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ミネラルウォーター(?)と恐怖の来訪者!!

 アニメを見終えたあと、鏡子ちゃんは、「サキちゃんに美味しいものを作ってあげるね!おばさんに声をかけてくるよ」と言って、わたしの制止を振り切るようにして台所へと向かい、わたしもその後を追った。


 母さんと並んで料理を始めた彼女は、さっきまでの不穏な空気を嘘のように消し去り、完璧な「仲良しの幼馴染」を演じている。


「おばさん、サキちゃんは最近どんなものが好きなんですか?」


「まあ、鏡子ちゃん、そんなことまで。サキはねえ、相変わらずお子ちゃま舌が抜けなくて……」


 楽しげな笑い声と、包丁がまな板を叩く「トントントン」という軽快な音がリビングまで響いてくる。

 けれど、わたしにはその音が、逃げ道を一つずつ塞ぐ杭を打ち込んでいる音のように聞こえていた。


 鏡子ちゃんが料理に夢中になっている隙を見計らい、震える指でスマホを取り出した。

 画面には、案の定、優花里さんからの通知が溜まっている。


『お昼時ね。鏡子さんと何を食べているのかしら?』

『サキ、返信がないけれど、まさか食べさせてもらっているわけではないわよね?』


 冷や汗が止まらない。わたしは慌てて、鏡子ちゃんにバレないように画面を隠しながら返信を打った。


『今、鏡子ちゃんがお母さんと一緒に料理を作ってくれてます。私はリビングで一人で待ってるところです! 誓って、二人きりでイチャイチャなんてしてません!』


 すぐに既読&返信、早すぎる!お嬢様って忙しいんじゃないの?!


『……そう。お母様もご一緒なら、少しは安心したわ。でも、サキ。彼女の料理に、何か「変なもの」が入っていないか、よく気をつけるのよ。あなたの体は、私だけのものなんだから』


(変なものって……鏡子ちゃんの○○とか、惚れ薬とか、そういうこと? いやでも冗談に聞こえないのが怖いよ!)


 その時、背後に気配を感じて心臓が口から飛び出しそうになった。


「サキちゃん、何してるの?」


「ひ、ひゃい!?」


 いつの間にか料理を中断した鏡子ちゃんが、エプロン姿で私の背後に立っていた。

 その手には、まだ濡れた包丁が握られている。


「……あ、RINE? 誰と?」


「あ、いや、えっと、アニオタ仲間の掲示板をチェックしてただけで……!」


「ふーん……。でも嘘をつくとき、サキちゃんは右上を見る癖があるよね〜?」


 ヤバい!バレてる?!


 鏡子ちゃんは、しばらくの間、少し暗くなった瞳で私を見つめ、濡れた指でわたしの頬をなぞった。


「へへへ〜お姉は相変わらず人気者だね〜」


 わたしの横で、スマホをいじっていた美嘉が不用意な一言を発する。ば、バカっ!!


「美嘉ちゃん……サキちゃんが相変わらず人気者ってどういうことなのかな……?誰から人気なのかな……?」


 鏡子ちゃん!美嘉に包丁の先を向けないで!!


「ひっ!!な、なんでもありまひぇん……ひぃぃぃ……」


 涙目でブルブル震える美嘉。鏡子ちゃん、もう許してあげて……


「わ、わらひ、へ、部屋に行ってまひゅ……」


 美嘉は腰を抜かしながら逃げる様に四つん這いで2階へと上がっていった。

 2階のトイレに入る音がしたので、ちょっとチビっちゃったのかもしれない……


「サキちゃん、誰であっても、一週間の間、わたしとサキちゃんの時間を奪うことは許されないんだよ。……ねえ、お昼ごはん、もうすぐできるから。スマホは置いて、一緒に食べよう?」


 その笑顔は太陽のように明るいのに、背負っている影はどこまでも深かった。

 光が強ければ、その分闇も深くなる……何かのアニメで聞いたな……


 台所から漂ってくる美味しそうなハンバーグの匂いが、今は何かの罠のような香りに感じられて、わたしはただ鏡子ちゃんへ、「……はい」と力なく頷くことしかできなかった。


 が、しかし鏡子ちゃんと母の作った料理は、とても美味しかった。


「鏡子ちゃんは、いいお嫁さんになるわよね〜」


  などと母は能天気に言っていたが、その言葉を聞いた瞬間、鏡子ちゃんの瞳に妙に怪しい光が灯ったのをわたしは見逃さなかった。


(……ところでわたしっておっちょこちょいなキャラ設定じゃなかったっけ?)


