これは大切な事なんだよ!!
暗闇の中、「サキちゃんの匂いがする……クンクン、すーはーすーはー、いい匂い……」という、深夜アニメの変態キャラのような声が聞こえてきた気がするけれど、きっと幻聴だ!絶対にそう思いたい。
「ねえ、サキちゃん……」
「は、はいっ!?」 変な声が出てしまった。
「わたしね、本当にサキちゃんと知り合えて幸せだって思うんだ」
「鏡子ちゃん……」
「だって、サキちゃんのお世話をしたり、お話ししたり……もう、それがすごく楽しくて」
「鏡子ちゃん、ありがとう」
「ううん、わたしの方こそサキちゃんにありがとうだよ。だから、高校も一緒のところに行けて本当に嬉しかったんだよ」
鏡子ちゃんの声は、いつになく真剣で、どこか切なげだった。
「うん、わたしも鏡子ちゃんと同じ高校に行きたいと思ったから、受験頑張ったんだよ」
「サキちゃん……! 嬉しいよ、大好きだよ、愛してるよ」
(ん? 愛? ……まあ、深すぎる友人愛ってことかな?)
「うん、わたしも大好きだよ、鏡子ちゃん」
そう答えた、次の瞬間だった。 ドサッ! という鈍い音と共に、ベッドから転げ落ちるようにして鏡子ちゃんがわたしの布団へ滑り込んできた。
「うわぁっ! びっくりしたぁ!」
「……はぁ、はぁ……」
暗闇の中、狭い一枚の布団。 互いの吐息がすぐそばで聞こえ、彼女の肌から立ち上る熱気が、Tシャツ越しにもはっきりと伝わってくる。
「サキちゃん、キスして」
(……わたしさっき『節度ある友達』って言ったよね?)
喉まで出かかったツッコミを飲み込み、わたしは混乱する頭で、彼女の柔らかい頬にちゅっと触れた。
「サキちゃんー! おくちー!」
もう彼女のIQは、測定不能なレベルまで低下している。
ただ、逆らえば何が起きるかわからない。
わたしは観念して、彼女の唇にそっと自分のそれを重ねた。
「……んっ……!」
途端、ぎゅーーーっ!! と、骨が鳴るほどの力で抱きしめられる。
「ぐぐ……き、鏡子ちゃん、苦しい……っ」
「あ、ごめんね。つい、嬉しくて……」
鏡子ちゃんは腕の力を少しだけ緩めると、今度は自分の方から、深く、熱く唇を重ねてきた。
彼女の体温がどんどん上がっていくのを感じる。 スケスケのランジェリー越しに触れ合う肌が、火傷しそうなほど熱い。
そのまま抱き合ったまま、驚くほど長い時間、唇を重ねた。
(……んん!? なんか長くない!?)
肺の空気が足りなくなり、慌てて顔を離そうとすると、鏡子ちゃんの顔が磁石のように追いかけてきて離してくれない。
「んんっ……ふぁ……っ」
わたしがジタバタともがいていると、ようやく、ぷはっ! と音がしそうな勢いで顔が離れた。
暗い部屋の中。カーテンの隙間から差し込む街灯の光で、鏡子ちゃんの顔が火照ったように赤くなっているのが想像できる。
「き、鏡子ちゃん……」
「なあに、サキちゃん?」
吐息は熱く、甘い。このままでは間違いなく「一線」を越えて更なる深淵(物理)に引きずり込まれる。 わたしは土壇場で、ある作戦を閃いた。
「じゃ、じゃあ今日は……こうやって抱き合って寝ようか?」
「えーっ! いいの? 嬉しいー!」
あえてこちらから懐に飛び込むことで、それ以上の進展(主に脱衣とか、さらなる接触とか)を封じる防衛的抱擁作戦だ!
「サキちゃん、大好きだよ」
「う、うん、わたしもだよ」
「もう! サキちゃん、しっかり言ってよ〜!」
「は、はい! 鏡子ちゃん、好きだよ……!」
「うん! 嬉しい! わたしもだよ!」
鏡子ちゃんは歓喜の声を上げると、わたしのささやかな胸に顔を埋めてきた。
わたしも、覚悟を決めて彼女の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。
(そうそう、こういうのでいいんだよ。健全(?)な友情のスキンシップだよね……)
「サキちゃん」
「ん? なに?」
すると、鏡子ちゃんはモゾモゾと身体を上の方へずらしていき――。
次の瞬間、わたしの視界から光が消えた。
「えっ、むぐっ……!?」
鏡子ちゃんが、その豊かな西瓜でわたしの顔を挟み込み、さらに頭を両腕でぎゅーっと抱きしめてきたのだ。
(んん〜! あったかくて、柔らかいけど……息ができない〜!!)
「サキちゃん、だ〜いすき! わたしの胸で挟んであげるのは、サキちゃんだけだよ♡」
(だからって、友達を胸で挟むのか!? い、息が……死ぬ!窒息死する……っ!)
