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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第2章 一年の夏休み

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鏡子ちゃん、ストーップ!!

 そして、ついにその日が来てしまった。夏休み最後の週末。

 わたしの命をかけたデスゲームの幕開けだ。


 朝一番に起きて、まずはスマホのセキュリティを強化する。

 パスワードを複雑な英数字の羅列に更新し、念のために寝顔で解除されない様に、わたしと分からないくらいの変顔で、顔認証もやり直しておいた。


 美嘉には昨日から何度も、それこそ口が酸っぱくなるほど固く口止めをしておいた。


「もし余計なことを言ったら、あんたにあげた限定フィギュア、全部フリマアプリに流すからね!その前に命がなくなるかもしれないよ、鏡子ちゃんの怖さ良く知ってるでしょ?」


 という脅しが効いたのか、珍しく真剣な顔で頷いていた。流石にこのバカ妹でも、4度目の失敗はない……と思いたい。


 両親にも「今日は友達とゆっくりしたいから、外の人には内緒ね」と根回しは完璧だ。


 あとは、優花里さんへのアリバイ工作。

『おはようございます。今日は家族で一日出かけるので、返信が遅くなるかもしれません』


 罪悪感で送信ボタンを押す指が震える。すぐに既読がついた。

『おはよう、サキ。分かったわ、家族の時間を大切にしてきなさいね』


「……ううっ、心が痛い……っ! ごめんなさい、優花里さん!」


  スマホを胸に抱いて懺悔するけれど、これも全ては平和を維持するため。わたしは涙を飲んでスマホを伏せた。


 そこへ、鏡子ちゃんから「もうすぐ着くよ」とRINEが入る。

 数分後、心臓の鼓動を早めるようなインターホンの音が鳴り響いた。


「お待たせ、サキちゃん!」

 玄関には、いつにも増して気合の入った笑顔の鏡子ちゃんが立っていた。


「明日までお世話になります」と母さんに丁寧すぎる挨拶とお土産を渡し、彼女は慣れた足取りでわたしの部屋へと上がっていく。


 その手に握られたボストンバッグ。 その中には、あの「スケスケ・ランジェリー」の鏡子ちゃんバージョンが入っている。


「サキちゃん、何じっと立ってるの? 早く入ろ?」


「あ、うん……。そうだね……」


 部屋のドアが閉まる音が、まるで監獄の扉が閉まる音のように聞こえた。

 夜が怖い、わたしは無事に生存出来るのだろうか?


「サキちゃん……!」


 部屋のドアが閉まるなり、鏡子ちゃんが勢いよく抱きしめてきた。

 相変わらず、親友という言葉の定義を根底から覆すような距離感の近さだ。


 そのまま、迷いのない角度で彼女の顔が近づいてくる。

 わたしは反射的に、首をひねってそれを微妙に避けた。


 ……唇に当たるはずの感触が空を切った瞬間、鏡子ちゃんの目が、カッと見開かれた。


「サキちゃん? ……どうしたの?」

 (「どうしたの?」じゃないんだよ! なんで初っ端からナチュラルに口へのキスが飛んでくるんだよ! 親友の距離感バグりすぎだよ!)


「ま、まあ鏡子ちゃん、とりあえずくつろいで……あ、ああ、何か飲み物持ってくるね!」


 逃げるように部屋を出ようとした瞬間、ガシィッ! と、逃げ場のない速度で腕を掴まれた。

 そのまま、ものすごい力で引き寄せられる。


「サキちゃんは……わたしと、キスしたくないの……?」


 鏡子ちゃんの瞳から、スーッと光が消えていく。

(だからそれ、本当にやめてよ〜! 冗談抜きで命の危険を感じるんだから!)


「い、嫌じゃないよ……! いきなりだったから驚いただけだって……」


「嘘……サキちゃん、避けたよね?」


 腕を握る力が、さらに強くなってくる。あなたの腕は万力なの〜?


「い、痛いよ、鏡子ちゃん……」


「サキちゃん。拒否されたわたしの心は、もっと痛いんだよ……」


(そんな熱血教師みたいなこと言わないでよ! しかもなんで鏡子ちゃんも優花里さんも、揃いも揃って握力がすごいの!? ヤンデレって覚醒すると身体能力もバフがかかる仕様なの?)


「サキちゃん……」

 さらに力がこもり、腕の骨が悲鳴を上げそうになる。


「わ、わかったよ! ごめん! ごめんってば!」

 半ば諦め、わたしは自分から鏡子ちゃんの唇へ――チュッ、と触れた。


 あれ……なんだろう。


 恐怖が原因だったが、簡単に鏡子ちゃんへキスをしてしまう自分がいる。


 つい数日前、別荘であんなに優花里さんと「愛」を誓ったばかりなのに、この罪悪感の薄さはどういうことだ?

