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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第2章 一年の夏休み

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わたしの貞操防御大作戦!!

 夕食が終わり、食後のお茶の時間も過ぎると、ついに問題の「夜」が始まる。


  鏡子ちゃんに、まるでもう逃がさないと言わんばかりに、蛇のようにしなやかな動作で腕を絡みつかれ、自分の部屋へと連行される。


「サキちゃん、今夜はよろしくね♡」


「何をよろしくするんだよ……。♡ってなんだよ……」


 突っ込む元気すら削り取られたまま、わたしは自室の敷居を跨いだ。


 カチャリ。


「……ねえ、鏡子ちゃん。なんで部屋に入った途端、流れるような動作で後ろ手に鍵をかけるの?」


「ふふ、さあサキちゃん。これで誰も入ってこれないから。……着替えようぜ!」

 と、サムズアップの動作をする。


「ふふ、着替えようぜ!」じゃないよ! そんな明るくアメリカンジョークみたいに言われても、この格好は、お子様には見せられない格好なんだから!

 折角なろうの設定を全年齢対象にしてるのに、R15設定にしないといけないじゃん!!


「んん?設定?」


「何でもないよ!1人語りだよ!メタ発言を拾わないでよ!!」


 けれど、ここで抵抗しても結局は力ずく(あるいは光の消えた瞳)で脱がされるのが目に見えている。

 

 わたしは諦めて、震える手で例の「スケスケ・ランジェリー」を身に纏った。


 鏡の前で一瞬自分を見たけれど、あまりの破壊力(というか露出度)と、彼女と比べてあまりにも可哀そうな私の姿に正視できず、慌てて上から大きめの、ほのぼの系日常アニメ柄のTシャツを被る。

 これで少しは、ほのぼの演出、出来てるかな?出来てるといいな……。


「サキちゃん、上から着たら見えないよ?」


「だから着たんだよ! 今朝も言ったけど、女子高生二人がこんな格好で並んでるなんて、どこの痴女子校生だよ!!」


「でも、まだ時間も早いし……そんなに急いでランジェリー姿にならなくてもいいじゃない。ねえ?」


「えー、せっかくお揃いなのに……」


「ランジェリーはお揃いだけど、着用姿はお揃いじゃねえんだよ!!」


 鏡子ちゃんは不満げに頬を膨らませたけれど、わたしは必死に話題を逸らすべく、鏡子ちゃんにもアニメ柄のTシャツを着せ、テレビの電源を入れた。


  「ほら!鏡子ちゃん、 今日はのんびりアニメを観ようって約束したでしょ。折角ほのぼのした日常系の作品を用意したんだから!」


 ……けれど、現実は無慈悲だ。 Tシャツの下には、鏡子ちゃんからの「重すぎる愛(物理)」が潜んでいる。 画面の中では可愛い女の子たちが平和にティータイムを楽しんでいるけれど、こちらのティータイム(?)は、いつ鏡子ちゃんに押し倒されるか分からないチキンレース状態。


「……ねえ、サキちゃん。アニメもいいけど、こっち見て?」

 鏡子ちゃんの声が、いつもより一段と甘く、そして湿度を帯びて耳元に届く。


 ほのぼのアニメのBGMが、まるで遠い異世界の出来事のように感じられた。


 鏡子ちゃんが甘い吐息と共に至近距離まで詰め寄ってきたその時、静まり返った部屋に「ガチャガチャ!」とドアノブが激しく回る音が響いた。


「ねえ、お姉〜! 母さんが梨を切ったから持ってけってさー!」


  美嘉の緊張感のない声が廊下から聞こえる。


「もー、何で鍵かけてんのー? 早く開けてよー!」


「……チッ」

(えっ、鏡子ちゃん、今あからさまに舌打ちしなかった!?)


