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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第3章 一年の二学期

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プライドをかなぐり捨てて!?

「じゃ、じゃあ、こうしましょう! 優花里さんが来る時は、副委員長さんに門に立ってもらうとか……」


 わたしの苦肉の策に、優花里さんの瞳がパッと輝いた。


「そうね、それはいいわ! そうしましょう。流石サキね、名案だわ」


 しかし、隣で鏡子ちゃんが低く唸る。


「……でも、伊藤先輩。あなたが登校する時、校門付近ではサキちゃんと離れて歩かなきゃいけないんじゃないですか? わたしなら、家から教室までずっとサキちゃんにくっついて守ってあげられます。やっぱり、わたしが毎日迎えに来るべきじゃないですか?」


「ぐっ……。で、でも、わたしだって離れていてもサキを守っていられるわ! うちのメイドたちに隠密で護衛をさせるもの」


(えっ、まさか皆さん、あのフリフリの格好で通学路に!?)


  わたしの戦慄を察したのか、優花里さんは即座に付け加えた。


「大丈夫よ、うちの学校の制服を着させて紛れ込ませるから」


「いやいや! それ、生徒以外に制服を着せて登校させるって、風紀委員長が公私混同してやっていいことなんですか!? 風紀、全然守ってないですよね!?」


「だって、なんちゃって女子高生っていう人たちがいるっていうし、大丈夫じゃないかしら?」


「なんでそんなの知ってるんですか!?どこでそんな無駄知識を仕入れてくるんですか?!」


 わたしのツッコミも虚しく、優花里さんは今度はしおらしく視線を伏せ、潤んだ瞳でわたしを見つめてきた。


「でも……わたしだって、サキと一緒に登校したいのよ……」


 くぅぅぅ……反則だ。あのお嬢様キャラの優花里さんに、そんな雨の中の犬の様な顔をされたら、わたしの心臓はひとたまりもない。


「で、でも、優花里さんとわたしが二人並んで登校したら、学校中で目立ちまくりですよ!? わたし、ただのいち生徒でいたいのに……」


「ほら!伊藤先輩。やっぱりわたしでないとサキちゃんはダメなんですよ。身分不相応って言葉、ご存知じゃないですか?」


 鏡子ちゃんが追い打ちをかけるようにニヤリと笑う。


(鏡子ちゃん、どっちかというと、それ逆の意味に使わないかな……?あなた優等生設定じゃなかった?なんで二人とも、わたしの事になると、そんなにIQレベル下がっちゃうの?!)


「……分かったわ!」

 優花里さんが、何かに憑りつかれたような決然とした表情で顔を上げた。


「もう体面など気にしていられない! わたしは明日から、プライドも職務も全て投げ捨てて、サキと堂々と並んで登校するわ!」


「えええええええ!?」


 わたしの悲鳴が夕暮れの玄関に響き渡る。

 

 風紀委員長が職務を放棄し、ヤンデレ幼馴染と火花を散らしながら登校する……。


 明日からの通学路、わたしの平穏なアニオタ女子校ライフは、完全に消滅の危機に瀕していた。


「じゃ、じゃあ……優花里さんは、わたしよりも一歩下がって歩いてついてくる、っていうのはどうですか? それなら、そこまで目立たないし……」


 苦し紛れのわたしの提案に、優花里さんがパッと顔を輝かせた。


「そうね!それならいいわね! 確かに一歩後ろなら、周囲の生徒からも不自然には見えないわ」


「でも、校門で毎朝立っていた風紀委員長が、普通に登校してきたら他の生徒はどう思うでしょうかね?」


 鏡子ちゃんが、冷ややかな声で追い打ちをかける。


「……それは、たまには副委員長が立っているくらい、違和感はないはずよ。体調不良と言えば済むことだし」


「へぇ。でも、後ろからついて行くだけなら、サキちゃんと登校する意味、ないんじゃないですか? 結局、サキちゃんの隣は『わたし専用』なんですし」


 鏡子ちゃんの容赦ない言葉に、優花里さんが「ぐっ……」と言葉を詰まらせ、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 鏡子ちゃん!プライドをかなぐり捨ててまで食らいつこうとしているお嬢様を、これ以上追い詰めないであげて!


「ですから伊藤先輩。ここは潔く、わたしにサキちゃんを任せていただければいいんですよ」


「ぐっ……サ、サキ〜」


 優花里さんが、縋るような潤んだ瞳でこちらを見てくる。


(ああっ、もう! 困った時にそんな可愛い顔でこっち見ないでください……!)


「ねえ、鏡子ちゃん。わたし、優花里さんとも一緒に登校するよ」


「なんで? サキちゃん、そんなに伊藤先輩の肩を持って無理しなくてもいいのに」


「無理はしてないけれど……でも、あまりに優花里さんが気の毒で……」


 わたしの言葉を聞いた瞬間、優花里さんの表情にパッと光が差し、逆に鏡子ちゃんの眉間に深い皺が刻まれた。


「サキ……ありがとう。あなたのその優しさが、わたしを救ってくれるわ」


「……ふーん。サキちゃんがそう言うなら、明日だけは『三人一組』で登校してあげてもいいけど。でも、わたしの場所は譲らないからね」


 鏡子ちゃんはわたしの右腕をぎゅっと抱きしめ、優花里さんはその斜め後ろに位置取る。

 なんだろう、この構図。まるでお姫様を守る騎士(鏡子)と、その後ろを歩く影の守護者(優花里)……。


 まあ、とりあえず、明日だけは三人で登校するということになった。


 けれど、明後日以降はどうなるのだろう?

 毎日、こんな不毛な争いを繰り返していくの?


 わたしが望んだ「仲直り」は、お互いに手を取り合って笑い合うような、そんな爽やかなものだったはずなのに。

 現実は、わたしという獲物を巡って二人のハンターが牙を剥き出しにしている、血の通わない休戦協定に過ぎなかった。


「……じゃあ、サキ。また明日、楽しみにしてるわね」


「サキちゃん、明日も一番に迎えに来るからね!」


 二人はまだ何か言い足りなさそうに、名残惜しそうに視線を絡めてきたけれど、わたしは半ば強引に背中を押して、渋々帰ってもらうことに成功した。


 パタン、と玄関のドアが閉まる。

 ようやく訪れた静寂。


 けれど、家の中にはまだ優花里さんの高級なヘアケアの香りと、鏡子ちゃんの使い慣れた柔軟剤の匂いが、戦いの名残のように混ざり合って漂っていた。


「はぁ……なんだろう。今日一日で、どっと疲れちゃったな……」


 鏡子ちゃんが欠席して、心配で家まで駆けつけたあの時の必死な気持ち。

 優花里さんに背中を押されて、勇気を出して仲直りしたあの瞬間の感動。


 それらがすべて、放課後の「サキ争奪戦」というカオスな上書きによって、遠い昔のことのように霞んでしまっている。


 せっかく仲直りしてくれたと思ったのに。 二人の「好き」という気持ちが強すぎて、わたしのキャパシティを軽々とオーバーフローさせていく。


(……もう、考えるのをやめよう。疲れた……)


 明日、校門をくぐる時にどんな騒ぎになるのか。

 全校生徒にどんな目で見られるのか。

 副委員長さんがどんな顔をして固まるのか。


 今はもう、それすらも想像する気力が残っていない。

 もう、昨日からのあまりのイベントの多さに、わたしの頭はオーバーヒートしていた。


 わたしは着替えもそこそこにベッドへ倒れ込み、現実逃避するように深い眠りへと落ちていった。


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