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監禁とゴシゴシ!?

 一度は安堵したわたしに、優花里さんがさらりと呟いた。


「でも、キスマークじゃなくてよかったわ」


 無邪気な、ひまわりのような微笑み。


「えっ?」


「キスマークって、普通は首筋につけるものだって聞いたことがあるの。でもサキのはこんなにたくさん、しかも胸にまであるんですもの。だから、何かの重い病気かと思って心配だったのよ」


 ……途端に、全身の血が足の先まで引き下がるのを感じた。

 キスマークを知ってたんだ……


「そ、そうなんですか……?」


「ええ。でも美嘉さんもひどいわね、お姉さんをこんなにしてしまうなんて」


「い、いえいえ! さっきも言いましたが、わたしが強く言った結果なので! 彼女も今は反省して、泣きながらお祈りしてると思います!」


「そうなの? それならいいけれど……姉妹仲は良いのが一番だものね、羨ましいわ」


「はい……一応、仲良し姉妹なので……」


 必死に美嘉を(悪役に仕立てつつ)フォローしながら、わたしは話題を逸らそうと震える声で尋ねた。


「そ、そういえば優花里さんは、ご兄弟とかいらっしゃるんですか?」


「大学生の姉と、中学3年生の妹がいるわよ。妹さんは美嘉さんと同じ歳ね」


「そうなんですね。美人三姉妹なんだろうなぁ……」


「どうなのかしらね?姉はよくミスコンテストで優勝してたみたいだけど」


「それって十分美人さんだって事じゃないですか!優花里さんはそういうのには出なかったんですか?」


「わたしは人付き合いが苦手だし、そういうところにはね。姉と妹は社交的なのだけど」


「そうなんですね」


 優花里さんがもし社交的だったら、アニメを介してわたしと接触することもなかったんだろうし、そうすると今こういう関係にもなっていない。運命は不思議だ。


 ただ、そんなのんびりした会話の最中、わたしの脳裏に、抑えきれない恐ろしい疑問が浮かんできた。

 好奇心は猫を殺すというが、今のわたしはまさにそれだ。


「優花里さん、仮に、ですよ? もし、これが……キスマークだったりしたら、どうしてました?」


「え? サキに、そんな相手がいるの?」

 と、切れ長の目が細められ、顔の上半分に影がさす。


「いえいえいえ! いません! 誓って、いません! 金輪際いません!あくまで仮定の話ですよ!」


「そう……安心したわ」


  優花里さんは一度ふっと表情を緩めたが、次の瞬間、その瞳から光がスッと消えた。


「そうね……もしこれがキスマークだとしたら、あなたがわたし以外の人と、そういうことをしているということだものね。……それは、絶対に許されないわね」


「ゆ、許されないっていうと……?」


「この別荘はわたしの持ち物なんだけれど、ここ、地下室があるの。そこに一生、閉じ込めちゃうかも。そうすればサキはわたしだけのものになるでしょう?ここなら誰にも知られずに閉じ込められるのよ」


(……出たよ、ヤンデレお嬢様特有の監禁エンド!?)


「でも、その前に他の人で汚れちゃってるのは許せないから……『消毒』するかもね」


「消毒……?」


「だってそうでしょ? あなたは、わたし以外には誰とも肌を合わせてほしくないもの。だから、強い薬剤で綺麗に消毒して、タワシで汚れた皮膚が取れるまでゴシゴシしちゃうかな、ピーリングっていうのかしら?」


「……っ!!」


「やっぱりそれくらいは必要でしょう?」


 言葉は可愛い。

 ……言葉「は」可愛いが、内容はどう考えても皮膚が剥離して命に関わるレベルの拷問だ。


「でしょう?」じゃないんだよ! 笑顔で一生幽閉とか、皮膚を剥がすとか言わないで! わたしは上半身裸のまま、今度は恐怖でガタガタと震え出した。


 鏡子ちゃん……あなたが残したこの「証」は、わたしを地下室送りにする片道切符だったんだね……。

 下手すると、もう一生あなたに会えなくなるところだったよ。


「どうしたの、サキ? 震えているけれど……寒いの?」


「は、はい……今、心が寒いです。極寒です……」


「大丈夫? 風邪を引いたのかしら」

  優花里さんが、そっとわたしの肩に手を置いた。


「ひっ……!」

 思わず身を固くしてしまう。


 この白くて綺麗な手で、死ぬまでタワシで擦られる未来を想像して、本能的に反射してしまった。


「サキ、本当に大丈夫? 急にどうしたの?」


  心から心配そうに、眉を下げてこちらを見つめる優花里さん。


 その真っ直ぐで汚れのない瞳を見ていると、鏡子ちゃんとの「あの時間」のことが、猛烈に申し訳なく思えてきた。


「優花里さん……ごめんなさい……」


「どうしたの? どうして謝るの?」


「せっかくの楽しいお泊まりなのに、わたし、こんな……変な気持ちにさせてしまって……」


「ううん、いいのよ。気にしないでね。サキと一緒にいられるだけで、わたしは満たされているのだから」


 その底なしの包容力に、抑えていた感情が決壊した。

 恐怖も、罪悪感も、全部ひっくるめた涙が溢れ出して止まらない。


「優花里さん……っ!」 わたしはたまらず、彼女の胸に飛び込んだ。


 怒らせたらこの世の終わりだし、ヤンデレ気味だし、隙のない完璧超人だけど、わたしに対しては、この人はいつだって本気で優しくて、深い愛を注いでくれる。


 (……やっぱり、わたしの恋人はこの人しかいないんだ) 改めて、そう強く確信した。


「もう、サキは泣き虫ね」


「だって、優花里さんが優しすぎるんですよぉ……!」


 そっとわたしの頭を撫でてくれる優花里さん。

 こういう時の彼女には、不思議なほどの母性を感じる。

 実際、この人が母親になったら教育ママ全開でめちゃくちゃ厳しくて怖いんだろうけど、今はその温もりがただただ心地よかった。


「サキ、寒いなら服を着ないと」


「あ、そうだった……」


 二人とも、まだ上半身裸だった。


 誰もいない別荘の寝室。朝日の中で抱き合う、上半身裸の女子高生二人。


 客観的に見れば、なかなかに凄まじい絵面なんだろうな……と、わたしは少し赤くなりながら、散らばったジャージを拾い上げた。


優しいけれど、ヤンデレなお嬢様。

味方にすると心強いですが、一旦敵に回してしまうと逃がしてもらえない、怖い人です。

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