 最近、鏡子ちゃんや優花里さんと付き合っていくうちに、自分の命を守るために細かな違和感に過敏になってしまい、そんな設定すら忘れかけている。


 自分の命を守るためには周囲に気を配って敏感に進化するんだな。なんか進化論みたいだよ。


  いまや、そのおっちょこちょい担当を引き継いだ(?)妹の美嘉は、自室でガタガタと震えている。

 わたしたちが夕食を終えて、鏡子ちゃんがリビングからいなくなってから降りてくるつもりだろう。

 自業自得とはいえ、やはり少し気の毒ではある。


 後で部屋までご飯持って行ってやろうかな?


(わたしみたいに、生き残るために、キャラ変しろよな、妹よ……)


 そして食事を終え、お風呂に入る段になって、

お客さんである鏡子ちゃんに先に入ってもらおうとしたのだが、彼女は「二番目がいい」と頑として譲らない。


「サキちゃんが先に入って。わたしは、その後がいいの!」


「えっ、あ、そう? じゃあ、お言葉に甘えて、お先に……」


 あまりに強く主張するので、わたしが先に入る事になった。


 幸い、家には両親も妹もいるので、「サキちゃんごめんなさい!お風呂出たかと思って入っちゃった!」「きゃーえっちー!」などという、ラブコメ定番のラッキースケベイベントなども発生することなく、わたしは無事に風呂から上がった。


 そして、入れ替わりで鏡子ちゃんがお風呂場へと向かう。

 あれ?ペットボトル……?なんで?


「お風呂に入ったら喉が乾くでしょ?そのためなんだよ」


「そうなんだ、でも中身空っぽだよ?」


「あ、うん。水道の水を入れるから」


「冷蔵庫にミネラルウォーターあるから入れようか?」


「あ、だ、大丈夫だよ!わたし水道水が好きなんだよ!」


「……???、そうなの?」


「うん、そ、そうなんだよ!」


 不思議に思いながら、わたしはリビングに向かう。


(あれ?……ちょっと待てよ)


 わたしの後に彼女が入るということは、この前わたしが優花里さんの後に入った時のように、彼女も……。


「サキちゃんが入って、いい匂いがするお湯……ふふっ、飲んじゃお!」なんて言いながら浸かってお湯を飲んでいる姿を想像してしまい、わたしは必死にその光景を頭の中から追い出した。


「いや、まさかね。親友の入ったお湯にそんな執着なんて、してないよね? 普通……いや、多分!」


 そう自分に言い聞かせながらリビングに入ろうとした時、浴室から鏡子ちゃんの楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。


 そのメロディは、今日一緒に見たあの『幼馴染とわたしのらぶらぶな日々ちゅっ♡』の主題歌だった。


 リビングでテレビを見ていると、鏡子ちゃんが風呂から出てきた。

 湯上がりでほてった表情は、どこか艶っぽくて色気がある。


「サキちゃん、お風呂おいし……き、気持ちよかったよ」


「そ、そう。よかったよ、ん?おいしい……?」


「なんか〜サキちゃんが入った後だから、サキちゃんが溶け込んでいるみたいで気持ち良かったよ〜」


 学年一位の優等生から放たれる言葉とは、到底思えない。


  「そ、そうなんだね……よかったね」


 語彙力が死滅して、それしか言えなくなってしまった。


「よいしょっ」 と言いながら、鏡子ちゃんが当然のようにわたしの横に座る。そして、ぐいっと体を密着させて、頭をこてんとわたしの肩にのせてきた。


「こうやってると、わたしたち新婚さんみたいだね」 と、また優等生らしからぬ言動。


「そ、そうだね……よかったよ。あれ?ペットボトルは?」


「あ、あれ?あれは客間に置いてきたよ」


「?……そうなんだ?何か飲み物入れておこうか?」


「あ、大丈夫だよ!入れてあるから!」


「水道水?」


「う、うん!そ、そうだよ」


 少し引っかかる感じもしないでもないが、寝る時に水を飲むのかな?


