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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第3章 一年の二学期

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さすが優花里さん!!

 二学期の始業式の朝がやってきた。


 昨夜の優花里さんとの電話で少しは心が定まったはずなのに、胃のあたりが妙に重い。

 早めに起きてリビングへ降りると、そこには当然のような顔でコーヒーを飲む鏡子ちゃんの姿があった。


 もう、二学期の初日から「デフォルト」なのね……。


 「サキちゃん、おはよう。二学期もよろしくね!」


 ひらひらと笑顔で手を振ってくる鏡子ちゃん。

 その無邪気な笑顔の裏に、数時間後に校門で優花里さんに宣戦布告する決意が隠れていると思うと、わたしの返事も自然とぎこちなくなる。


 「お、おはよう、鏡子ちゃん。こ、こちらこそ、よろしくね……」


 食事中、鏡子ちゃんは夏休みの思い出や新学期の予定を熱心に話しかけてくるけれど、これからの波乱を予感しているわたしは、どうしても言葉少なになってしまう。


 そして、家の門を出た瞬間のことだった。


 ガッシリ!


「……っ!?」


 案の定、蛇が獲物を捕らえるかのような、鏡子ちゃんの力強い「マーキング抱擁」がわたしの腕に絡みついてくる。

 二学期になっても、彼女の独占欲は夏休み以前よりも強くなっている様だ。


 駅で茜と合流すると、彼女は「あーあ、夏休み終わっちゃったね。部活ばっかりだったよー」と、いつもの調子で夏休みの愚痴をこぼし始めた。

 茜の屈託のない話を聞きながら歩く道すがら、鏡子ちゃんは時折、校門の方を見据えて不敵な笑みを浮かべている。


 (ああ、もうすぐだ……。優花里さんの待つ、運命の校門が……!)


 通学路の角を曲がると、私立雲乃伊戸女子高校の重厚な校門が見えてきた。

 その校門の左右に、風紀委員の面々を従えて、背筋をピンと伸ばして生徒たちを検閲する、凛々しき風紀委員長・伊藤優花里の姿があった。


 「……いたわね」


 鏡子ちゃんが、わたしの腕を掴む力を一段と強める。痛た……これも一学期と同じだよ……


 「サキちゃん、後ろにいて。わたしがあの人に、ハッキリと言ってあげるから」


 (優花里さん……! どうか、どうか穏便に……!)


 一歩、また一歩と、わたしたちは戦場(校門)へと近づいていく。

 優花里さんの鋭い視線がこちらを捉えた瞬間、彼女の唇の端が、ほんのわずかに、優雅に弧を描いた。


 校門の前。張り詰めた空気の中、凛とした声が響いた。


 「おはよう、美山さん、後藤さん、金石さん」

 (あれ? 優花里さんが茜の名前を呼んだ……?)


 いつもは「お友達」括りだったはずなのに、初めて名前を呼ばれたことに驚きつつ、わたしは震える声で返事をした。


「お、おはようございます。ゆ……伊藤先輩」


「おはようございまーす!」

 茜が能天気に返す横で、鏡子ちゃんがわたしの腕を掴んだまま一歩前へ踏み出す。


「その前に、伊藤先輩。ちょっとよろしいですか?」


「何なのかしら? 後藤さん」


 来た!!優花里さんは、氷のような微笑を崩さずに鏡子ちゃんを見据えた。


「先輩は昨日、美山さんの自宅にお電話をされたそうですが、それはどうしてなんのでしょうか?」


 直球すぎる問いに、心臓が跳ね上がる。優花里さんは、一瞬だけ、わたしの方をちらっと見た。

 その瞳には、昨夜の電話で見せたあの慈愛の色が微かに混ざっている気がした。


「ああ、美山さんね。……一学期にわたしが厳しく注意しすぎてしまった生徒には、個別に連絡を差し上げたのよ。長い休み明けに不登校になる生徒は多いから、わたしの指導が変にプレッシャーになって、二学期から足が遠のいてしまうのは申し訳ないでしょう? だから、一学期までのことは気にせず登校するように、ね」