じたばたともがくけれど、鏡子ちゃんの腕の力は驚くほど強い。
鼻も口も柔らかな弾力に埋もれ、酸素の供給が完全にストップする。
(んん〜! あ、あ、気が遠くなってくる……ある意味幸せ……なんだろう……けど……)
暗闇と、石鹸の香りと、圧倒的な質量の「愛」。 わたしの意識は、ランジェリー姿の親友の胸の中で、静かに、そして幸福に(?)遠のいていった。
そのままわたしは、意識を失ってしまった。
ーーー
気がつくと、目の前を緩やかな川が流れていた。
対岸には見たこともないほど綺麗な花が咲き乱れていて、向こう岸で誰か綺麗な女の人が「こっちへおいで」と手招きをしている。
(ああ……なんか、あっちに行かなきゃいけない気がする……)
導かれるように川に足を踏み入れようとした、その瞬間。 目の前の対岸から西瓜が飛んできて、わたしにぶつかり、強引に後ろへと吹っ飛ばされた。
「……っはぁ!?」
そこで、パチリと目が覚めた。
夢だった。
どうやらわたしは「西瓜」によって三途の川の土手まで運ばれ、同じ「西瓜」の弾力によってこちらの世界に引き戻されたらしい。あやうくこの物語がここで完結するところだった。
「……ん、重い……」
頭の上に、ずっしりと重くて、けれど驚くほど柔らかい何かが乗っている。
手探りでそれを動かそうとして……指先に触れた質感で凍りついた。鏡子ちゃんの胸だ。どんだけ大きいんだよ! わたしの頭に乗っかるなんて。
わたしは這い出すようにして身体を上にずらし、鏡子ちゃんの顔と同じ高さまで移動した。
「……すー……すー……」
そこには、昨夜の猛攻が嘘のような、無防備で可愛い寝顔があった。
一時は永遠に眠らされてしまいそうだったけれど、この安らかな寝顔を見てしまうと、もう文句を言う気力も失せてしまう。
「優花里さんといい、鏡子ちゃんといい、優魅ちゃんも……。みんな、散々わたしを振り回してくれるんだから」
溜息をつきながら窓の外を見る。
カーテンの隙間から、薄紫色の光が差し込み始めていた。外は明るくなり出し、夏休み最後の日の朝がやってこようとしている。
鏡子ちゃんの寝顔を見たわたしはそのまま二度寝を決め込んだ。
……けれど、安眠は長くは続かなかった。
「ん……むぐっ……!?」
どれくらい寝ていたのだろうか。唇を柔らかい何かに塞がれる感触で目を覚ますと、視界いっぱいに鏡子ちゃんの顔があった。
(もう……昨日から胸で窒息させられたり口を塞がれたり、一瞬たりとも安心できないよ……!)
「おはよう、サキちゃん」
「お、おはよう。びっくりしたよ……心臓に悪いってば」
「えへへ、サキちゃんの寝顔を見てたら、どうしてもキスしたくなっちゃって」
まあ、いいけれど(本当は良くないけれど)。とりあえず「これ以上」に進展せず、キスだけで済んだことを幸運と考えるべきなんだろう。そう自分に言い聞かせないと、心の平穏が保てない。
(優花里さん、本当にごめんなさい!)
「あー……そういえば、夏休みも今日で終わりだね」
「そうだね。寂しいな」
幸い、今年の課題は7月中にすべて終わらせてある。
それも優花里さんと別荘で過ごす事を目標に済ませたからだ。鏡子ちゃんにも分からないところを教えてもらったりと、二人のお陰だ。感謝してもしきれない。ヤンデレには困るけれど。
それに、明日からは学校だ。
校門で風紀委員長として凛と立つ優花里さんに、毎日会える。
……鏡子ちゃんの蛇のような締め付けさえなければ、もっと心穏やかに登校できるんだけど。
その前に。
「……よし、着替えて朝ごはん食べようか?」
「うん、そうだね」
とにかく、一刻も早くこの心許ない「スケスケ・ランジェリー」から解放されたかったわたしは、光の速さで着替えた。
「あれ? 鏡子ちゃん……何でわたしのランジェリーまで、自分のカバンに入れようとしてるの……?」
「あ…あ、こ、これはね。うちで綺麗に洗って、大切に保管しておくからだよ」
まあ、家にあっても流石に着ないし、洗濯までしてくれるんならありがたいけど。
でも?
「ジッパー付きの保存袋に?しかも、なんでそんなに空気を抜いて真空パックみたいにしてるの?鏡子ちゃんのも一緒にまとめて袋に入れないの?」
「ダメだよ!サキちゃんのと一緒にしたら混ざっちゃうでしょ?そうなったら勿体無いし、匂いも無くなっちゃって困るから」
(う〜ん、そもそも色が違っていたから、混ざってもどっちのか分かるよね……ん?勿体無い?匂い?無くなる?)
鏡子ちゃんが「サキちゃん、これは凄く大切な事なんだよ!!」と真剣な表情で言うので、わたしはそれ以上追求するのをやめた。
良く分からないけど、まあ優等生の鏡子ちゃんがそう言うのなら大事なのだろう。
まあ、何はともあれ、あの呪いのようなランジェリーから物理的に解放された。
それだけで、肩の荷が下りたような、清々しい気分になれる。
「あ、そうそうサキちゃん、おばさんが今朝はフレンチトーストだって!サキちゃんが起きる前に聞いていたから」
「そうなの?フレンチトースト大好き!、行く行く!」
軽い足取りで階段を降りる。
夏休み最後の一日。このまま平和に、何事もなく終わって欲しい。
それが波乱だらけだった夏休みのせめてもの締めくくりだから。
サキのランジェリーをゲットした鏡子。
一体何に使うのでしょうか?
読者の方々の想像におまかせしますw