 などと考えていると、生温かい彼女の体温が伝わってくる。


 ふと視線を落とすと、彼女の大きな西瓜が視界を占領していて、そこから下がまったく見えない。


 これはこれで、何かを落としたりしたら物理的に視界が遮られて足元のものが見つけにくいよな……なんて、現実逃避気味に考えてしまう。


 気まずくなって真下を向くと、足元からお臍までしっかり見えてしまう自分の貧相な身体と比べてしまい、さらに悲しくなった。


 ふん!でも足元に何か落としてもすぐに見つけられるんだい!


「ねえ、サキちゃん」


「なに? 鏡子ちゃん」


 彼女はわたしの肩に顔をうずめたまま、耳元で吐息混じりに呟く。


「サキちゃんのお部屋で寝られないのかな?」

 (はい、寝られません!)


 「ん〜、うちの親もいるしね」


 「そっか、つまんないな……」


 去年までなら、ごく当たり前のように一緒に寝ていただろう。

 でも、今はこれまでの「幼馴染の付き合い」とは完全にステージが変わってしまっている。


 実は彼女が来る前、うちの親からも「鏡子ちゃんなら同じ部屋で寝たら?」と言われていた。

 それをわたしが全力で「彼女は客間!」と言い張って死守したのだ。


(こんな密着シーン、優花里さんに知られたら、最期だ。万が一知られたら、来月には美山家の立つ敷地は更地になっているに違いない)


 わたしの肩にかかる鏡子ちゃんの重みと、優花里さんの想像上の視線に、わたしは板挟みのまま、冷や汗を流し続けた。


 その後も密着したまま、しばらくテレビを見ていた。

 そろそろ寝ようということになり、客間へと鏡子ちゃんを送った。


「じゃあね、おやすみ」


「うん、おやすみサキちゃん」


 と思ったよりもあっさりと引き下がってくれた鏡子ちゃんにホッとしながら、自分の部屋に上がり、特に何も考える事もなく、普段はしない鍵をかけてから、スマホのRINEの画面を開いた。


『優花里さん、おやすみなさい』


『RINEを送って来れるということは、別の部屋で寝ているのね』

 さすが察しが早い。


『それはそうですよ〜! 優花里さんに言われたことは守ってますから!』

『さすがサキね。これから一週間、友人として彼女と楽しみなさいね』

『はい、もちろんです。おやすみなさい』

『おやすみ、サキ。愛してるわ』


 う〜ん、愛が重い。嬉しいんだけど、昨日見たアニメ『先輩が私のことを好きすぎるんだけど、でもスキだからいいよねっ!』のラストシーンの、あの血塗られた夕焼けがなぜか脳裏に浮かぶ。

 でもあの先輩のキャラデザ、なぜか優花里さんぽかったんだよな……


「おやすみなさい」と返信をして、わたしはベッドに入った。


 −−−


 深夜、物音で目を覚ます。 ガチャガチャ、と部屋のドアノブを回す音がする。


(え? なに? 怖いんだけど……?)


「サキちゃん、サキちゃん……」


(え? 鏡子ちゃん……? もしかして、ゾンビになっちゃってるの?)


「サキちゃん、サキちゃん……」


 怖い怖い怖い怖い〜! やめてよ〜、わたしたち友達なんでしょ〜! わたしまでゾンビにしないでよ〜!お願いだから〜!

 ガチャガチャ、ガチャガチャと、執拗にノブが動かされる。


 鍵をかけておいて本当によかった。


「サキちゃん、サキちゃん……」


 いや〜! やめてやめてやめて〜! 怖いよ〜!わたしは両耳を押さえ、布団を頭まで被り、時が過ぎ去るのを待った。


 しばらくすると、声とノブを回す音は止まり、やがてギシギシと廊下を遠ざかる足音が聞こえていく。


「ひっ……!」


 押し殺したような美嘉の悲鳴が聞こえた。


 可哀想に、トイレに行こうとして廊下で「それ」を見かけてしまったんだな……。

 おしっこ漏らしてなければいいけど。


 とりあえず、わたしは寝ていて気づかなかったということにしよう。


 うん、絶対にそうしよう!

 と、ギュッと目を瞑るのであった。

和室に置いてある鏡子ちゃんのペットボトルに入っているのは……?


真夜中の恐怖。

ホラー展開になってしまいました。

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