さあ!アニメ鑑賞だ!!
海に行った次の日の日曜日。
久し振りに、今日は一日「自宅警備」に専念できる。
朝食を済ませた後、わたしは今日一日の計画を立てた。
「今日は何本見ようかな。bアニメストアで1クール作品だと大体4時間50分ほどだから、朝から晩まで見るとして3作はいけるかな?」
今期のアニメはリアルタイムで追えているので、過去作から面白そうなものを探す。
「あ、そうだ。百合のアニメがいいかも。これからのわたしの貞操の危機の運命を回避するための勉強にもなるかもしれないし」
ネットで評判やあらすじ、公式サイトを吟味し、まずは一作品を選び出した。
あ、視聴の前に優花里さんに連絡しておすすめのコスメを教えてもらって……と思ったところで、ハタと気づく。
「あぁ……優花里さんプロデュースだと、お高くてわたしには手が出せないものばかりになりそうだな……」
じゃあ鏡子ちゃんに、と思ったが、彼女に聞くと「今から教えてあげる!」と即座に家に突撃してきそうだ。明日から嫌というほど会えるし、今日はアニメの日なのでその時にしよう。
優花里さんにはメイクのコツだけ聞けばいいや。
「よし、アニメ見よっと!」
などと 独り言をぶつぶつ言いながらキッチンでカフェオレを作り、キッチンにあった箱からクッキーをトレイに乗せて、自室で完璧な視聴環境を整えた。
その後、ほぼノンストップで1クール全12話を見終えた。
「う〜ん、百合アニメもいいなぁ……。これまでそこまで深くは見てこなかったけど、面白い!」
ちょっと今後の参考にもなった気がする。
ヤンデレ成分は現実で、もうこれ以上はお腹いっぱいだけど、ツンデレはいいよね!
「そう考えたら、美嘉ってツンデレな性格だよね。あいつ素直じゃないし。……え? でもそれなら、あいつわたしのこと好きなの? いや、ありえないし……キモいし、やめてよ」
「へっくちん!」
その頃、1階のリビングで美嘉が大きなくしゃみをしていたが、2階にいたわたしは知る由もなかった。
2作品目に取り掛かろうとした時、スマホが震えた。RINEの通知。優花里さんからだ。
『こんにちは、サキ。今日はゆっくり過ごせてる?』
『はい! 今朝起きてから1クール作品を一本見終えたところです!』
『そうなのね。今日はゆっくりと過ごしなさいね』
『はい! それと優花里さん、教えてほしいことがあるんですが』
『なんでもいいわよ、どんなことかしら?』
『メイクの方法なんですけど……』
『どうして急に?』
『いえ、わたしも優花里さんみたいに綺麗になりたいな、と思って』
――あれ? 急に返信が来なくなった……?
どうしたのかな、と考えていると、数分後にようやく返信が届いた。
『あなたは今のままでいいのよ』
『え〜? なんで〜? わたしはもっと綺麗になりたいんです!』
『綺麗になって、どうするの?』
『綺麗になって、優花里さんと、もっと釣り合いたいんです!』
『あなたは今のままで十分綺麗なのだから、もうわたしと対等なの。だから、今のままでいいのよ』
?? なんで? 普通、彼女が「綺麗になりたい」って言ったら、「もっと可愛くなるね!」とか応援してくれるもんじゃないの?
