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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第3章 一年の二学期

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勃発!?

 鏡子ちゃんとの嵐のような和解を終えたその夜。わたしはベッドに潜り込み、真っ先に優花里さんに報告のRINEを送った。


 『優花里さんのおかげで、鏡子ちゃんと仲直りできました。ありがとうございます!優花里さんは、本当に頼りになります!』


 すぐに既読がつく。けれど、返ってきた言葉は少し意外なものだった。


 『そう、良かったわね。……でも、わたしにとっては少し、複雑かもしれないわ』

 (複雑……?)


 意味が分からず首を傾げていると、続けてメッセージが届く。


 『怒らないで聞いてちょうだいね。彼女が元気になったら、また以前のような「鉄壁のガード」が復活して、今朝みたいに二人だけでお話しすることは難しくなるでしょう? だから、私は少し複雑な気持ちなのよ』


 「あ……」


 確かに。鏡子ちゃんが復活したということは、明日からはまたあの「蛇の抱擁」がデフォルトになるということだ。優花里さんと二人きりになれる隙なんて、一分一秒も与えてくれないだろう。


 『そうですね……。鏡子ちゃんが元気になるのは嬉しいんですが、今度はそうなっちゃいますよね。鏡子ちゃんが、もう少し歩み寄ってくれたらいいんですけど……』


 『……それは、難しいと思うわ』


 優花里さんの断言に、わたしは思わずスマホを握りしめた。


 『どうしてなんですか? 二人が仲良くしてくれたら、こんなことは起きないと思うんですけど。優花里さんは、鏡子ちゃんと歩み寄るのは無理なんですか?』


 『わたしが良くても、あの子はね……』


 『どうしてなんですか? 鏡子ちゃんだって……』


 『まあ、彼女の「気持ち」がね……。サキ、あなたはまだ、あの子の本質を分かっていないのかもしれないわ』


 優花里さんの言葉に、胸の奥がざわつく。


「彼女の気持ち」って、ただの独占欲の強い親友、っていうだけじゃないの……?

 鏡子ちゃんは私とは親友だと言ってるし。


 優花里さんは、鏡子ちゃんの瞳の奥にある、わたしですら気づいていない「何か」を見抜いているような気がした。


 (歩み寄れない二人の関係か……。これからどうなっちゃうの?)


