死の刻印?!
自宅に帰った後に母さんと鏡子ちゃんの作ってくれた、その日の夜のカレーも、文句なしに美味しかった。
「鏡子ちゃんは、絶対にいいお嫁さんになるよ!旦那さんが羨ましいよ!」
わたしが太鼓判を押すと、鏡子ちゃんはなぜか母に向かって「おばさん、今の聞きました?」と言わんばかりの熱い視線でアピールしていた。
ん……なんで母さんに言うの?
夜になり、再び鏡子ちゃんを客間へと送り届けてから自分の部屋へ戻る。
もちろん、真っ先にすることはドアの鍵をかけることだ。
カチャッ、という乾いた音が静かな廊下に響く。
すると、ほぼ同時に隣の美嘉の部屋からも「ガチャンッ!」と勢いよく鍵をかける音が聞こえてきた。
(……あいつも、わたしと同じ気持ちなんだろうな。流石に学習したか、美嘉)
しっかり施錠されていることを二度、三度と確認してから、わたしはベッドに潜り込み、泥のように眠りについた。
深夜。
わたしの意識の深いところで、一度だけドアのあたりから何か物音と、くぐもった声が聞こえたような気がしたが、昼間のエオン探索で疲れ果てていたわたしは、そのまま爆睡してしまった。
後日、美嘉に聞いた話によると、その夜も廊下では「イベント」が発生していたらしい。
深夜の静まり返った家の中で、わたしの名前を低く呼ぶ声と、狂ったようにドアノブを「ガチャガチャ、ガチャガチャ」と執拗に回す音が響き渡っていたのだとか……。
鏡子ちゃん、それ、ガチのホラーだよ……あの時そんな恐ろしいことになっていたとは……
そして何事も?なく6日が過ぎ、ついに鏡子ちゃんが帰る前日の夜。
わが家ではいつもより豪華な食事を用意して、鏡子ちゃんをもてなした。
「一週間もお邪魔して……本当にありがとうございました」
潤んだ瞳で頭を下げる鏡子ちゃん。
その健気な姿に、わたしも思わずもらい泣きしてしまった。
唯一、美嘉だけが「ようやく終わる……」という解放感に満ちた、心底ほっとした顔をしていた。
宴も終わり、いつものように鏡子ちゃんを客間に送って、自分の部屋に入ろうとした……その時だった。
「わっ!?」
いきなり背中を強く押され、わたしは勢いよく自室のベッドに倒れ込んだ。
驚いて振り返ると、そこには鏡子ちゃんが立っていて、流れるような動作でわたしの部屋の鍵を閉めていた。
「サキちゃん、今まで6日間……わたし、夜、寂しかったんだよ」
「き、鏡子ちゃん!? ひ、昼間ずっと毎日一緒だったじゃん!」
「夜も、昔みたいに一緒に寝たかったの」
「い、いや、わたしたちもう高校生だし! ぷ、プライベートはやっぱり大切にしないと!」
必死に弁明するわたしに、鏡子ちゃんが正面からダイブしてきた。
「サキちゃん!」
「もがっ!? き、鏡子ちゃん! 息が! 息ができないよー!」
顔面が巨大な西瓜に押しつぶされ、窒息の危機に陥る。
「あっ、サキちゃん、ごめんね」
そう言いながら、なぜか鏡子ちゃんは手際よく服を脱ぎ始めた。
「鏡子ちゃん!? 何で脱ぐの?み、見えてるから! 大きくて綺麗なお胸が丸見えだから!」
「わたし、サキちゃんなら見られてもいいよ。綺麗って言ってくれてありがとう!」
「いや、そんな凄いのを見たら、わたしの慎ましさが悲しくなるから!」
「サキちゃんっ!」
上半身裸のまま抱きついてくる鏡子ちゃん。わたしの寂しい胸が、彼女の凶器のような西瓜に圧殺される。
「鏡子ちゃん、潰れちゃってる! わたしの小さいのが、さらに平らになっちゃうよ〜!」
「サキちゃん、好き」
そのまま、重なる唇。
(あ、あわわわ……! 優花里さんの激怒する表情が、脳裏に浮かぶ……!)
「き、鏡子ちゃん! 落ち着いて! 落ち着いて!」
「わたしは落ち着いてるよ、サキちゃん。サキちゃん大好き。……愛してる」
(そ、それは友達としてだよね!? 愛情表現がデカすぎるよ〜!)
「わ、分かったから! わたしも鏡子ちゃんのこと、大好きだよ!」
すると、彼女は少しだけ体を浮かせて、わたしの顔をじいっと見つめてきた。
「サキちゃん……嬉しい」
不意に、ポタポタと彼女の目から涙がこぼれ落ちた。
「わたし、わたしね……サキちゃんのこと、小学校の時からずっとずっと好きだったんだよ。だから、今回お泊まりできたのも、すごく嬉しかった。この一週間、本当に幸せだったよ」
その震える声と、純粋な涙。
不気味だなんて思ってごめん。やっぱり彼女は、不器用なだけのわたしの親友なんだ。
「……うん、鏡子ちゃん。わたしも昔から、大好きだよ」
わたしは彼女をそっと抱きしめ返した。
鏡子ちゃんが、今度はゆっくりと、慈しむようにまた唇を重ねてきた。
(……うん、これはきっと親友としての、深い深い愛情表現なんだよね。絶対にそうに違いない!)
自分にそう言い聞かせ、わたしは抗わずにそれを受け入れた。
少し落ち着いた鏡子ちゃんは、ベッドの中でわたしの肩を抱きながら、ぽつりぽつりと昔話を始めた。
小学校の遠足でわたしがかけた言葉、自分では無自覚だったちょっとした優しさ。彼女はそれらすべてを宝物のように記憶していて、いかにわたしを大切に思ってきたかを話してくれた。
「うん、やっぱり鏡子ちゃんは、わたしの一番の親友だよ」
わたしの言葉に、鏡子ちゃんは幸せそうに目を細めた。
「ねえ、サキちゃん。……『親友の証』、いいかな?」
「ん? 親友の? もちろんいいよ。わたし達親友なんだから、なんでも言ってよ」
快諾した直後だった。
鏡子ちゃんがわたしの首筋に顔を埋め、何度も、何度も、強く吸い付いてきた。
「鏡子ちゃん、痛いよ……強く吸いすぎだってば。そんなことしたら、(そんなことしたら!)……あー!! 待って待って!」
「 もうダメだよ、サキちゃん」
「待って鏡子ちゃん!」
唇を離した鏡子ちゃんの顔は、これまでに見たことがないほど満足げで、どこか独占欲に満ちた妖艶な笑みを浮かべていた。
(……あーっ!! これ、完全にキスマークじゃん……! しかも、一個や二個じゃない、いくつも、いくつも……!!)
鏡子ちゃんが帰った後、これを見つけた優花里さんがどんな反応をするのか……
想像しただけで、わたしの背骨が凍りついた。
そんなわたしの絶望的な顔を尻目に、鏡子ちゃんは「ふふっ、サキちゃん、大好きだよ……」と囁きながら、さらなる「証」を刻もうと首筋に吸い付いてくるのだった。
わたしの首回りが、ヒョウ柄になっちゃうよ!
し、しかも明日からは!!
鏡子の行動がサキの命を縮める事になってしまうのか?
げに恐ろしきは親友(?)の……




