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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第2章 一年の夏休み

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入らねえよ!なんでだよ!!

 美嘉も鏡子ちゃんの「圧」を感じているのか、珍しく緊張した面持ちで、余計な失言もなく黙々と食べている。


 食べ終わったわたしたちは、後片付けを済ませて再び二階の自室へと戻った。


 「さあ……これからどうしようか?」


 この前のような「重すぎる百合作品」に当たって、鏡子ちゃんのスイッチが入るのは御免だ。

 わたしは事前にチョイスしておいた、健全で笑える系のギャグ作品を再生した。


 鏡子ちゃんとわたしは、ベッドの上で手を繋ぎ、肩が触れ合うほどぴったりとくっついて、画面の中のギャグに笑い転げる。


「あはは! サキちゃん、今の見た?」


「うん、めっちゃひどい顔だったよねー!」


 ああ、そうだよ。これがたぶん、本来の正しい友人関係なんだよ。


 ヤンデレだの、独占欲だの、蛇だの、ランジェリーだの……そういう不穏な要素をすべて忘れて、ただ笑い合えるこの時間が、どれほど貴重で幸せなことか。


 あれ鏡子ちゃんの不穏な要素ちょっと多くない?


 ただ、繋いだ手の温もりが心地よくて、わたしはほんの少しだけ現実逃避をしながら、この「偽りの平穏」に甘えていた。


 けれど、楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、窓の外は少しずつオレンジ色に染まり始めていた。


 夕闇が迫る。


 それは、あの「約束」の時間が一刻一刻と近づいていることを意味していた。

 わたしのスマホが、机の上で「ブッ」と一回、短く震えた。


 机の上で震えたスマホ。

 このタイミング、この絶妙な間隔……間違いなく優花里さんだ。


 画面通知はオフにしてあるから、鏡子ちゃんに内容を見られる心配はない。

 もし何か聞かれたら「またアニメートのメルマガだよ」とでも言ってごまかすつもりだ。

 

 もちろん、画面の角度は1ミリも彼女の方には向けない。


「鏡子ちゃん、先にお風呂に入っておいでよ。着替えとか、あっちに置いてあるから」


「ううん、サキちゃんから入りなよ。……『サキ』だけに!」

 (…………。ここ、笑うところなのだろうか……?)


 一瞬の静寂。鏡子ちゃんのシュールなギャグ(?)が部屋に虚しく響く。

 あ、冷房必要なくなったかも……


「ははは(愛想笑い)、いいよいいよ、鏡子ちゃんはお客さんなんだからさ、今回は先に入りなよ」


「うーん……でも、わたしはサキちゃんの後の方がいいんだけどな〜」


「……なんで?」


 まさか、残り湯をペットボトルに詰めたり、成分を分析したり、飲んだり(!?)しようとしてるんじゃないだろうな? 普通の人なら笑い飛ばせる妄想だけど、鏡子ちゃんだと100%否定しきれないのが怖い。

 この前のお泊まりも不審だったし。


「いいよ、先に入りなよ」


「う〜ん、じゃあ……一緒に入る?」


「入らねえよ! なんでだよ!小学生じゃねえんだよ!」


 思わず叫んでしまった。

 無理だよ! 鏡子ちゃんのあのダイナマイトな巨大西瓜スイカを間近で見ながら、自分のささやかな「正義」に劣等感を感じながら身体を洗うなんて、どんな苦行だよ!修行僧かよ!やだよ、わたしまだJKなんだよ!頭丸めたくないよ!


「わ、わかったよ。じゃあわたしが先に入るね。『サ、サキ』だけに(2回目)」


「いってらっしゃい」


 あ、わたしには愛想笑いも無いんだ……


 鏡子ちゃんは、一緒に入りたそうに、少し不服そうにしていたが、わたしはタオルと、見えないようにスマホを手に取り、部屋を出た。


 パタン、とドアが閉まる。


 わたしは廊下を歩きながら、スマホを手に取り、後ろを見て鏡子ちゃんが覗いてないのを確認してから、隠れるようにして画面を点灯させた。

 

『サキ。家族旅行は順調かしら? ……実はね、あなたの家の前を通る用事があったのだけれど、お家のガレージに車があるのを見かけたわ。何か忘れ物でもして、取りに戻っているのかしら?』


「ちょ!ちょ、ヤバっ!」


 ドクン、と心臓が跳ねる。

 優花里さんの「生存確認」は、もはや最新鋭のレーダー並みの精度だった。


「なんでだよ〜、うちの前を通る用事って〜、これって、わざわざ見に来たんだよな……」


 呟き、冷や汗を拭いながら、わたしは超高速でフリック入力を開始した。


 『前を通られたんですね! 実は今日は、父の提案で電車で出かけたんですよ!』


 即座に既読がつく。

『そうなの? でも、そちらの路線で何か事故が起こったみたいだけど、大丈夫だったかしら?』

(もー、なんでこんな日に限って……!)