「どうしちゃったんだろ、優花里さん……。ん〜、分かりましたよ。そのままで頑張りますよ。でも鏡子ちゃんに明日コスメのことは聞いてみようっと」
『分かりました! 今のままのわたしで頑張ります』
『サキ、分かってくれて嬉しいわ。わたしは今のあなたが大好きで、愛しているから』
『はい、ありがとうございます!』
う〜ん、なんだろう……釈然としないものがあるけど、まあいいか。
優花里さんの愛が重……情熱的なのは変わっていないみたいだし。
「さあ! お昼を食べてから、2作品目行きますか〜!!」
お昼を済ませ、意気揚々と2作品目の視聴を開始した。
タイトルは『幼馴染とわたしの、らぶらぶな日々ちゅっ♡』
……のはずだった。
実はこれがタイトルからは全く想像できない、とんでもない「タイトル詐欺」の作品だったのだ。
内容は、キラキラしたタイトルや可愛いキャラデザとは裏腹に、想像を絶するほどハードな「親友に監禁される百合アニメ」だった。
「……う、嘘でしょ。主人公が好きすぎて、親友が主人公の行動を監視し始めて、ついには自分の部屋の中に監禁。最終回は包丁を握り締め、家に火をつけ、燃え盛る炎の中で主人公と一緒に……って……なんか凄く身につまされるんだけど……フィクションとは思えないよ」
アニメの中で「全部大好きなあなたのためなのよ」とハイライトが消えた瞳で、慈愛に満ちた(狂った)笑みを浮かべる親友。
その彼女に泣きつき、命乞いをする主人公の姿を見て、自分と重なり背筋に冷たいものが走る。
いやいや、これはフィクションだ。現実の鏡子ちゃんは、ちょっと距離感がバグっていて、ちょっと独占欲が強くて、たまにハイライトの消えた目でこっちを見てくることがあるだけ……。
「……え? 意外と共通点多くない……?やめてよ」
だめだだめだ! これはあくまでフィクションなんだから!
ほら、毎回Bパートの最初に「これはフィクションです」ってデカデカと注釈が出てたし!
不安を振り払うように、そのまま3作品目に突入した。
タイトルは『先輩が私のことを好きすぎるんだけど、でも私もスキなんだからいいよねっ!!』
「なんだか今のわたしと優花里さんみたいだな」
そんな軽い気持ちで見始めたのが運の尽き、これがトドメとなった。
内容は救いようのない「ヤンデレな先輩との百合作品」。
主人公を愛しすぎる先輩が、些細な誤解から主人公の浮気を疑い、狂気に走り、主人公の友人達を○し回ってしまう。
最終話、不気味なほど真っ赤な夕焼けに染まる屋上で、先輩は「これでわたしたちは永遠に結ばれるのよ」と微笑みながら主人公をめった刺しにし、そのまま自分も胸を貫いて二人とも〇んでしまうという、あまりにも悲劇的な結末。
画面に「Fin」の文字が出た後、わたしは部屋の暗闇の中で呆然と座り込んでいた。
「は……はは、なに、これ……」
優花里さんは、ちょっと(かなり)誤解しやすいし、わたしのことになると(周りが見えなくなって)見境がつかなくなるし、怒ると割と(というか相当)怖い性格だし、一途(過ぎ)だし……。
「この作品の先輩と、特徴が完全一致じゃないですかーーー!!」
「…………怖い、怖いよ……。なんでこんなの選んじゃったんだろ、もー、わたしのバカ!!」
これ、完全に今のわたしの状況とリンクしている。
鏡子ちゃんという「親友」。
優花里さんという「先輩(ヤンデレの恋人)」。
昨日、ナンパされて鼻の下を伸ばしてしまったわたし。
もし二人が「サキが他の男に目移りした」なんて誤解をしたら……。
ピッ!
沈黙を破り、スマホがRINEの受信を告げる。
「ひっ!」
『サキちゃん、明日の準備完了! 楽しみすぎて眠れないよ!』
――鏡子ちゃん、なんでこのタイミングなの? まるでアニメの親友がスマホ越しに笑いかけてきたみたいで心臓が止まるかと思ったよ。
続いて、優花里さんからも。
『サキ、明日からは鏡子さんと一緒なのよね。……あなたは変な真似をしないと思うけれど、もし何かあったらすぐに私に言いなさい。分かっているわね? ちゃんと教えなさいね』
――優花里さんもなんでこのタイミングなの!? もしかして二人とも、この部屋に監視カメラつけてるの!?外にドローンとか飛んでないよね?
明日から始まる、鏡子ちゃんとの我が家の一週間お泊まり生活。
そして、何かあれば逐一報告を迫る優花里さん。
アニメで見た「バッドエンド」の足音が、すぐ背後まで聞こえてきた気がして、わたしはガタガタと震えながら布団に潜り込んだ。
わたしは高校卒業まで生きていられるのだろうか……?




