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やっぱり正義のわたし?!

 月曜日。

 今日は図書館が休館日なので、うちの家での勉強会だ。

 驚くべきことに、課題はもうほぼ終わりかけている。これ、わたし史上最速の夏休みの課題片付け記録だよ。

 小学生だったら、ここから一ヶ月は鬼の様に遊びまくれる自由時間を謳歌できるんだろうけど……。これからは一学期の復習と、二学期の予習が待っており、現実は非情である。


 高校生はつらいよ……


 鏡子ちゃんと部屋の小さなテーブルを挟んで座り、課題をこなす。

 でも、わたしの頭の中は昨日の優花里さんの「結ばれる」宣言と、あの獲物を狙うような目がぐるぐるとリフレインしていた。


 「サキちゃん、勉強がおろそかだよ。心ここにあらずだよ!」


「あ、ああ、ごめんね。……ねえ、鏡子ちゃん」


「ん? なに?」


「キスの次って……なんなんだろうね?」


 気づいた時には、脳内のバックグラウンドで再生されていた疑問がそのまま口から漏れ出していた。


 ……あ。しまった。


 鏡子ちゃんが急に下を向いて黙り込む。


「……あれ? 鏡子ちゃん? どうしたの? あ、ごめんね、勉強に集中しないとだね!」


「サキちゃん!!」


「は、はい!」


 鏡子ちゃんが勢いよく顔を上げた。


「つ、次って……!?」


「え? つ、次だね……ほら、男の人となら、ほら、えっちな漫画とかの情報があるじゃない? でも……」


「それって……女性同士ってこと?」


「あ、は、はい……!」


 鏡子ちゃんの顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。


「ごめんね、勉強中に変なこと聞いて……」


「わ、わたし……サキちゃんとなら……か、覚悟……出来てる……よ……っ!」


「は??覚悟?なんの?」


「な、なんでもない! なんでもないよ!」


 鏡子ちゃんは両手を突き出し、手のひらをこちらに向けてブンブンと高速で振り回した。


「一緒に一週間もいれるし……」


「? 一週間? あ〜お盆の事だね」


「よろしくね……っ」


「あ〜、こちらこそよろしくね」


 鏡子ちゃんはそのまましばらく、真っ赤になって俯いたままだった

(……? なんだろう、鏡子ちゃんまで情緒不安定になっちゃって。やっぱり勉強のしすぎかな?)



 その日の鏡子ちゃんは、妙にしおらしかった。


(鏡子ちゃんって、実はヤンデレとかじゃなくて、小学校の頃から元々こういう……ちょっと内気で友達にも優しい性格だったよね)


 なんて懐かしく思いながら、順調に課題を進めていく。

 彼女が帰る頃にはすっかりいつもの調子に戻っていて、「また明日ね」と笑顔で門の前で見送った。


(そうだ、これまで百合の漫画やラノベはあまり見てこなかったけど。見てみよう!少しは参考になるだろうし)

 

 ーーー


 今日、サキちゃんから「キスの次の段階」について聞かれた。


 不意に投げかけられたあまりにストレートな質問に、しばらく脳がフリーズしてしまった。

 けれど、よく考えてみれば当然のことかもしれない。


 サキちゃんのファーストキスは私。

 だから彼女は、その「次」を私と一緒に歩もうと考えてくれているのだろう。


 サキちゃんがあんなに大胆な人だとは思わなかったけれど、それだけ本気で私との関係を深めたいと思ってくれている証拠だ。嬉しい!


 最近、伊藤さんの話題もあまり出なくなった。毎日こうしてサキちゃんと顔を合わせ、一緒にいる時間が長い私の方が、彼女よりもずっと大きなアドバンテージを持っている。


 もう既に、サキちゃんの想いは私の方へ向いてくれているのかもしれない。


 お盆の一週間が楽しみでもあり、少し怖くもある。

 もちろん、私だってキス以上のことなんてした事がない。だから少しの不安はある。


 でも、大好きなサキちゃんになら、何をされてもいいと思っている。本当に可愛くて、優しくて……私の唯一無二の理想の女の子。

 愛してるよ、サキちゃん。


 ーーー


 「やったぁぁ! とうとう7月中に課題をすべて終えたぞ! 今度は一学期の復習に入るぞ。鏡子ちゃん、本当にありがとうね!」


 わたしは鏡子ちゃんの部屋のテーブルの上で快哉を叫んだ。


「ううん、サキちゃんが頑張ったからだよ」


 鏡子ちゃんが、ひまわりのような柔らかい笑みを浮かべてこちらを見ている。

 最近の鏡子ちゃんは、なんだか以前のように優しくなった気がする。

 あの、瞳のハイライトが消えるようなヤンデレ気質が影を潜め、気持ちも安定していて、女の子としての魅力が一段と増したように思う。


 もちろん、制服の上からでも存在感を放つ大きなお胸も健在だ。


 「なんか最近、鏡子ちゃん可愛くなったよね。もちろん元から綺麗だったけどさ」



「えっ? そ、そうかな? ど、どうしてだろ……。嬉しいよ、サキちゃん」

 鏡子ちゃんは照れたように頬を染める。


「サキちゃんだって、高校に入ってからどんどん綺麗になっていってるよ」


「え? わたし? わたしは全然だよ!元が微妙だし……」


 わたしは慌てて顔の前で手を振った。鏡の中の自分は、相変わらず冴えないアニオタ女子に見えるのだけど。


「ううん。そんなことはないよ。サキちゃんは可愛いよ」


「そんなことないよ〜! 鏡子ちゃんに比べたら……」


「わたしとは違うタイプだからだよ。……わたしは、サキちゃんの顔、大好きだよ」


 (……この前、優花里さんにも全く同じようなことを言われたな)

 美少女二人にそこまで言われると、流石に照れくさい。


「ありがとう、鏡子ちゃん!」


「その笑顔も、サキちゃんのいいところなんだよ。もっと自分に自信を持ってね!」


「うん、ありがとう。……じゃあ、あとは胸さえ育てば完璧だね! テヘヘ……」


 自虐的に笑い飛ばそうとした、その時だった。


 鏡子ちゃんが急に真剣な表情になり、わたしの肩を掴んだ。


「だからー! サキちゃんの胸は『正義』なんだよ!!」


「……え、あ、はい?」


(鏡子ちゃんにとっては正義でも、個人的にはこの『ひんぬー』は悪というか、物足りない以外の何物でもないんだけどな……鏡子ちゃんや優花里さんほどでなくても、もう少し欲しいかな……)


 鏡子ちゃんの熱烈な「ひんぬー肯定」に圧倒されつつ、わたしは明日から始まるお盆の一週間――「鏡子ちゃんお泊まりウィーク」への期待と、少しの不安を抱くのだった。


意味気持ちのすれ違いが生まれていました。

どんどん誤解を抱えたまま進んでいくでしょうか?

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