 わたしは光の速さでニュースサイトをチェックした。

 あった!今の時間はもう微小な遅延のニュース。


 わたしは深呼吸して返信する。

『反対方向の電車だったので、全然大丈夫でした! ご心配ありがとうございます!』

『そう、それなら良かったわ。あなたやご家族が無事なら安心したわ。楽しんできてね』


 ……本当に優花里さんは、独占欲さえ除けば優しくて完璧な人なんだよな。


 洗面所の鏡に映る自分のニヤついた顔を見て、すぐに「嘘ついてごめんなさい!」と心の中で猛省した。


 風呂に入っている間に、スマホを鏡子ちゃんに見つけられないよう、洗濯物のカゴの奥底に隠してから、わたしはサッと風呂を済ませた。


 部屋に上がり、声をかけ鏡子ちゃんと交代する。


「お待たせ。ゆっくり入ってきてね」


「うん。待っててね、サキちゃん」


 今日も空のペットボトル(2.0L)を手に、ひらひらと手を振って出ていく鏡子ちゃん。

 こういう仕草だけは、本当に普通の可愛い女の子なんだけどな……。


 部屋で隠し持ってきたスマホを出し、RINEを確認する。優花里さんからは特に返信は来ていない。

 家族の時間を邪魔しないようにという、彼女なりの気遣いだろう。

 その優しさが、嘘をついているわたしの胸に深く突き刺さる。


 しばらくして、鏡子ちゃんが上気した顔で戻ってきた。

 その手には満タンのペットボトルが握られている。


「あれ? 鏡子ちゃん、そのペットボトルどうしたの?飲まなかったの?水道水」


「あ……け、結局、喉が渇かなかったから飲まなかったんだよ!」


「ははは、まさかお風呂のお湯飲んじゃったから、もうお腹いっぱいとか?」


「そそそ、そんな、こここ、ことが、あああある訳ないじゃない!!!!もう、さ、サキちゃんたら!!」


 そんな動揺しなくても……ほんの冗談だったんだけど……


 鏡子ちゃんは慌てた様子で、そのボトルを自分のバッグの奥深くへと仕舞い込んだ。

(……ん? 後で飲むのかな? )


「じゃあ、そろそろ夕食の手伝いに行こうか?」


「そ、そうだね、行こ行こ!」


 妙に聞き分けのいい鏡子ちゃんと共にリビングへ降りる。

 キッチンでは鏡子ちゃんが母と並んで楽しそうに料理を仕上げ、わたしと美嘉は並んで皿や箸をテーブルに並べた。


 表面上は、どこにでもある平和な家庭の夕食風景だ。


 鏡子ちゃんって独占欲と、ちょっと変態的なところがなければ綺麗だし、お胸もあって可愛らしく、頭もいい最高の友人なんだけどな……と、わたしはぼんやりと考えていた。


 夕食のメインディッシュはハンバーグだった。


「今日はわたしが腕を振るっちゃうね!」


 と、鏡子ちゃんが挽肉を一生懸命こねてくれたのだ。

 けれど、焼き上がってテーブルに並べられた皿を見て、わたしは固まった。


「……ねえ、鏡子ちゃん。これ、形が……」


「え? 何かおかしいかな?」


「う、ううん。何でもない」


 鏡子ちゃんは小首を傾げて微笑んでいるけれど、どう見てもわたしのハンバーグだけが、どうみてもハート型をしている。


 気のせいであってほしかったけれど、隣にある美嘉のハンバーグは無慈悲なまでに「ただの丸い塊」だ。


 大きさも違うし……


 美嘉が「何それ……」と言わんばかりの引きつった顔でこちらを見ている。

(そんな顔でこっち見んな! お前の言いたいことは分かってるんだよ! でも突っ込んだら負けなんだよ!)


 形はともあれ、味は文句なしに美味しかった。

 肉汁たっぷりで、ソースの味付けも絶妙。この独占欲の強すぎるヤンデレな性格さえなければ、本当にいいお嫁さんになるのにな……。


「鏡子ちゃんって料理もうまいし、絶対に将来いいお嫁さんになるよね〜」


 つい本音が漏れると、鏡子ちゃんの顔が一瞬で林檎のように真っ赤になった。


「えっ! そ、そうかな……? サキちゃんにそう言ってもらえて、わたし……すごく、すごく嬉しい……っ」


 鏡子ちゃんは潤んだ瞳でわたしを見つめたあと、なぜか隣に座っているわたしの母さんに向き直った。


「おばさん! これからも、どうぞよろしくお願いいたします!」


「あらあら、鏡子ちゃん、こちらこそよろしくねぇ〜」


 ……え、なんで母さんに挨拶してるの? それって、これからも度々泊まりに来るつもりだから?


 チラリと横を見ると、美嘉がこれ以上ないほど「嫌な予感しかしない」という顔をしていた。


(美嘉! 嫌な顔すると、こんな時だけ勘のいい鏡子ちゃんにバレるぞ! この和やかな空気を壊さない様に、今は完食することだけに集中するんだ!我が家の平和のためだ!!)


鏡子の包囲網がどんどん縮まっていきます。

鏡子の後に入ると風呂のお湯が減ってそうです……

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