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次の戦いに向けての!!

 優花里さんは何でも完璧にこなすけれど、恋愛に関しては(重すぎる愛を除けば)意外と初心なはずだ。


 キスマークなんていう不埒な言葉を、知識として知っていても実体験として見抜く力がないことを祈るしかない。

 もちろんわたしもこういうものをつけられたのは今回が初めてだし、他人が付けられているのを目撃してもすぐに分かるか不明だが……


 しかし喫緊の問題は、明日から二泊三日で始まる優花里さんの別荘へのお誘い。

 それまでにこの大量の「親友の証」をなんとか消さなければならない。


 けれど、一体どうやって?


(鏡子ちゃんに『消し方教えて』なんて聞いたら、また上書きされそうだし。かといって優花里さんに聞くのは、自ら処刑台の露を舐めに行くようなもの。茜に聞いても……『なんで、誰に付けられたの?』とか揶揄われそうだし、それで鏡子ちゃんに睨まれるんだよね……バカな、あ……げふん!げふん!)


 わたしはスマホで「キスマーク 消し方 即効性」という、検索履歴に残したくないワードを必死に打ち込みながら、冷や汗を流し続けた。


(ええ〜っと、キスマークは温めて血行を良くしたり、ビタミン摂取がいいのか……なるほど!)


 スマホで必死に検索した知識を脳内に刻む。

 今日の夜はふやけるまでお風呂に入り、ビタミン豊富な果物をこれでもかと摂取して、超回復を狙うしかない。


 朝食の席につく。鏡子ちゃんはこれを食べ終えると自宅に戻ってしまうため、あからさまに寂しそうだ。  

 対照的に、美嘉は「夜中の悪霊が去る」と言わんばかりの元気を取り戻し、急によく喋るようになってきた。


(調子に乗ってまた余計なこと言うなよ……) と目で牽制しながら、わたしは元気がなさそうな鏡子ちゃんを励ます。


「ま、またいつでも遊びに来てよ」


「鏡子ちゃん、本当に助かったわ。よかったらまた夏休み中にでも泊まりにいらっしゃいね!」


 母さんのその一言で、鏡子ちゃんの表情がぱああっと太陽のように明るくなった。


「本当ですか!? ありがとうございます! それでは、8月最後の土日とか、いかがでしょうか……?」


「あら、それなら大丈夫よ!」


 ちょっと待て、いつの間にか次の開催日程が確定しようとしている。わたしと美嘉の表情が引き攣る。


「おばさん、それと……今度は、昔みたいにサキちゃんと、同じ部屋で寝てもいいですか?」


「いいわよ〜。実は今回もサキが恥ずかしがって……」


「お、お母さん!!ほ、 ほら、お湯沸いてるよ!!」


「あ、そうだったわ」


 お母さんはキッチン(うちはカウンターキッチンなのだ)の方へ戻っていった。


 危ない、危ない! わたしが「客間じゃないと嫌だ」と拒絶したことがバレたら、鏡子ちゃんがどんな「闇落ち」を見せるか、恐ろしくて想像もできない。


「サキちゃん、またよろしくね!」


 眩しいほどの笑顔を向けてくる鏡子ちゃん。うぅ……こんな純粋(?)な笑顔を見せられたら、もう拒否なんてできない。


 対して美嘉は、夜中のガチャガチャ地獄から解放されると知って、あからさまに安心しきったツラをしていやがる。

(くそ〜! 今度夜中に美嘉の部屋でガチャガチャやってやるからな! 覚えてろよ!)


(もう、お母さん! 余計なこと言わないでよ〜!夏休み最終の土日にお泊まりって、もしキスマークを今日みたいにつけられでもしたら学校行けないんだよ!)


 朝食を摂ったあと、わたしと鏡子ちゃんはわたしの部屋で、最後にあらゆる話をした。


 この一週間、夜中にドアノブがガチャガチャしたり、美嘉が腰を抜かしたり、首元に「証」を刻まれたりと色々なことがあった。

 けれど、こうして向かい合って話していると、やっぱり楽しかったなという思いが勝る。


 何でも話せる親友。

(……まあ、優花里さんのことだけは口が裂けても言えないけれど)


 それ以外のことは気兼ねなく笑い合えて、優しくて、綺麗で、可愛くて。鏡子ちゃんは本当に、わたしには勿体ないくらいの最高の友人だと思う。いい友を持てて、わたしは幸せ者だ。


 そして、いよいよ鏡子ちゃんが帰る時間がやってきた。


「サキちゃん、一週間ありがとうね。本当に楽しかったよ。また今月末のお泊まりで会えるのを楽しみにしてるね」


 鏡子ちゃんが愛おしそうにわたしに抱きついてくる。わたしも彼女の背中にそっと手を回した。


「こちらこそ楽しかったよ、鏡子ちゃん」


 素直な気持ちを伝えると、鏡子ちゃんはふいに顔を上げ、じっとわたしの目を見つめた。 その直後、彼女は吸い寄せられるように唇を重ねてきた。


 これは、親友への親愛の証の、はず。


 小学校からの長い付き合いの中で、彼女がどれほどわたしを大切に思ってくれているか、その重みが伝わってくるような気がした。

 だからわたしも目を閉じ、しばらくの間、彼女との別れを惜しむように唇を重ね続けていた。


 それは激しいものではなく、一週間の名残惜しさを分かち合うような、どこか穏やかな時間。


 鏡子ちゃんの柔らかい体温を感じながら、わたしは(ああ、やっぱり女の子の親友っていいな……)なんて、平和ボケしたことを考えていた。


「ふふ、サキちゃん。名残惜しいけど……またすぐにね」


 鏡子ちゃんは満足げに微笑むと、今度こそ本当に部屋を出て、お母さんや美嘉に挨拶をして玄関へと向かった。


 夏の昼下がりの静かな空気の中、鏡子ちゃんの両親が車で迎えに来ていた。

 トランクに荷物を積み込み、鏡子ちゃんは後部座席へとおさまった。


「鏡子ちゃん、気をつけてね! また連絡するよ!」


「うん、サキちゃん。大好きだよ!」


 窓から大きく手を振って角を曲がっていく鏡子ちゃんちの車を見送り、わたしはパタンと玄関のドアを閉めた。


「……ふぅ……」

 一週間の大イベントが、ついに終わった。


 どっと押し寄せてくる安堵感。鏡子ちゃんという「嵐」が去った後の家の中は、心なしかいつもより広く、そして静かに感じられた。


 ……が、ホッとしたのも束の間。 わたしは自分の首元の「長袖ポロシャツ」の襟をギュッと掴み直した。


「そうだ……まだこの『証拠』はまだ消えてないんだ!」


 優花里さんは今ここにはいない。キスも見られていない。

 しかし明日からは、二泊三日の別荘行きが待っているのだ。


 鏡子ちゃんとの美しい友情の余韻に浸っている場合じゃない!


 わたしは脱兎のごとく洗面所へ駆け込み、鏡に向かって首の襟をガバッと開いた。

 そこには、さっきまで唇を重ねていた親友が、これでもかとばかりに刻みつけた赤紫色の印が、誇らしげに(?)居座っていた。


「……これ明日までに消えなかったら、美山家がこの世から消え去っちゃうよ……!」


 わたしは慌ててお風呂の給湯ボタンを連打し、キッチンからビタミンCのサプリを鷲掴みにして口に放り込んだ。


次の優花里との別荘に向けてのサキの孤独な戦いが始まります。

さて、結果は……?

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