表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/61

本当にわたしって可愛いの?!

初めてのナンパに浮かれるサキ。

実はサキは自分自身では気づいてないですが、可愛い子設定なんですよ。

 そして、土曜日。


 事前に優花里さんへは、鏡子ちゃんと海に行くことを伝えてある。

 これを怠ると、今度はあちら側のヤンデレが核爆発を起こしかねないからだ。


「友達同士、楽しんできてちょうだいね」 と言われはしたが、「友達同士」という単語に込められた発音が、やけに力強かったのが耳に残っている。


 ……まあ、心配しちゃうのはお互い様だよね。わたしだって、今の自分の状況が心配だよ。


 午前9時、駅の待ち合わせ場所。

 そこには、朝の陽光を反射して輝かんばかりの美少女が、ぶんぶんと手を振っていた。


「サキちゃーん! サキちゃーん!」


「鏡子ちゃん、おはよう。……あはは、今日も元気だね」


 ああ、本当に可愛い。そして今日は薄着なので、よりはっきりと服の上からでも分かる、爆発しそうなその胸の存在感。

 わたしの周りは美少女の飽和状態で、一般庶民のわたしの目はそろそろ潰れてしまいそうだ。茜だって、最近は影が薄いけれど、かなりの美形だしね。


「サキちゃん! もうね、わたし楽しみすぎて昨日眠れなかったんだよ!」


「泳ぎに行くのに寝不足はダメでしょ!、足がつっちゃうよ!」


 もう、鏡子ちゃんは優等生なのに、たまにこういう抜けたところがあるんだから。


 そういうところは、素直に「可愛い」鏡子ちゃん。

(せめてヤンデレ属性さえ発動しなければいいのに)


 電車に乗ると案の定、蛇に絡みつかれるようにして密着された。

 冷房車にしておいて正解だったよ。彼女の体温がダイレクトに伝わってきて、弱冷房車だったら今頃わたしの方がのぼせていただろう。


 輝くような笑顔で、ずっと楽しそうに思い出話を語る鏡子ちゃん。

 こんな美少女にくっつかれて、一点の曇りもない笑顔を向けられる。

 

 本来なら男子が夢にまで見る「幸せの極地」なんだろうけどね……。


(複雑だなぁ……わたしの立場って……)

 わたしは半ば悟りを開いたような顔で、窓の外を流れる景色を見つめていた。


 雲乃須駅を降りると、そこには潮の香りと広大な海水浴場が広がっていた。

 前回来た時から5年ぶりくらいになるけれど、景色はほとんど変わってなくて、とても懐かしい。


「サキちゃん、行こ!」

  わたしの手を引いて駆け出す鏡子ちゃん。

 その背中を見ていると、一瞬だけ小学生の頃に戻ったような錯覚を覚えた。


 ……


 ……いや。 全然戻ってなかった!


 海の家で二人して水着に着替えた瞬間、わたしは「胸囲の格差社会」という非情な現実に愕然とした。


  わたしだって、これでも少しは膨らんでいるんですよ! 中学の頃に比べれば成長してるんです!

 でも……鏡子ちゃんのそれは、もはや西瓜が二つ付いているようなものだ。


 鏡子ちゃんが西瓜なら、わたしは……蜜柑……?


