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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第3章 一年の二学期

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鏡子ちゃん!!

 少し時間を巻き戻して当日の朝。


 重い体を引きずるようにして一階へ降りたけれど、そこに鏡子ちゃんの姿はなかった。

(……昨日、あんなに強く怒っちゃったから、顔を合わせにくいのかな?)


 家には来づらいから、駅で待ってるのかな?と、駅へ向かったが、早朝練習の茜はもちろん、鏡子ちゃんも現れなかった。


 RINEを送ってみても、既読すらつかない。

 不気味なほどの静寂に胸がざわつく。


『今駅だけど、先に学校行くね』と一言だけ送信し、わたしは一人で電車に乗った。


 駅から学校への道を歩きながら、ふと気づく。


 一人で登校するなんて、入学以来初めてのことだった。

 いつも隣にいたはずの、あの少し重いくらいの体温がないだけで、景色がどこか色褪せて見える。


 校門が近づくと、優花里さんの姿が見えてきた。

 今日も凛とした立ち姿で生徒たちを検閲している。昨日、わたしにメイド服を着せ、帰り際に腕の中でメソメソと泣いていた人とは、到底思えないほどの威厳を放っている。


 優花里さんはわたしの姿を認めると、一瞬だけ驚いたように目を見開いた。


「おはようございます、伊藤先輩」


「……おはよう、美山さん。あら?後藤さんは……一緒ではないの?」


「はい、ちょっと色々あって……。後で連絡します」


「そう、わかったわ」


 優花里さんは事務的に答えると、すれ違いざま、わたしの耳元に顔を寄せた。

「サキ、愛してるわ」


(っ!?) まさか、こんな衆人環視の校門前で囁かれるなんて! 心臓が跳ね上がり、顔がカッと熱くなる。

 そんなわたしを見て、優花里さんはイタズラっぽく微笑んでスッと離れていった。


 昇降口から教室に入ったけれど、もちろん鏡子ちゃんの席は空席のまま。


「鏡子、今日休み? 珍しいね、昨日は普通に元気そうだったのに」と朝練終わりの茜も首を傾げている。

 彼女ですら、鏡子ちゃんから何も聞いていないらしい。


 わたしは休み時間、優花里さんにRINEを送った。

 鏡子ちゃんがいない今、ホームルーム中や授業中に限定して、スマホを見るのを躊躇う必要はない。


『実は昨日、鏡子ちゃんがあまりに酷い言い方をしたので、わたしが怒ってそのまま家に入っちゃったんです。それから連絡もなくて、今日は学校も欠席したみたいで……』


 優花里さんのことを「泥棒猫」呼ばわりしたとは、流石に書けなかった。

 すると、すぐに返信が届く。


『それで、サキはどうしたいの? そのままにしておきたいの? それとも、仲直りをしたいの?』


『もちろん、彼女と仲直りしたいです』


『それなら、サキなら放課後どうしたらいいか、分かるでしょう?』


 優花里さんからの文面に、ハッとさせられた。

 そうか。鏡子ちゃんが来ないなら、わたしが行くしかないんだ。

 昨日あんなに突き放してしまったけれど、彼女はわたしにとって、かけがえのない親友なのだから。


「優花里さん、ありがとう……」


 わたしは覚悟を決めた。放課後、鏡子ちゃんの家へ行こう。

 二人の間に立ち込めるこの「黒い瘴気」を、今度はわたしが払いに行かなきゃ。


 放課後、わたしは慣れ親しんだ道を通って鏡子ちゃんの家へと向かった。

 何度も通った幼馴染の家だ、地図なんていらない。


 角を曲がるたびに、昨日突き放した瞬間の彼女の背中がフラッシュバックして胸が痛む。


 インターホンを鳴らすと、鏡子ちゃんのお母さんが出てきた。


「あら、サキちゃん、ごめんなさいね。お見舞いに来てくれたの?」


「はい、鏡子ちゃんが学校を休んで心配だったので……」


「それがね、昨日から部屋に閉じこもって出てこないの。食事はドアの前に置いておけば少しは食べているみたいなんだけど……学校で何かあったか知ってる?」


「ああ、いえ。学校では特に何も……」


 おばさんの不安そうな顔を見て、わたしは決意を固めた。


「おばさん、鏡子ちゃんの部屋に、お邪魔してもいいですか?」


