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幸せからの〜!!

 優花里さんの手作り朝食は、昨日にも増して完璧だった。


 わたしも、ただ見ていたわけじゃない。

 フルーツを切るお手伝いをしたし、牛乳だって冷蔵庫から出してテーブルに並べた。

 まあ、わたしの貢献度は1%くらいかもしれないけれど……


「わたしは人付き合いが苦手だから、これまでメイド達ともあまり話が出来なくて、いつの間にか、人に頼るよりも、何でも自分でやるようになったの」


 彼女はさらりと言うが、それなら同じくコミュ障気味なわたしの立場はどうなるんだろう?


 この圧倒的なスペックの差を考えると、アニメのモブキャラとメインヒロインくらいの壁を感じてしまう。そんな優花里さんの恋人になっている自分が奇跡とも思える。


 食後、ビーチへ出る準備をしていると、スマホが不吉な音を立てた。RINEだ、嫌な予感がする。


 『サキちゃん、うちの親からのお土産をサプライズで渡そうと思ったんだけど、今お家にいないんだね。どこにいるの?』


「ヤバい……!!」


 まさか鏡子ちゃんが、帰宅した翌日にすぐうちに来るなんて。

 サプライズは嬉しいけれど、彼女からのこういう行動ほど、今のわたしにとって心臓に悪いものはない。


 もしここで正直に「優花里さんの別荘にいるんだ」なんて返信したら、家に帰った瞬間、今度は鏡子ちゃんに滅多刺しにされるバッドエンドが待っている。


(……やっぱり、あのアニメ見るんじゃなかった〜!)


「どうしたの、サキ?」

 頭を抱えるわたしに、優花里さんが声をかけてきた。


「い、いいいえ! なんでもありません! まだ準備がかかるので、あちらで待っていてくださいね!」


「分かったわ」


 優花里さんは素直に歩き出したが、去り際に立ち止まって、氷のように冷たい声で付け加えた。


「でもサキ、ここではRINEは禁止よ。……特に、後藤さん(鏡子ちゃん)とはね」


(ば、バレてる……!? いや、そんなはずはない。ここはしらを切るしかない!)


「そ、そんなことあるわけないじゃないですか! せっかく優花里さんと二人きりなんですから!」


「そう……それならいいのよ」


 もう嫌だ。なんでこんなに心臓に悪いことばかり起きるんだ。

 わたしは必死に鏡子ちゃんへ返信する。


 『ごめんね! 今、(父方の)田舎のおばあちゃんのところに来てるんだ』

 『あれ? おばさんは「(母方の)おじいちゃんのところ」って言ってたけど?』


 これ鏡子ちゃん知っててカマかけただろ!!


 『あ、ごめん間違えちゃった! てへっ』

 『そうなんだ。帰ったら連絡してね。サキちゃん、大好きだよ』

 『うん、わたしもだよ』

 『もう!「ちゃんと」書いてよ〜!』


「勘弁してよぉ……! 早く行かないと優花里さんに疑われるのにー!」

 冷や汗を流しながら、わたしは禁断の言葉を打ち込んだ。


 『うん、わたしも好きだよ、鏡子ちゃん』


 直後、画面いっぱいに「ドキドキハート」のスタンプが送られてきた。


 これで……これで一旦は凌げるはず。

 でも万が一この画面を優花里さんに見られたら、金属タワシピーリングの後は一生地下室だ。


 わたしは慌てて画面を閉じ、何食わぬ顔で、優花里さんの待つ太陽の下へと駆け出した。

 一つの難問をクリアしたわたしは思わず呟いてしまった。


「幸せだなぁ……」


 こんなに綺麗な人と恋人同士で、別荘のプライベートビーチで二人きり。


 アニオタだったわたしが、こんなアニメの最終回後のOVAみたいな贅沢な時間を過ごしていいんだろうか。あまりに順調すぎて、「絶対に後でとんでもない反動イベントがありそうだな」と、思わず自分からフラグを立ててしまいそうな考えが頭をよぎる。ダメだダメだ!


「優花里さん、大好き!」

 わたしは再び、吸い寄せられるように彼女に抱きついた。


 優花里さんは、そんなわたしの勢いをしっかりと、それでいて優しく受け止めてくれる。


「ふふ、サキは甘えん坊さんね」


「そりゃあ……このシチュエーションじゃ甘えん坊にもなりますよ! もっと甘えて甘々になりたいです、とろけちゃいたいです〜!」


 わたしはビーチパラソルの下、シートに座る優花里さんの腰に手を回し、そのまま贅沢にも膝枕までしてもらうことにした。

 見上げれば、青い空と、それ以上に澄んだ優花里さんの瞳。


(このまま一生ここで暮らせたらいいな。……あ、もちろん地下室じゃなくてね)


 あそこなら黙っていても一生出られないんだろうけれど、できればこの太陽の下で、彼女の隣にいたい。


 優花里さんの穏やかな笑顔を見つめていると、ふと思う。

 出会いは怖い風紀委員長に怒られてばかりのモブ生徒と、最悪だった。


 ヤンデレ全開で、正直「殺される!」と思ったことも一度や二度じゃない。

 けれど、この人と知り合えた事で、わたしはこれまで全く知らない世界をたくさん見せてもらった。


 優花里さんだけじゃなくて、モノクロだったわたしのオタク人生に、鮮やかな色彩を与えてくれたのは、間違いなくこの人なのだ。


 そんなセンチメンタルな感傷に浸りながら、わたしは優花里さんの柔らかな太ももの感触を堪能していた。

 

 ……が、ふと気づく。


 見上げる角度。 ラッシュガードの首元。

 そして、優花里さんの視線の先。


 ……あれ。 優花里さん、わたしの首筋を、さっきからものすごく「凝視」してない?


「サキ。この首筋のアザなんだけど……」


(Oh!!!!)


 優花里さんの声のトーンが、わずかに低くなった。 ドクン、と心臓が大きな音を立てて跳ね上がる。


「は、はいぃ……?」


 動揺しすぎて、自分でも引くくらい語尾が変な方向に裏返った。


「ちょっといいかしら」


 優花里さんは有無を言わせぬ手つきで、わたしのラッシュガードの襟をグイッと引き下げ、首筋を露わにした。

  ……途端に、真夏の太陽の下だというのに、周囲の温度がみるみるうちに氷点下まで下がっていくのを感じた。


「サキ、これって……」


「ひゃ、ひゃいっ! ど、どうしたんですか、優花里様!?」


「このアザだけ、形が……他のものと違う気がするわ」


(ど、どうしよう……! 本当に太陽を見ることなく、一生この屋敷の地下で暮らすことになってしまう……!)


 極限状態に追い込まれたわたしの脳細胞が、光速でフル回転を始める。

 そして口をついて出たのは、またしてもあの生贄(妹)の名前だった。


「こ、これ! これは美嘉です! 美嘉です! あやつが、あいつのやつが、普通につねるのとは別に、ふざけてここに……す、吸いついたんですー!」


「……え?」


「これは美嘉! 美嘉に付けられたキスマークです! お、おそらく、はい!」


 ……美嘉、本当にごめん。

 後でアイス奢るから。お姉ちゃんを、このヤンデレお嬢様から救うと思って、この際吸血鬼属性も引き受けてくれ〜!


「美嘉さん……?」


「そ、そうです〜!」


 優花里さんの表情はまだ険しい。どうしよう、まだ信じてない?


 これって、とんでもなくまずいのでは!!

流石の優花里さんもこれは気付いたのでしょうか?

この局面をサキはどう切り抜けるでしょうか?

美嘉へのヘイトを溜め続けるのでしょうか?ww


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