 景色は5年前と変わらなくても、人は5年で劇的に変わる。

 時の流れの残酷さと、栄養素の行き先の不公平さに、わたしはただただ心の涙を流すしかなかった。


 わたしが選んだのは、体型をあまり強調しない水色のチェック柄タンキニに、上はしっかりラッシュガード。これで「格差社会」からの体型隠しはバッチリ……なはずだった。


 対する鏡子ちゃんは、その溢れんばかりの凶器(お胸)を強調するようなピンクのビキニ。

 下はパレオを巻いているけれど、隠しきれないダイナミックな曲線美が、ビーチ中の視線を独り占めにしている。


 海の家から海岸までのわずか数十メートル。その間に3組ものナンパに捕まった。


  最初は笑顔で「すみません」と断っていた鏡子ちゃんだが、しつこく食い下がる相手には、一瞬でハイライトの消えた冷たい視線を送って撃退。


 うん、正解。

 それ以上追いすがると、この砂浜に埋められることになりかねないからね。

 皆さん、命拾いしましたね。


 そして、水着姿になっても「蛇」は健在だ。

 相変わらずわたしの腕に鏡子ちゃんが絡みついている。

 これ、夕方にはわたしの腕、蛇の形に日焼け跡が残ってそうなんですが。


 レンタルしたビーチパラソルの下にシートを引くと、鏡子ちゃんは「ふぅ」と吐息をついて、おもむろにうつ伏せに寝転んだ。


「……これって、もしやラブコメで必須のあのイベントか!? 来たのか!?」


「サキちゃん、背中に日焼け止め、塗って?」


 やっぱりだー! 水着回における必修科目、単位取得必須のイベントだ! しかし背中なら大丈夫。

 背中なら安全だ(何が?)。わたしは日焼け止めを手に取ると、鏡子ちゃんの白くまぶしい背中に広げていく。


「……柔らかいし、きめ細やかな肌だなぁ」


 思わず感心してしまう。羨ましいな、優花里さんとどっちが……と思いかけて、慌てて首を振った。

 ダメダメ! 今は親友の鏡子ちゃんと遊びに来ているんだから。優花里さん、一瞬だけ脳内の奥に引っ込んでてください。ごめんなさい。


 一通り塗り終わると、鏡子ちゃんは「ありがとう、サキちゃん」と甘い声を出した。


「じゃあ、今度は前……お願いね」


 言いながら、彼女はくるりと仰向けになる。 ……いやいやいや! 前は自分で塗れよ! その二つの西瓜の圧倒的質量を見てるだけで悲しくなるし、何よりわたしの心臓がもたない。


 そこはもう、アニオタの意地にかけて全力で拒否しました。


「サキちゃん、少しだけ海に入らない?」

鏡子ちゃんに手を引かれ、わたしは立ち上がった。


 体型隠しのためのラッシュガードだが、実用的な理由もある。わたしは肌があまり強くないので、直射日光を浴びるとすぐに真っ赤になり、数日間は「因幡の白兎」状態になってしまうのだ。


 そんなわたしの体質をよく知っている鏡子ちゃんだが、せっかく海に来たのだからと、無理のない範囲で誘ってくれたのだろう。


「うん、行こう!」 わたしたちは波打ち際へと駆け出した。

 火照った身体に、少しぬるめの海水が心地よくまとわりつく。

 わたしたちは小学生の頃に戻ったように水を掛け合ったり、軽く泳いだりして、束の間の「普通の夏休み」を満喫した。


  砂浜のパラソルに戻り、腰を下ろそうとすると、鏡子ちゃんが言った。


「飲み物買ってくるね。サキちゃんはそこで座ってて」


「あ、鏡子ちゃん、わたしが行くよ」


「いいよ。ラムネでよかった?」


「うん、ありがとう」


 鏡子ちゃんの背中を見送りながら、わたしはぼーっと海を眺めていた。


 小学生くらいの子供たちが走り回り、砂の山にトンネルを掘っている。

 あの子たちくらいの時から、鏡子ちゃんとはずっと一緒なんだよな……。

 もし幼馴染じゃなかったら、あんなに可愛い子とこんなに仲良くなれたんだろうか?


 そんな感傷に浸っていると、不意に上から影が落ちた。


「ねえ、友達と海に来てるの?」


「へ? は、はい」


 見上げると、いかにも「海の男」といった風貌の男性が立っていた。


「彼氏と? それとも女の子同士?」


 (あ! これ、人生初のナンパだ! )


「え、わたしに? わたしなんかでいいの!?」


  驚きのあまり、心の声がそのまま口から漏れてしまった。


 男の人は不思議そうな顔で

「君が可愛いから声かけてるんだよ〜」


「えっ、わたしが……かわいい? 嘘でしょ!?」


「いや、本当だって。マジで可愛いよ」


「そ、それは……夏の海補正とか、そういうのでは?」


「何言ってるの。君レベルなら、普段からナンパされまくりでしょ?」


(い、いえ! 全然です! 断じて!)


「嘘じゃないんですけど……。ちなみに、どういうところが可愛いんですか? 後学のために……」


「目はぱっちりとして大きいし、目鼻立ちもしっかりしてるし、なにより顔立ちが整ってるよ」


 本当ですか? 冗談じゃなくて!? わたし、男性から見ても「アリ」なの? 生まれて初めての評価に、脳内が少しふわふわとしてきた――その時だった。


 急に、周囲の気温が南極並みにまで急降下した。


「ちょっと……あなた、誰に声をかけているんですか?」


 背後から響いたのは、この世の終わりを告げるような冷徹な声。


「ひっ!」

 わたしをナンパしていた男の人は、この世のものとは思えない恐ろしい怪物でも見たような顔になり、「ご、ごめんなさい!」と脱兎のごとく逃げ去っていった。


 ほわわ〜……と放心しているわたしに、鏡子ちゃんがいつもの(?)声で話しかけてくる。


「サキちゃん、大丈夫だった? びっくりしちゃった?」


「うん、びっくりした……。でも鏡子ちゃん、わたし、可愛いって言われた……このわたしが……へへっ」


「……チッ」


 え、今、舌打ち聞こえた? 鏡子ちゃんは、男が逃げていった方を般若のような形相で一睨みしていたが、すぐに慈愛に満ちた聖母のような顔に戻って、わたしをぎゅっと抱きしめてきた。


「サキちゃん、怖かったよね。大丈夫だよ、わたしが守るから」


 抱きしめられながらも、わたしの頭の中は、可愛いって言われた……ナンパだ……という未知の体験への戸惑いでいっぱいだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