「あ、それでうちにも連絡があったのか……!」

 茜がポンと手を叩いた。彼女もわたしほどではないが、廊下を走ってよく優花里さんに捕まっていたのだ。

 

「え? そうなの……?」


 鏡子ちゃんの顔に困惑が走る。

「後藤さんには、一度も注意するようなことがなかったから連絡はしなかったのよ。……それが何か?」

 

「ぐっ……!」

 言葉に詰まる鏡子ちゃん。そのショックからか、わたしの腕への締め付けがギリギリと強くなる。痛い、痛いよ鏡子ちゃん……!何でわたしに八つ当たりなんだよ。


「……そうだったんですね。すみません、失礼します!」

 完全に毒気を抜かれた鏡子ちゃんは、悔しそうにわたしを引っ張って校門をくぐった。


 わたしはたまらず後ろを振り返り、優花里さんを見た。す

 ると彼女は、他の誰にも見えないような速さで、わたしにだけ優しくウインクを返してくれたのだ。


(……すごい。あの電話のあと、すぐに学校へ行って名簿を調べ直したんだ。そして、わたしの嘘を『真実』にするために、わざわざ他の注意の多かった生徒の家にもフォローの連絡を入れたんだ……)


 今の時代、個人情報の管理は恐ろしく厳しい。それを学校側と交渉し、一晩で形にしてしまうなんて。

 (ありがとう、優花里さん。やっぱりあなたは、わたしなんて足元にも及ばない、本当にすごい人です……!)


 わたしは心の中で、彼女に向かって深く、深く手を合わせた。


 教室に入り、クラスメイトたちと「おはよう」「二学期もよろしくね」と挨拶を交わす。


 けれど、わたしの腕にがっしりと蛇のように絡みついている鏡子ちゃんに対して、もはや誰も違和感を抱いていない。

 この光景は、もはやこのクラスの「日常」の一部として受理されてしまっているらしい。いいのかな?


 わたしが自分の席に座っても、鏡子ちゃんは隣で立ったまま、まだ怒りが冷めやらないといった様子で眉間にしわを寄せていた。


「……あの女……っ」

(あ、あの女って……鏡子ちゃん、それはさすがに言い過ぎだよ!)


 心の中では鋭く突っ込んだけれど、今の彼女の覇気に押されて、どうしても声には出せなかった。

 

 もしこの場面を優花里さんが見ていたら、「ちゃんと注意しなさい、サキ」なんて凛とした声で嗜められるんだろうな……なんて妄想が頭をよぎる。


ごめんなさい優花里さん、まだその勇気は持てていないんです……


「鏡子、そんなに気にすることないんじゃないの? 二学期から廊下走ったりしなきゃいいんだし、ね?」

 茜が、いつもの軽い調子で鏡子ちゃんの肩をポンポンと叩いた。


「サキが注意されてたのも事実だしさ。風紀委員長さんも、わざわざフォローの電話までくれるなんて、案外いい人なのかもよ?」


「そ、そうそう!伊藤先輩って怖そうだけど、実はいい人なんじゃないかな!」


 わたしもフォローを入れる。


「……サキちゃん、茜、あなた達は何も分かってないよ」

 鏡子ちゃんが、地を這うような低い声で呟く。


「あの女は……絶対に、ただの『親切』でそんなことをするようなタマじゃない!サキちゃんを自分のものにしようとする、底知れない執念を感じるのよ……」

(うっ……! それ、執念の塊の鏡子ちゃんが言うか……超特大ブーメランが刺さってるよ)

 