「もちろんよ。でも、もし鏡子が出てこなかったらごめんなさいね」


 階段を上がり、鏡子ちゃんの部屋の前に立つ。

 かつて何度も一緒にゲームをしたりアニメを観たりした、大好きな親友の部屋。

 そのドアを、わたしは静かにノックした。


「鏡子ちゃん。……今日、欠席だったから心配で来たんだけど、大丈夫? 体調はどうなの?」


 返ってきたのは、消え入りそうな、けれど棘のある声だった。


「サキちゃん……ほっといてよ。もう、わたしのことなんか嫌いになったんでしょ? どうせ沙有里先生に様子を見てきてって言われてきたんでしょ?」


「そんなことないよ! わたしが、自分で心配だったから来たんだよ!」


「うそ……。わざわざ嫌いになった人のところに来て、何がしたいの? わたしは……わたしはサキちゃんに嫌われて……もう、やだ……っ、やだよ……」

 部屋の中から、嗚咽が聞こえてくる。


「わたしが鏡子ちゃんを嫌いになることなんて、絶対にないよ。好きだからこそ、今ここにいるんだよ!」


「うそ! サキちゃんはわたしなんかより、伊藤先輩の方が好きなんだ!!」


 言葉に詰まった。確かに二人とも好きだ。けれど、その「好き」のベクトルは全く違う。


「鏡子ちゃん、聞いて。わたしは昨日、鏡子ちゃんが伊藤先輩のことを悪く言ったから怒ったの。でも、それは鏡子ちゃんを嫌いになったからじゃない。鏡子ちゃんには他人を悪く言わないで欲しいの。それに今まで伊藤先輩と鏡子ちゃんを比べたこともないよ。わたしは鏡子ちゃんが好き。本当に、大切で、代わりのいない親友だと思ってるよ」


「……だって、サキちゃんは昨日だって、わたしに隠れてどっか行っちゃうし……!」


「鏡子ちゃん、それははっきり言うけれど、わたしも、鏡子ちゃんも、もう高校生なんだよ。お互いを尊重して、信じることも大切なんじゃないかな?」


「いやだ! わたしはサキちゃんの全部を知りたいの!サキちゃんの全部が欲しいの! 信じたいけど、サキちゃんは……」


「でも、これだけは言わせて! わたしは本当に鏡子ちゃんのことが好き、大好きだよ! だから今朝も、初めて一人で学校に行って、すごく寂しかった。いつも当たり前に横にいてくれる鏡子ちゃんの大切さを、改めて知ったんだよ!」


「……そんなの、これから一人で登校してたら、すぐ慣れちゃうよ」


「慣れないよ! わたしは一人で登校するのになんて、一生慣れないよ! 小学校から高校まで、ずっと鏡子ちゃんと一緒に登校して、一日中一緒にいたんだもん! そんな親友がいなくなって、慣れるわけないでしょ! わたしは鏡子ちゃんが大好き! だからまた一緒に登校したい! ずっと一緒にいたいの!」


 呼吸を整え、わたしはトドメの一言を放った。


「……また、鏡子ちゃんと腕を組んで登校したいな。今日、わたしの右腕……余っちゃって寂しかったよ。この腕は、鏡子ちゃん専用の腕だから」


「…………」


「じゃあ、また来るね。元気になったら、また一緒に登校しよう。大好きだよ、鏡子ちゃん」


 背を向けて階段へ歩き出した、その時。 「――ガチャッ!」と、勢いよくドアが開く音がした。


 振り向くと、そこにはボロボロの鏡子ちゃんが立っていた。

 髪はボサボサ、肌は荒れ、目の下には深いクマ。自慢の可愛い顔が台無しだ。心なしか自慢の胸まで小さくなった気がする。


「サキちゃん……。本当に、わたしのこと、嫌いじゃない?」


「もちろんだよ。大好きだよ、鏡子ちゃん」


 彼女は弾かれたように走り寄り、思い切りぶつかってきた。

 その勢いでわたしは床に倒れ込んでしまう。

「サキちゃん、来てくれてありがとう……! わたしも、サキちゃんのことが大好き! 愛してるよ……っ!」


 わたしの上に覆い被さった鏡子ちゃんが、ぎゅっと強く抱きしめてきた。


  その瞬間、優花里さんの凛とした顔が一瞬だけ脳裏をよぎったけれど、今はそれを頭の片隅に追いやった。


「鏡子ちゃん、わたしも大好きだよ……」


 わたしは壊れ物を抱くように、彼女の体をぎゅっと抱きしめ返した。


すぐに仲直りできた二人。

しかし何となく好きの方向性が微妙にずれていますが、それがこのあとどうなってくるのでしょうか……?

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