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ただのアニオタだったわたし、ヤンデレ先輩と幼馴染に愛されすぎて困ってます ~逃げても離してくれない彼女たち~ ―雲乃伊戸女子高校の美山サキの場合―  作者: あさなゆうなぎ
第2章 一年の夏休み

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これってランジェリー?いや紐じゃん!!

 「3日間、本当に色々あったなぁ……」


 自分の部屋で、別荘から持ち帰った荷物を片付けながら、わたしは深い溜息をついた。優花里さんの涙、優魅ちゃんの奇襲、そしてあの甘い星空。

 現実に戻ってきた実感に浸る間もなく、突然、階下でインターホンが鳴り響いた。


 しばらくして、

 「お姉〜、鏡子ちゃんが来たよー!」


 美嘉の声が響く。

(え? なに、このタイミングの良さ……まさか電柱の影から帰ってきたのを見られてた!?)


 慌てて玄関へ向かうと、そこには満面の笑みを浮かべた鏡子ちゃんが、右手をひらひらと振って立っていた。


「サキちゃん、久し振りー!」


「う、うん。久し振りだね」

(久し振りって……まだ4日ぶりだよね……?)


「田舎はどうだった?」


「あああ、田舎ね! おばあちゃんの家でのんびりしてきたよ!」


「あれ? おじいちゃんの家じゃなかったっけ?」


「あ、あはは、そ、そうそう、おじいちゃんもおばあちゃんも元気だったよ!」


 必死で取り繕うわたしの言葉に、鏡子ちゃんは「ふーん」と頷きながら、わたしの首筋に手を伸ばした。

 そして、躊躇なく絆創膏をペリッと剥がす。


「痛っ!痛いよ、鏡子ちゃん……」


「ごめんね、あ、まだ残ってるね。よし♡」

 よし、じゃねえんだよ!痛いよ……!


 この「よし」のせいで、わたしは危うく一生地下室から出られない身体になるところだったんだぞ! と心の中で全力の総ツッコミを入れる。


「あはは……でもこれって結構長く残るね」


「だよね! 今度のお泊まりの時も、また付けちゃうね♡」


「付けちゃうね、じゃなくて〜! それやられると、さすがに学校行けなくなるから!」


「あ……そっか、それもそうだね……」

 鏡子ちゃんがシュンとして俯く。


 そこ、シュンとする場面か?

 

 風紀委員長の優花里さんどころか先生に見つかったら、「不純同性交遊」で即刻アウトなんだよ! ダメだ、鏡子ちゃんのヤンデレ度も確実にアップデートされてる……。


「……あれ? サキちゃん、ちょっと焼けた?」


「えっ!? あ、ああ、ビーチに行ったりしたから……」


「おじいちゃんとビーチ?」


「う、うちのおじいちゃん、海が好きで元気なんだよ!」


「でも、サキちゃんのおじいちゃん、最近足が悪いって……」


 (なんでそんな美山家の親戚の情報まで把握してんだよ! うちの個人情報保護法はどうなってんだよ!?)


 すると鏡子ちゃんの大きな目が、すっと細められる。

 「サキちゃん。……わたしに隠し事なんてしてないよね……?」


「え? な、な、なんで? してない! してないよ!」


「……そう? なんか最近、サキちゃんの行動が見えなくて。不安になっちゃうんだよ」


 普通、見えないだろ! なんでわたしの全行動をGPS並みに把握しようとしてるの!?

 ダメだ、この子のヤンデレ具合、方向性は違えど優花里さんの比じゃないよ……


「あ、そうだ。ねえねえ、サキちゃんひとつだけ、お願いがあるんだけど……いいかな?」


 鏡子ちゃんが上目遣いで指を口に当て、あざといほど可愛いポーズを決める。


「んん、なんのお願い?」


「サキちゃんのスマホのロック解除、わたしと共有しない?」


「なんだよそのお願いって!! 親友とはいえそれは一線を越えすぎでしょ!」


「でも、わたしに見られて困るものなんて、ないんでしょ?」


「そりゃあ、困……」

(あ、RINEの履歴とか、保存した写真とか……)


「……え?」

「いやいやいや! こここまるももものはなななないけど! ややややっぱり友達でもそこはプライバシーっていうか、一線を引かないと……」


「ダメ?」

 首を傾げて可愛く言ってもダメです!


 もう、鏡子ちゃんは友達にまでヤンデレ属性を発揮してどうするの!?