 当の優花里さんは、今ごろ校門で優雅に生徒たちを捌いているはずだ。


 昨夜のわたしの「嘘」を「真実」に書き換えてくれた彼女の、あのあまりにも鮮やかな手腕を思い出す。


 やっぱりあの人には敵わないよね。

 わたしをこんなに好きでいてくれているのが不思議なくらいだよ。と、改めて考えるのであった。


 朝のホームルーム。先生の話が右から左へと抜けていく中、わたしは机の下で必死にスマホを操作した。優花里さんへの、ありったけの感謝を込めて。


『本当にありがとうございます! 優花里さんはわたしの女神です! 迷惑をかけてしまって、申し訳ありませんでした。優花里さん大好きです!』


 送信ボタンを押すと、いつものように即座に既読がつき、返信が返ってきた。


『サキのためなら何でもするわ。あなたはもう、これ以上気に病むことはないのよ』


(ああ……! 本当に女神様だ。優花里様、一生あなたについていきます、いや! ついていかせてください……!)


 全細胞が優花里さんへの忠誠を誓い、わたしがスマホの画面を拝むようにして悦に浸っていた、その時。


「美山さん。……美山さん?」


「ん……?」


 どこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、ハッと顔を上げた。

 教壇では、担任の沙有里先生が眼鏡の奥の瞳をスッと細めて、こちらをじっと見ていた。


「あなた、ホームルームが始まってからずっと下を向いていたけれど……。そんなに自分の脚線美に見惚れていたのかしら?」


「えっ!? あ、いや……あの」


 ドッと教室中に笑いが起きる。


 隣の席の茜は「サキ、顔真っ赤だよ〜!」とわたしの肩をボンボンと叩いてくるけれど、それどころじゃない。

 優花里さんへの愛のメッセージを打っていたなんて、口が裂けても言えない!


 「あなた、二学期の初日から、ずいぶん余裕があるようね。後で提出物のチェック、一番厳しく見てあげるわ」


「うぅ……すみません……」

(ふふふ、だが!課題は完璧なんだよ!!)


 沙有里先生の冷ややかな冗談に縮こまりながら、わたしはふと視線を感じて斜め前を見た。


 鏡子ちゃんがこちらを見ていた。


 彼女は笑うことも、茶化すこともなく、ただ無表情でじっと、わたしの顔を射抜くように見つめていた。

 (……やばい。絶対、誰かと連絡取ってたのバレてるよ……!)


 鏡子ちゃんの瞳には、朝の校門での敗北をきっかけに、より鋭く、より深い「執着」の光が宿っているように見えた。


 ホームルームが終わり、1限目までの短い休み時間。


 わたしは冷たい気配を感じ、目を上げると、そこには光の消えた瞳でこちらをじっと見つめる鏡子ちゃんの姿が……


「ひいっ!」こ、怖い。


「サキちゃん、スマホ……やっぱり二人で認証解除共有しない……?」


「いや、しないよ!! わたしにプライバシーは無いのかよ!!」


 わたしの即答にも、鏡子ちゃんの表情はぴくりとも動かない。

「だってサキちゃん、時々スマホ見て笑ってるよね……。何を見てるのかなって、すごく気になるから」


「いや、それぐらい何見ててもいいでしょ!!動画だよ!動画!」


「わたしはサキちゃんが見ているもの全部知りたいんだけど」


「そ、そんな知ってどうするの!?」


「そうだよ鏡子、スマホは個人のもの……ひいっ!」


 助け舟を出そうとした茜は、鏡子の首がギチギチと音を立てるような勢いで自分の方を向いた瞬間、悲鳴を上げた。


「茜ちゃん……何か言いたい事あるのかな……?」


「ご、ごごごごめんなさい! な、何もないですっ!」


(鏡子ちゃん、また怖い顔してるんだろうな……茜ってビビりなんだから、やめてあげてよ……折角フォロー入れてくれたのに……茜、ごめん!)

一難が去りましたが、さらにヤンデレ度合いが強くなってしまった鏡子。

二人の間に挟まれたサキの苦難はまだまだ続きます。

折角美人二人に好かれているのにありがたみがないですね。

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