんだ。だから平日の登下校は引いてもらってたから」
「そうなんだ、悔しいけどそこはわたしも引かないといけないのかな。でも!でも、サキちゃん、もし変なことされようとしたらすぐわたしに連絡するんだよ!」
「へ、変な事って?」
「この前みたいにキスされそうになったり、迫ってきたりしたらだよ!あの人はすぐそういう事をしそうだから」
それって恋人同士なら普通なんだし、鏡子ちゃん、おまゆう?!案件だったが、とりあえず、分かったよ、と返事しておく。
「それと、サキちゃんのスマホの位置情報共有しておこうよ」
「いや、何でだよ!それはやり過ぎでしょ!流石にそれは受けられないよ!ごめんなさいだよ!」
「そうなんだ……」
「鏡子ちゃん、それはそうだよ、個人情報保護法違反だよ(多分)」
というかストーカーだよ……
まだ以前よりは、鏡子ちゃんに優花里さんに会うことを正直に話せるようになったけど、結局はただの冷戦状態ってことだよね、これ。
週末の楽しみが出来て、鏡子にもちゃんと断りを入れられたサキ。
少しは自分の意見を言えて、しっかりしてきた、のでしょうか?