 (ヤバいよね、これって。完全に毒されてるよね。優花里さん……本当の本当に、ごめんなさい……!)

 わたしの懺悔をよそに、鏡子ちゃんは一瞬で表情を輝かせた。


「えへへ……サキちゃんって、やっぱり、わたしのこと好きだよね!」


(好きだよね!じゃないよ……)


「そうそう、ねえサキちゃん。あのランジェリー、着て見せ合わない?」


「え、今?い、いや! まだ外は明るいし、ああいうのは夜、寝る前に真っ暗にしてからがいいんじゃないかな!?」


 必死の抵抗も虚しく、鏡子ちゃんは小首を傾げた。

「え〜。暗くしちゃったら、せっかくのデザインが見えないよ〜」


(鏡子ちゃんのは見たいけど、自分のは見たくないし見せたくないんだよ!)


「いや、美嘉がいきなり入ってくるかもしれないしさ」


「じゃあ、鍵かけるね」


 鏡子ちゃんは迷いのない足取りでドアへ向かうと、まるで自分の部屋のようにカチリと鍵をかけた。その横顔、心なしか上気して火照り出していないだろうか。


「サキちゃん……っ」


「ちょ、待っ……! いきなり服を脱がせようとしないで! 鏡子ちゃん待って! わたしたち親友だよね!? 友達だよね!? いきなりこういうのは、は、恥ずいって!!」


「大丈夫だよサキちゃん! サキちゃんの胸は、控えめだけど『正義』なんだから!」


「そ、そういう問題じゃないし! ダメだよぉ〜!!」


「それに、友達同士だから恥ずかしくないんだよ」


「それ、ち、ちょっと違う!」


 ……抵抗も虚しく、わたしはあっさりと「剥かれて」しまった。ああ……


 脱ぎ捨てられたわたしの服は、鏡子ちゃんによって部屋の隅へと追いやられ、代わりにあの「糸」のようなランジェリーが手渡される。


「うぅ……やだよ、恥ずかしいよ……」


 観念して袖(というか紐)を通したけれど、案の定、大切なところもレースで透け透けだ。これ、下着としての機能を1ミリも果たしてないよ!


「じゃあ、わたしも」

 鏡子ちゃんも迷いなく服を脱ぎ捨て、着替え始めた。


 色違いの同じデザイン。けれど、着る人が違うとこうも違うのか。ダイナマイトボディな鏡子ちゃんがそれを着ると、破壊力が桁違いすぎて鼻血が出そうだ。

 す、すごい!アニメなら謎の光で見えないだろうけど……


 (ダメだダメだ! 流されてはいけない! わたしには優花里さんがいるんだ! これはあくまで、命を守るための添い寝コスプレなんだから! 友達同士のコミュニケーションなんだから!)


「サキちゃん。夜はこれで、愛し合おうね♡」


「いや、愛し合うってなんだよ! わたしたち友達でしょ! なんで瞳の中ににアニメみたいにハートマークが浮いてるんだよ!」


 このままじゃ明日の朝にはわたしの貞操は木っ端微塵だ。

 なんで友達なのにそんな心配しないといけないの?世の中の親友とはそういうものなの?!


「はは……じゃあ、そろそろお昼の時間だから、服に着替えて下に行こうよ。そろそろご飯の用意もあるだろうし」


「そうだね!」


 鏡子ちゃんは、そのまま(ランジェリー姿で)部屋を出ていこうとした。

「鏡子ちゃんストーーーップ、ストップ!!そ、 それ以上はいけない!!」


「あ、そうだった。着替えまーす!」


(鏡子ちゃん、そういうボケは本当にやめて! うちの親も美嘉も、そんな姿見たらショックで目を回すから!)


 慌てて服を羽織らせながら、わたしは確信した。

 このお泊まり会、わたしの心臓が明日まで持つ確率は、1%にも満たないということを。


 着替えてリビングに降りると、鏡子ちゃんは手際よく母の食事の手伝いを始めていた。


 こういうところは優花里さんと同じで、悔しいけれど女子力が高い。


 2人ともヤンデレだけど。


 そして出来上がった昼食を、家族みんなで頂く。


 そう、あの一連の「ランジェリー剥ぎ取り騒ぎ」は、まだ午前中の出来事だったのだ。


 一日の半分も過ぎていないのに、わたしの精神はすでにボロ雑巾のようである。


 先が思いやられるよ。

暴走機関車の鏡子でしたw

サキの貞操は守られるのか?

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