これじゃ蛇に睨まれた蛙だよ〜!!
「ゆ、優花里さん、わたしたちまだ清く正しい高校生なんですよ! そ、そんな結ばれるって! あ、赤ちゃん出来たら、ど、どうしちゃうんですか!!!」
パニックの極致で叫んだわたしの言葉に、優花里さんは一瞬呆気に取られたあと、
「ふふ……サキってやっぱり面白いわね」とクスリと笑った。
そのまま、すっとわたしの上からどいて、ベッドの横に腰を下ろす。
「そうね、わたしたちまだ高校生だものね」
「そ、そうですよ! し、しかも優花里さんは風紀委員長なんですから……!」
わたしの必死の訴えに、優花里さんはふっと片方の口角を上げて笑った。その笑みの意味が分からず、背筋がゾクりとする。
(あれ? もしかして機嫌損ねちゃった……?)
「サキ、わたしは自分から風紀委員長になるつもりはなかったのよ」
(そうなの? てっきり天職かと思っていたのに)
「前にも言ったとは思うけれど、人付き合いが苦手で、人との距離感を上手く測れなかったから……つい口うるさく注意したりして。それが規則に厳しいと取られたのね」
(確かに、高校で再会した最初の頃もそうだったな……。あの厳しい態度は、不器用さの裏返しだったんだ)
「それでいつの間にか、一年生の時から風紀委員になり、今は委員長になっているの」
「そうだったんだ……」
「でも、委員長が『こういうこと』をやっちゃだめよね」
「ま、まあ……そうですかね……」
少し反省したような彼女の様子に、わたしがホッと胸をなでおろしたのも束の間。優花里さんはわたしの目をじっと見据えて、とんでもないことを言い出した。
「だから、次はちゃんと『事前に宣言』しておくわ」
「そうそう……って、ええ〜〜っ!?」
「事前にちゃんと宣言しておけば、両方の合意のもとで結ばれる事になるわ。そうでしょう?」
「えぇ〜……なんか上手く丸め込もうとしてない!?」
理詰めなのか、ただの欲望なのか。優花里さんは少し困ったような、それでいて逃さないと言わんばかりの表情で首をかしげる。
「サキは……嫌なの?」
(くっ!卑怯だ……! その潤んだ瞳でそんな質問されたら、否定なんてできるわけないじゃん……!)
「い、嫌じゃないですよ! そういうのも、その……いいかな、なんて、思ったり……思わなかったり……」
「じゃあ!」
(じゃあ、じゃねえんだよ〜!優花里さん!)
食い気味に迫る彼女を、わたしは必死に押しとどめる。
「う、う〜ん……まだ心の準備が出来てないので……」
「大丈夫よ。別荘の時までには、心の準備も整うわよね?」
「え……」
「じゃあ決定ね! これでもう、サキの全てがわたしのものだわ!」
満足げに微笑む優花里さん。……あれ? いつの間にか、夏休みの別荘で「食べられちゃう」ことが確定事項になってる!?
(え、え〜っ!なんでわたしの周りには、ヤンデレで蛇の様な親友と肉食なお嬢様しかいないんだよぉ……!)
着替えて部屋を出て、車で送ってもらい、家の前で「バイバイ」と別れた……のは覚えている。
けれど、その間の細かい会話や道中の景色は、ほとんど記憶にない。
それだけ、あのスイートルームでの出来事が衝撃すぎたのだ。
「結ばれる……全部わたしのもの……。一体、別荘に行ったらわたしはどうなっちゃうの……?」
自室のベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
でも、優花里さんだってそういう経験はないはずだ。わたしの乏しい「薄い本」や「BL」の知識を総動員してシミュレーションしてみても……全く想像がつかねぇ。
あの人も、一体どうするつもりなんだろう? これからえっちなアニメとか見て予習するんだろうか。それともネットで調べたり、執事さんに「薄い本」を買いに行かせたり……。
(……中途半端な耳年増ほど恐ろしいものはないよ。そういうわたしも、全く見当がつかないんだけど……!)
こんなこと、誰にも相談できない。
もし鏡子ちゃんに相談なんてしたら、優花里さんにされる前に、鏡子ちゃんに「既成事実」を作られそうで命の危険を感じる。
「こういう時、どうしたらいいの……? 蜜柑ちゃんさんは『おっさん』だから、聞いたら教えてくれるかな? ……いや、おっさんにこんな事を聞いたら、変な事件に巻き込まれたりしてヤバいよね……」
悶々としながらスマホをいじっていると、リビングの方から聞き慣れた音がした。
「へっくちん!」
また美嘉がくしゃみをしている。
「美嘉〜! 冷房の温度上げなよ〜! 風邪引くよ!」
妹のくしゃみで、少しだけ現実の世界に引き戻された。
けれど、わたしの夏休みカレンダーには「別荘合宿」という名の、逃げ場のないデッドラインが刻まれている。
優花里さんのあの熱い吐息と、獲物を狙うような瞳を思い出し、わたしは布団の中で一人、ガタガタと震えるしかなかった。
(これじゃ蛇に睨まれた蛙だよ〜!)
迫られると弱いサキ、夏休みの予定が少しずつ埋まっていきます。
鏡子との調整をつけないと修羅場が……




