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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第3章 一年の二学期

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休戦!?

 全速力で廊下を駆け抜け、わたしが辿り着いたのは、アニメのヒロインが悩んだ時によく行く場所の、校舎の最上階、屋上へと続く重い扉の前の踊り場だった。


「はぁ……はぁ……っ」


 冷たいコンクリートの階段に座り込み、膝を抱える。


 2人の気持ちは、痛いほど伝わってくる。あんなに素敵な2人がわたしを好きだと言ってくれるのは、平凡なわたしにとって、夢のような幸せなはずだった。


 でも、どうして?


 優花里さんは、わたしの大切な恋人。

 鏡子ちゃんは、わたしのかけがえのない親友。


 2人とも、私に対しての立場が違うんだから、どうして仲良くしてくれないんだろう?

 どうして、わたしを巡ってこんなに傷つけ合うようなことになっちゃうの?


 (……わたしが、優柔不断だからなのかな。やっぱりわたしが、悪いんだろうか……)


 薄暗い階段の踊り場で、膝を抱え座りながら、わたしは答えの出ない問いを自分にぶつけ続けていた。


 すると階段の下から、重なるように足音が響いてくる。


「サキ!」

「サキちゃん!」


 踊り場の影に隠れていたわたしの前に現れたのは、なんと優花里さんと鏡子ちゃんの二人だった。


「ど、どうして……2人一緒に?」


「アニメでヒロインが逃げ込む場所なんて、ここくらいしか心当たりがなかったのよ」


 優花里さんが、少し気まずそうに、けれど確信を持って言った。


 「伊藤先輩が、サキちゃんならここにいるはずだって。……そうしたら本当にいたんだよ」


 鏡子ちゃんも、毒気を抜かれたような顔でわたしを見つめている。


 (ははは……わたしの行動って、そんなにテンプレなんだな……)


 自分のオタク脳を呪いたいけれど、今はそれどころじゃない。

 わたしは膝を抱えたまま、震える声で二人に向き合った。


「サキ、さっきは取り乱してしまって……わたしが悪かったわ」


「サキちゃん、朝はごめんね。あんなことして、あなたを困らせちゃったよね」


 2人の謝罪。けれど、わたしの胸のモヤモヤは晴れない。


 「……わたしは、2人に仲良くしてほしいだけなんです。2人とも、わたしのことを『好き』だって言ってくれてる。それなのに、お互い顔を合わせれば喧嘩ばかりで……」


 溢れそうになる涙をこらえて、わたしは言葉を絞り出した。


「やっぱり、これってわたしが悪いのかな? わたしがはっきりしないから……」


「そんなことはないわ! 悪いのは……」

「サキちゃんが悪いんじゃないよ! 悪いのは……っ」


 二人は同時に叫び、そして互いに言葉を飲み込んだ。

 自分のエゴが、一番大切にしたいはずのわたしを追い詰めていたことに、ようやく気づいたみたいだった。


 「わたしの希望は、二人が仲良くしてくれることだけなんです。わたしなんかのことで喧嘩してほしくない。……それだけなんです」


 わたしの切実な訴えに、二人はひどく気まずそうに顔を見合わせた。


 やがて、優花里さんが意を決したように、鏡子ちゃんへ右手を差し出した。


「分かったわ。……一時休戦ね、後藤さん」


「……そうですね。一時休戦にします、伊藤先輩」

 鏡子ちゃんがその手を握り返す。


(休戦であって、終戦じゃないんだ……。でも、とりあえずこれで二人が少しでも歩み寄ってくれれば……)


 淡い期待を抱いたわたしだった。


 しかし、この時二人の握り合った手の内側で、バチバチと火花が散っているのには、わたしは全く気づくことが出来なかった。


「サキ、帰りましょうか。今日は送っていくわ」


「あ、先輩、今日はわたしがサキちゃんの家で一緒にアニメを見る約束をしてるんです」


 あれ?そうだったけ?


「……あら、そうなの?」


「はい、そうなんです」


 (ちょっと〜!二人の目から火花が飛んでるよ……全然、休戦になってないよぉぉぉ!!)


「それなら、わたしもサキのお宅で一緒にアニメを見ようかしら。今日は予備校もないから」


「へ?」


 優花里さんの提案に、わたしの心臓はまた変なリズムを刻み始めた。

 優花里さんは、氷のような微笑みを鏡子ちゃんに向ける。


「いいわよね、後藤さん。わたしたち、先ほど『仲良く』なったのですものね?」


「ぐっ……そ、そうですね。もちろんです、先輩」


(こ、これって仲良くなってるの!? どう見ても火花が散ってるようにしか見えないんだけど……!)


 「それじゃあ、わたしの車でサキの家まで行きましょう。後藤さん、良かったら、あなたも乗せていってあげてもいいわよ」


「ぐっ……お願いします」


 鏡子ちゃんの顔が「屈辱」という文字で染まっている。


 校舎から駐車場へ向かう道中、わたしの右腕には鏡子ちゃんが「専用」と言わんばかりに絡みつき、左側からは優花里さんがしなやかに腕を組んできた。


 左右からガッチリとホールドされ、引きずられるように歩くわたし。

 (わたしって、まるで護送中の容疑者か、あるいは、捕獲されたUMAか何かなの……?)


 豪華なリムジンの中でも、そのフォーメーションは崩れなかった。

 後部座席の広いソファで、わたしは左右から引っ張られ続け、どっちを向いても絶世の美少女が至近距離で睨み合っているという、地獄のような天国を味わうことになった。


 自宅に着いても、状況は悪化する一方だった。


 玄関を開けると、左右を美女二人に固められたわたしを見て、母と美嘉は開いた口が塞がらない様子で絶句していた。


 「お、お姉ちゃん……何その、異世界なろう系の最終回みたいなハーレム状態……」


 美嘉の引きつった声を背に、わたしたちはわたしの部屋へと雪崩れ込んだ。


 わたしの狭いオタク部屋に、お嬢様と親友の二人のヤンデレが同時にいる。

 本来ならアニオタとして、アニメならこれは面白くなってきたぞ!と、狂喜乱舞すべきシチュエーションなのに、もちろん今のわたしにそんな余裕はない。


「サキ、このキャラのどこが魅力的なのか解説してくれるかしら?」


「サキちゃん、それよりこの限定盤の特典、一緒に見ようよ!」


 テレビに映る『リリー』の最新話も、内容が全く頭に入ってこない。


 2人は隙あらばわたしに話しかけて主導権を握ろうとするが、二人同士が互いに言葉を交わすことは一切ないのだ。


 (これ、全然仲直りしてないよね!? ただ、冷戦状態になっただけなんじゃないの?!これじゃあ、まるで針の筵だよ……)


 アニメのBGMが虚しく響く中、わたしは左右から突き刺さる熱視線に挟まれ、一学期よりもさらに過酷な「二学期」の幕開けを確信していた。


 も〜っ!全然解決になってないよ〜!

なんとか踏みとどまった2人。

サキが思う様にはならない、この関係はまだまだ続きます。

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