 不安を抱えたまま、夜が更けていく。


 そして翌朝。わたしの不安は、最悪の、あるいは最低の(?)形で的中することになる。


 次の日の朝、まだ微かに残る昨夜の余韻と眠い目をこすりながら一階へ降りると、そこにはいつものようにコーヒーを啜る鏡子ちゃんの姿があった。


 「サキちゃん、おはよう!」


 昨日のボロボロな姿が嘘のような、整えられた髪に、エネルギーに満ち溢れた笑顔。


 洗面所で髪を整えようとすれば、背後からスッと櫛が伸びてくる。

 顔を洗えば、絶妙なタイミングでふかふかのタオルが差し出される。

 朝食の片付けまで完璧にこなし、着替えまで手伝おうとする彼女を流石に制止したけれど、その献身ぶりはもはや「親友」の域を完全に超えていた。


 ここだけ見ると、上げ膳据え膳で楽で嬉しいんだけど……


 「さあ、行こうか、サキちゃん!」


 「う、うん……」


 門を出た瞬間、右腕に絡みついてきたのは昨日約束した「彼女専用」の腕だ。

 いつも以上に力のこもった、文字通り蛇のような執拗な絡みつき。


 駅を降り、学校への道を進む間も、彼女は一分一秒たりとも私を離そうとはしなかった。


 そして、運命の校門。

 そこには、昨夜の懸念が的中したと言わんばかりの、呆れたような表情を浮かべた優花里さんが立っていた。


「おはようございます、伊藤先輩」


「……おはよう、美山さん」


「おはようございます」


「おはよう、後藤さん」


「ねえ、サキちゃん」


「ん?」


 優花里さんが事務的に、けれどどこか棘のある挨拶を返した、その直後だった。

 鏡子ちゃんの呼びかけに振り向いた刹那。


「――チュッ」


 短い、けれど確かな感触が私の唇を塞いだ。


「えっ……!?ええ〜〜〜!」


 周りの生徒たちからは、髪の毛に隠れ、仲の良い二人が顔を覗き込んで内緒話でもしているように見えただろう。


 けれど、正面に立つ優花里さんからは、それが何であるか――鏡子ちゃんがわざと見せつけるように行った「接吻」であることが、はっきりと見えていたはずだ。


「な……な……っ」


 あの沈着冷静な優花里さんが、目を見開き、絶句してうろたえだす。


 わたしの頭も真っ白だ。いくらなんでも、校門の、しかも風紀委員長の目の前で!?


 鏡子ちゃんは、動揺する優花里さんに向けて、冷徹で挑戦的な視線を突き刺した。

 それは言葉以上に雄弁な、「サキちゃんはわたしだけのものだ」という宣戦布告だった。


「行こう、サキちゃん」


「へ……、はい……」


 呆然と立ち尽くすわたしを、鏡子ちゃんは勝利者の足取りで校舎へと引きずっていく。


 背後から突き刺さる優花里さんの視線が、熱を帯びて燃え上がっていくのを感じながら、私はただ、この二学期がとんでもない修羅場になることを確信していた。


 「き、鏡子ちゃん! さっきの、あれは……っ!?」


 教室へ向かう廊下、周囲に人がいないのを確認して、やっと意識が戻ったわたしはたまらず声を上げた。    

 心臓のバクバクが全然収まらない。


 「え? わたし、サキちゃんとくっつきたかったから」


 鏡子ちゃんは、まるで「今日のお弁当おいしいね」とでも言うような平然とした顔で答えた。


 「くっつきたかったからって、あ、あれは……! しかも、こ、校門で……風紀委員長の目の前でだよ!?」


 わたしの混乱をよそに、鏡子ちゃんはにっこりと、天使のような(中身はともかく)笑顔を浮かべる。


 「サキちゃん、昨日わたしのこと大好きって言ってくれたよね? 嫌いにならないって言ってくれたよね?」


「そ、それはそうだけど! でも、人前でああいうのは……」


「え〜。人がいてもいなくても、わたしたちの気持ちは変わらないんでしょ?」


「そ、それはそうだけどさぁ……学校だよ?」


「どこにいても気持ちは変わらないんだよね?」


「そ、そうだけど……」


 正論(?)をぶつけられ、言葉に詰まる。鏡子ちゃんの瞳には、一点の曇りもない狂気……いや、純愛が宿っていた。


 「だから、サキちゃんへの気持ちを、わたしもストレートに形に出したかったんだ。それとも、あの女——伊藤先輩に見られるのは嫌だった?」


 ドキリとした。彼女の視線が、私の心の奥底を見透かすように鋭くなる。


「……そ、そうじゃないよ。でも流石に学校では……人前だし」


「うん、分かった。学校では(なるべく)やめておくね」


「う、うん。お願いだよ……」


 ようやく約束を取り付けてホッとしたのも束の間、鏡子ちゃんは私の耳元に顔を寄せた。


「サキちゃん」


「ひっ!な、なに?」


「だ〜いすきだよ〜!」


「ひゃうんっ!?」


 これまでにない力強さで、ぐいっと腕を絡め取られる。


 昨日「右腕は鏡子ちゃん用の腕」だと認めてしまったせいか、彼女のホールドは以前にも増して強固になり、もはや骨が軋むほどだ。


 (……鏡子ちゃんと仲直りできて嬉しいけど、これ、前よりパワーアップしてない!?)


 学校生活が再開した初日から、唇を奪われ、腕を封じられ。

 わたしは鏡子ちゃんの「愛」という名の重力に引きずられながら、昨日とは違う意味での冷や汗を流していた。


 その頃、校門では――。


 一人残された優花里さんが、目の前でわたしの唇が奪われた感触を脳内で再生し、震える拳を握り締めていたことを、わたしは知らなかった。


 ただ、絶対激怒してるだろうな、とは思っていたけれど……一体わたしどうなっちゃうの?!

とうとう実力行使に出た鏡子。

あたふたするサキに優花里の対応は?

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