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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第3章 一年の二学期

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デッドヒート!!

その時、「トントン」と控えめなノックの音が響き、妹の美嘉がひょっこりと顔を出した。


 その手には、お茶菓子の載ったトレイが握られている。


 「お姉ちゃん、お母さんがこれ持って行けって……うわっ!」


 美嘉が部屋の惨状——左右からわたしを挟み込み、無言のプレッシャーを放ち合う二人の美少女——を目の当たりにして固まった。


 けれど、そんな妹の硬直を解くよりも早く、左右の「守護神」たちが動いた。


「わたしが受け取るわ、美嘉さん!」


「いいえ、わたしが! サキちゃんの家のことはわたしが一番分かってますから!」


 二人が弾かれたように立ち上がり、入り口の美嘉へと殺到した。


「ひい〜っ!?」


 あまりの勢いに、美嘉が短い悲鳴を上げて後ずさる。

 ごめんね美嘉、あんたはいつも間が悪いんだよ……。


「離してください、後藤さん。お客様であるわたしが手伝うのが筋でしょう?」


「お客様だからこそ、座っててって言ってるんです、伊藤先輩!」


 二人がトレイの両端を掴み、文字通り「取り合い」を始めた。

 ガタガタとティーカップが不穏な音を立てる。


 お茶がこぼれて一番困るのは、大事なアニメ雑誌やポスターが並ぶこの部屋の主である、この「わたし」なんですが!


 「ちょ、二人とも、危ないから……!」


 わたしの制止も耳に入らない様子で、二人はトレイを巡るデッドヒートを繰り広げている。


 けれど、わたしは少しだけ驚いていた。

 (……優花里さんまで、こんなにムキになって焦ることがあるんだ)


 学校では常に優雅で、どんなトラブルも眉一つ動かさずに解決するあの「風紀委員長」が、今は形振り構わずトレイを引っ張り合っている。


 鏡子ちゃんに対抗心を燃やし、余裕をなくしているその姿。


 それは、彼女がどれほど本気でわたしを想ってくれているかの裏返しでもあるわけで。

「……あはは、もう、二人とも」


 困り果てているはずなのに、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じてしまった。


 もちろん、その直後にトレイからお茶が数滴跳ねて、わたしの限定版リリーの円盤(Blu-ray)ケースに飛び散りそうになり、心臓が止まりかけてしまった。


 「ぎゃーっ! トレイを取り合わないでください! 円盤が濡れるところだったじゃないですか!」


 わたしの悲鳴に近い一喝に、二人はビクッとして動きを止めた。

 限定版円盤の危機とあっては、アニオタとして譲れない一線があるのだ。


「……ごめんなさい、サキ」


「……ごめんね、サキちゃん。お詫びにこれ食べて?」


 優花里さんがしおらしく謝り、鏡子ちゃんがすかさずトレイのクッキーをつまんでわたしの口元へ差し出してきた。いわゆる「あーん」の体勢だ。


「あ、サキ。こちらの方があなたの好みだわ」


 負けじと優花里さんも別の種類のクッキーをつまみ、わたしの唇に運ぼうとする。


「サキちゃん、はい」


「サキ、こちらを」

 (ひいいい、右からも左からもクッキーが迫ってくる……!)


 どちらか一方だけを受け取るなんて、この修羅場では死を意味する。

 わたしは意を決して、両方から差し出されたクッキーを同時にパクンと頬張った。

 口の中が粉っぽさでいっぱいになり、リスのように頬が膨らむ。


 二人は一瞬、呆然とわたしの顔を見つめていたけれど、すぐさま次のフェーズへ移行した。


「サキ、クッキーを食べたから喉が渇いたでしょう? はい、お茶を」


 優花里さんが素早くわたしのマグカップを手に取り、わたしの口元へ。

 至れり尽くせりのお姫様モードだ。


 しかし、出遅れた鏡子ちゃんの対抗策はもっと斜め上だった。


「サキちゃん……」


 鏡子ちゃんは自分のマグカップから紅茶をごくりと口に含むと、そのまま潤んだ瞳でわたしの顔に急接近してきた。


 (ま、まさかの口移しかよ!? 鏡子ちゃん、親もいる我が家の中で何てことしようとしてるの!?)


「も、もう! 二人とも、競争意識が強まってるだけじゃないですかー!」


 わたしは慌てて鏡子ちゃんの肩を押し返し、優花里さんのマグカップを自分でひったくるようにして受け取った。


「落ち着いてください! 仲良くするって言ったのは誰ですか! 休戦中なんですよ!」

 わたしの必死の訴えに、二人は再び気まずそうに視線を逸らした。


 仲直りしてほしくて呼んだはずなのに、二人の「サキ争奪戦」は、わたしの部屋という密室でさらに過熱していく一方だった。


 散々わたしの部屋をかき回し、クッキーと紅茶の「あーん」合戦を繰り広げた二人が、ようやく帰る時間になった。


 お互い「一秒でも長くサキの側に」と居座ろうとしていたけれど、わたしの精神がもう限界。

 なんとか説得して、二人揃って一緒に帰ってもらうことにした。


「じゃあ、サキちゃん。また明日の朝、迎えに来るね」


「いいえ、サキ。明日はわたしが迎えに来るわ」


 玄関先でまた火花が散る。思わず頭を抱えて叫んだ。


「もう! 二人とも、わたしを困らせないでください!」


「……じゃあ、後藤さんは毎朝サキのところに来ているみたいだから、明日はわたしが」


「いえ、毎朝来ているのが習慣ですから。明日もわたしが来ます」


(うう、収拾がつかないよ……!) わたしは苦肉の策として、禁断の提案を口にした。


「じゃあ、交互に来て! 明日は優花里さんが来てください! 鏡子ちゃんは明後日! これで文句はないですよね!」


「……分かったわ」


「……はい」


 二人は渋々承諾した。

 けれど、言った直後にわたしは重大な事実に気づく。 優花里さんは風紀委員長。校門に立たなきゃいけないから、朝がものすごく早いのだ。


 朝が弱いわたしにとって、優花里さんに合わせるのは至難の業。

 ……となると、ギリギリまで眠らせてくれる鏡子ちゃんの方が圧倒的に有利なのでは?


「……サキ、それならわたし、今日限りで風紀委員長は辞めるわ! 役職とあなた、どちらが大切かと言われたら、答えは決まっているもの!」


「いやいやいや! そんな理由で風紀委員長を辞めないでください! わたしが委員の皆さんに恨まれますから!」


 「そうですよ!伊藤先輩は、学校の風紀を守る風紀委員長なんですから、辞められたら私も学校も困りますよ!ね、サキちゃん!」


 全力で引き止めるわたしを見て、鏡子ちゃんが勝ち誇ったように微笑み、さらに火にガソリンを投下する。


「ぐっ……!」


「だよね!じゃあ、やっぱりこれまで通りに、毎日わたしと登校だね。サキちゃん、これからも、今までと変わらずによろしくね!」


「ぐぐぐ……」

 真っ赤になって怒りを堪えている優花里さん。


「う〜ん……。でも、鏡子ちゃんだけを選んで、優花里さんの、あの悲しそうな表情をされるのは嫌だし……」


どうしよう……? これ、どっちを選んでも地獄の二択じゃないのー!?

サキの前でもあからさま戦いを繰り広げる二人ですが、この結末をどうサキは収集をつけるのでしょうか?

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