 将来彼氏とかできたら、その彼氏の人生が詰んじゃうよ。

 わたしが男だとしても鏡子ちゃんの彼氏は無理だな……身が持たないよ。


「ま、まあ、上がって。暑かったでしょ? 何か飲んでいったら?」


「ありがとう! じゃあ、お邪魔しまーす!」

 鏡子ちゃんをリビングに案内すると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。


 テーブルの上に、優花里さんがお取り寄せしていた高級な特大クッキーの箱が置かれ、しかも美嘉がそれをムシャムシャと貪り食っていたのだ。


「お姉、これ美味しいよ! ゆか……」

 わたしの背後にいる鏡子ちゃんに気づき、美嘉がピタリと動きを止めて口ごもる。


「美嘉ちゃん……そのお菓子、どうしたの? 『ゆか……』って、誰のことかな?」

 鏡子ちゃんの声のトーンが、スッと1オクターブ下がった。


「ひ、ひっ!!」


(バカ美嘉! 状況を察しろ! あ〜あ、もう涙目になってやがる!トラウマ再再発だよ……)


「ゆ、ゆか……『ゆかいな父さんの部下』の人が持ってきてくれたんだよ! 海外出張のお土産だって!」


「い、いやー! 美嘉、あの人本当に愉快で面白かったよな! な!?」


「そ、そ、そう! め、めっちゃ面白い人だったよ! あははは!」


 わたしと美嘉の必死の連携プレーに、鏡子ちゃんは「ふーん」と微笑んだ。


「そうなんだ……。じゃあ、わたしもいただいていい?」


「いいよ! 食べて食べて!」


 鏡子ちゃんが笑顔でリビングの椅子に座るのと入れ替わりに、顔面蒼白になった美嘉が「わたし部屋の掃除しなきゃ……」と不自然な呟きを残して自室へ逃げ帰っていった。


「美嘉ちゃん、具合でも悪いのかな?」


(お前のせいだよ!! その無自覚なプレッシャーのせいだよ!!なんでそこだけ鈍いの?!)


 鏡子ちゃんが優雅にクッキーを齧る。その優雅さが、今は猛獣が獲物を吟味しているようにしか見えなかった。


 わたしもクッキーみたいに齧られるのかな……


「おじいさんのところ、楽しかった?」

 鏡子ちゃんがクッキーを咀嚼しながら、逃げ場のない質問を重ねてくる。


「うん、楽しかったよ。のんびりできたし」


「そっか、良かったね。写真とか撮ったの?」


「い、いや! おじいちゃん、写真が嫌いだから撮ってないんだよ」


「そうなんだ。近くの風景とかも?」


「うん、残念ながら……」


(危ねえ! スマホの中は優花里さんとのツーショットと、プライベートビーチの写真でいっぱいなんだよ!)


「そっか、見てみたかったな」


「う、うん、そうだね……あはは」

  もう冷や汗が止まらない。


「鏡子ちゃんはどこか行ってたの?」


「ううん、家で勉強してたよ。サキちゃんのお家に泊まりに来る時には勉強できないから、まとめてやっておいたんだ」


 気合が入っている。入りすぎている。


(……待てよ、キスくらいならもう優魅ちゃんともしちゃったし……ってダメダメダメ! キスが当たり前になっちゃダメだよ! わたしのアニオタとしての純潔が(?)どんどん失われていく!)


 必死に頭を振って雑念を払っていると、鏡子ちゃんがカバンから「はい!」と一つの紙袋を取り出した。

「これ、お土産だよ!」


「わ〜! 嬉しいな、何かな……って、えええ!?」


 袋の中身を見た瞬間、わたしの思考はホワイトアウトした。 そこに入っていたのは、繊細すぎるレース。というより、ほぼ糸とレースだけ。


「……鏡子ちゃん、何これ……?糸?」


  震える手でそのスケスケな布地(というか紐に近い何か)を指差すと、鏡子ちゃんは事もなげに微笑んだ。


「あ、これね。うちの両親がお盆休みに海外へ行ったから、その時に頼んでおいたお土産なんだ。海外のブランドだから、デザインが大胆で素敵でしょ?」


「鏡子ちゃん、仕事で出張のおばさんに……こんなものを……頼んだの……?」


「うん。サキちゃんに似合うと思うからって。お泊まり会の時、楽しみにしてるね」


(鏡子ちゃんとこのおじさん、おばさんも、娘に何を頼まれてるのか把握してるんだろうか!? いや、それ以前に『お泊まり会でサキちゃんに着せる』なんて知ったら腰を抜かすんじゃ……)


 海外ブランドの、繊細すぎるという言葉では片付けられないほど面積の少ないランジェリー。

 これを着て鏡子ちゃんと同じベッドに入るなんて、それこそ火薬庫の中でマッチを擦るようなものだ。


「あ、あはは……。素敵だけど、わたしにはまだ早いっていうか、その……」


「そんなことないよ。サキちゃんは白いから、この色が映えると思うな」


 鏡子ちゃんの目は、すでに獲物を品定めするハンターのそれに変わっている。


 優花里さんの重厚な独占欲も怖いけれど、鏡子ちゃんのこの「外堀から埋めて、笑顔で逃げ道を塞いでくる」感じも相当に恐ろしい。


 わたし、一体どうなっちゃうの?


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