優花里さん、ごめんなさい!!
「サキちゃん、元気出して!わたしが明日あの女にガツンと言ってやるからね!だから心配しないで!」
いやいや、それが心配で元気なくなっちゃってるんだよ……
鏡子ちゃんはそう言い残して、満足げにわたしの家を後にした。
玄関のドアが閉まった瞬間、わたしはその場にヘナヘナと座り込んでしまった。
どうしよう。明日のことを優花里さんに連絡しておいた方がいいんだろうか?
でも、鏡子ちゃんが家に来ていたことは、優花里さんには内緒にしている。
それどころか、昨日は「家族とお出かけしている」なんて嘘をついてしまったのだ。
一度嘘をつくと、それを隠すためにまた新しい嘘を重ねなきゃいけない。
まさに今のわたしが、逃げ場のない泥沼にハマっている。
(正直に二人にすべてを話したら、間違いなく両方から刺されてバッドエンドだよね……)
でも、このまま黙っているのはもっと恐ろしい。
せめて、鏡子ちゃんが明日喧嘩をふっかけて、優花里さんを怒らせようとしているのだけは、事前に伝えておくべきじゃないだろうか。
それが、嘘を突き通し続けてしまったわたしから優花里さんへの、せめてもの「謝罪」代わりになるはずだ。
わたしはスマホを取り出し、RINEではなく、直接電話をすることにした。
プルル――「はい」
コールはたったの一回。驚くほどの速さで、凛とした懐かしい声が耳に届いた。
「あら、サキ。お電話嬉しいわ。どうしたの?」
「あ、あの……優花里さん……。実は……」
わたしは、鏡子ちゃんが家に来ていたこと、そして優花里さんからの電話の伝言を聞いて「なぜわたしの家に直接連絡が来るんだ」と、彼女が激しく怒ってしまったことを正直に話した。
「それで……優花里さんには本当に申し訳ないんですが、一学期にわたしがよく注意されていたから、名前を覚えられていて……二学期からは気をつけなさいという指導の連絡が来たと、嘘をついてしまいました。……そしたら彼女、明日朝の校門で、優花里さんに文句を言うと言い出して……」
受話器の向こうで、わずかな沈黙が流れる。心臓の音がうるさいほどに響く。
「サキ……。わたしは前に、出来ないことは出来ないと伝えるようにと話したわね?」
「……はい」
「それは、わたしや後藤さんへ、嘘をつかないという意味も含んでいるのよ」
「……はい……っ」
「だから、今回はあなたが嘘をついたから、こういう結果になったのよ」
「はい……っ、ごめんなさい……本当にごめんなさい……っ!」
厳しくも、真っ当な指摘に言葉が詰まる。情けなさと申し訳なさで、視界がじわりと滲んできた。
「でも……あなたは今、それを反省して、わたしに本当のことを言ってくれたのよね?」
「……はい……っ」
「分かったわ。この件は、わたしの方で明日の対応を考えておくわ」
「優花里さん……っ! 本当に、ごめんなさい……!」
ついに、堪えきれずに涙が溢れ出した。
自分が嘘をついて迷惑をかけたのに、それを諭した上で、すべてを受け止めて対応を引き受けてくれる優花里さんの懐の広さ。
それに比べて、嘘ばかりついて彼女を振り回してばかりいる自分の情けなさが、胸を締め付ける。
「ゆ、優花里さん……っ、ありがとうございます……」
「相変わらずの泣き虫ね、サキ。大丈夫、心配しないで」
「はい……っ」
「でも、これからはこういうことは早めに教えてね?」
「はい、分かりました……っ! 優花里さん? 本当にありがとうございます……っ。あなたが恋人で、本当によかったです……!」
少しの間をおいて、優花里さんの声がふっと和らいだのがわかった。
「そうね……。わたしもよ、大好きなサキ」
「はい……ありがとうございました。失礼します。また明日校門で、おやすみなさい」
「さようなら、おやすみなさい。サキ」
わたしはそう言って電話を切った。
もう、優秀な優花里さんの機転に任せるしかない。
自分の未熟さを痛感しながらも、彼女への愛おしさと信頼が、不安だった心に温かな灯をともしてくれた。
夏休み最後の夜。嵐の予感は消えないけれど、わたしは彼女を信じて、明日を迎える決意を固めた。
正直に話したサキへの厳しくも優しい優花里の返答でした。
2人の対決はどうなるのか?