 鏡子ちゃんは一瞬で無表情になり、音もなくドアへと歩み寄ると、乱暴に鍵を開けて扉を引いた。


「あ、鏡子さん。これ、お母さんが……。ひ、ひーっ!!」


 こちらからは鏡子ちゃんの背中しか見えないけれど、対面した美嘉の顔が瞬時に土気色になり、半泣きの表情に変わるのが分かった。


 わたしは慌てて、妹をこの修羅場から逃がすべく声を張り上げた。


「み、美嘉! ありがとう! 置いておいてくれたらいいから、もう下に行ってていいよ!」


「ひい〜!ご、ごめんなさいー!」


 バタバタバタ! と、まるで猛獣から逃げる小動物のような足音が廊下に遠ざかっていく。

 再び「カチャリ」と鍵をかけ、こちらを振り向いた鏡子ちゃんは、何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべていた。


「サキちゃん、梨だって。美味しそうだね♡」


「も、もう鏡子ちゃん、やめてあげてよ……。流石に美嘉が可哀想だよ……」


「え? 美嘉ちゃん、どうしてあんなに急いで逃げていったんだろうね?」


(気付けよ!鏡子ちゃんの顔を見たからだよ!! その自覚のない圧のせいだよ!!)


 鏡子ちゃんは梨の皿を持ってわたしの隣に座ると、隙間なくピッタリと体を密着させてきた。

 Tシャツ越しでも、彼女の体温と「お揃い」のランジェリーの気配が伝わってきて、心臓が痛い。


「はい、サキちゃん。あーん♡」


 梨を爪楊枝で刺して、至近距離まで差し出される。


「……ねえ、鏡子ちゃん。わたしたちって『親友』だよね? なんか、最近その……距離感の近さが、宇宙の法則を無視してる気がするんだけど……」


「え? 友達同士なら、これくらい普通じゃないの?」


「だからそこがバグってるんだよー!」


 とりあえず、梨を「あーん」で無理やり食べさせられ、完食したところで、いよいよ就寝の準備へと入ることになった。


「鏡子ちゃんは、お客さん用の布団を敷いたわたしのベッドで寝ていいからね。わたしは床に布団を敷いたから、こっちで寝るよ」


 完璧な布陣だ。物理的な距離を置くことで、深夜の「事故」を未然に防ぐ。

 わたしのアニオタ脳が導き出した、もっとも安全なパーソナルスペースの確保……だったのだが。


「サキちゃん、わたし……サキちゃんがいつも使っているお布団で寝たいな♡」


「なんでだよ!! なんで友達の使い古した布団で寝たがるんだよ!何だよ♡って!!」


「じゃあ……サキちゃんとこっちで、一緒に寝ようかな?」

  鏡子ちゃんが、わたしの敷いた床の布団を指差す。


「余計になんでだよ!! おかしいだろ、それじゃ布団を分けた意味がゼロだよ!」

 もう、ツッコミすぎて喉が痛い。


「じ、じゃあ分かった! わたしの布団をベッドに敷き直すから、鏡子ちゃんはそっちで寝て。わたしは床のお客さん用布団で寝るから。……ね? これで許してよ!」


「許す……?」


「いやいや、なんでもない! とにかく、それでいいでしょ? わたしたちもう昔みたいに、小学生じゃなくて高校生なんだから、同じ布団に潜り込むなんて不自然だし」


「でも、せっかくお揃いのランジェリーなんだし……」


「いや、それ全っっ然関係ないよね!? なんでこういう時になると、いつもの冷静な優等生じゃなくなるの? 鏡子ちゃんのIQ、今一桁くらいまで下がってない?」


 わたしは彼女の両肩を掴み、真剣な眼差しで(必死に)訴えかけた。

「『本当に大好きで大切な』友達同士だからこそ、そういうところは、節度を持ってちゃんとしようよ」


 わたしの言葉を聞いた瞬間、鏡子ちゃんは動きを止めた。


「……サキちゃんが、わたしのこと……『本当に大好きで大切な』って……」


 小さな声でそう呟くと、彼女の顔がみるみるうちに輝き、本日一番の満面の笑みが咲いた。


「……うん! 分かったよ、サキちゃん! わたし、今日はこっちのベッドで一人で寝るね!」


(よ、よし……! チョロい……じゃなくて、納得してくれた!)


 とりあえずの平和が訪れたことに、わたしは心底安堵した。


 納得してくれたようで、鏡子ちゃんは嬉々としてわたしの使い古した布団へと潜り込んだ。


 そして、わたしはパチンと部屋の電気が消す。

サキの必死の作戦が奏功するのか?

まだ夜は続きます。

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