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秋葉原デート?!

 久し振りの優花里さんとの会話は、驚くほど盛り上がった。


 『リリー』の話をしていると、あの作品のおかげでわたしたちが知り合ったとは露ほども知らない美嘉が、不思議そうにわたしたちを見ていた。

 けれど、そのうち美嘉も会話に入ってきた。


(あれ? アニメには興味ないとか言ってなかったっけ? 前にわたしの宝物の限定フィギュアを欲しがってたから、実は隠れファンなのかな……)


 まあ、何はともあれ『リリー』仲間が増えるのは単純に嬉しい。


 9時を過ぎて、優花里さんもそろそろ予備校に行く時間となった。

 名残惜しそうにするわたしに向かって、優花里さんは少し照れたように提案してくれた。


「週末だけれど……日曜日に、どこかへ行かない?」


「はい! 行きましょう!行きたいです!」


 わたしは食い気味に即答した。


 土日は鏡子ちゃんとは会う約束をしていなかったので、もし優花里さんに会えなければ家でアニメ三昧にしようと思っていたのだ。


「どこか行きたいところはありますか?」


「サキと一緒なら、どこでもいいわ」


 なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。


 アニメに強い関心を持っている優花里さんだが、お嬢様育ちの彼女はおそらく行ったことがないであろう場所。わたしは思い切って「秋葉原」を提案してみた。


「アニメによく出てくる街なので、興味があるわ。ぜひ行ってみたい!」


「本当ですか!? よかった!」


 ということで、日曜日は二人で秋葉原に行くことに決まった。


「初めてだから、楽しみだわ」と微笑む優花里さんを見て、わたしの心も期待でパンパンに膨らんでいた。

 久し振りの、そして「恋人」になってから初めての本格的なお出かけ。


 ……でも、アキバって結構オタクの知り合いに遭遇する率高いんだよね。


 わたしはときめく胸を抑えながら、優花里さんの車を見送った。



 土曜日は一日中家でアニメを見て過ごした。

 溜まっていた感想も一気に何作も投稿できたし、久しぶりにコアラっ子さんからもリプが来て、リプ欄は大盛り上がりだった。これで完全に以前の通りだ。


 あとは、明日のデートプランを考えないと。


 優花里さんは「いつものリムジンで向かうわ」なんて言っていたけれど、流石に秋葉原にリムジンで直接乗り付けるのは目立ちすぎる。

 目立つと知り合いに目撃されるかもしれないし……。

 お願いして、いつもよりは目立ちにくい車で来てもらうことにした。

 また、優花里さんが銀座によく行くお店があるそうで、その近くの駐車場に車を停めるらしい。

 それなら見つかりにくくなる、かな?


 そこから有楽町に出て、秋葉原までは電車移動だ。


 (よく行く銀座のお店……。庶民のわたしが知ると、悲しくなるから詳細は聞かなかったけど、やっぱり住む世界の違う本物のお嬢様なんだよなぁ)


 アニメという共通点があるとはいえ、よくこんな素敵な人と恋人になれたものだと、自分でも怖くなってくる。

 優花里さんとの出会いで人生の運をすべて使い果たしてしまったんじゃないだろうか。

 もしこの人にフラれたら、わたしは一生独身なんじゃ……なんて、つい悲しい想像をしてしまう。


 いやいや、弱気になっちゃダメだ! 秋葉原でのプランはバッチリ(な、はず)だ!


 夕食は優花里さんの行きつけのレストランに行く事になった。優花里さんの行きつけ……?

 少し恐ろしい気もするけれど、そこはお任せすることにした。ドレスコードとか大丈夫だよね……?


 一応、優花里さんと並んでも恥ずかしくないように、服装もいつもより少しだけ背伸びをしてみよう。


 「明日が楽しみだなぁ……」


 RINEでおやすみの挨拶を送る。明日は9時に迎えに来てくれるそうだ。


 どんな休日になるのか、期待と少しの緊張を胸に、わたしはいつの間にか深い眠りに落ちていた。



 当日。約束の9時より少し前に、優花里さんはやって来た。


 確かにリムジンではないけれど、これ、テレビでよく外国の要人が乗っているような防弾仕様っぽいやつだよね!?


「サキ、今日はいつもの車ではないから目立たないでしょう?」

「う〜ん……優花里さん、家の前に止まっているだけでも十分目立ってます。近所の人に、どこの海外の要人が遊びに来たんだと思われちゃうよ!」


「ふふ、相変わらず面白い事を言うわね。乗って、サキ」


 運転手さんが恭しくドアを開けてくれる。


 乗り込んでみると、シートは上質な本革で、いかにも「高級車」という香りがした。


「優花里さんは、普段の登校はどうされているんですか?」


「いつもの車よ。でも、学校の目の前に止めるのは目立って良くないから、少し離れたところから歩いているわ」


「なるほど……。だから学校の周りであの車を見たことがなかったのか。でも、あれが『いつもの車』って言える生活、想像できないよ」


 この車だって、うちの軽自動車と比べたら巨大すぎる。前の席に足が届かないし、わたしなんてこの広い床に正座していた方が似合っているかもしれない。


「サキ、ところで……あなたの垢の名前、どうしてみっきん様なの?」


「あ〜、あれはですね、わたしの名前って『ミヤマサキ』じゃないですか? 最初の『ミ』と最後の『キ』でミキ……そこから『みっきん』にしたんですよ」


「そうなのね。由来を聞くと、あなたらしくて可愛らしいわね」


「優花里さんは、どうして『コアラっ子』なんですか?」


「わたしは本名のユカリからユーカリを連想して。ユーカリはコアラの食事でしょう? だからコアラで、コアラっ子なの」


「へー! いろんな名前の付け方があるんですね〜」

 ふと、いつも絡んでくれるフォロワーのことが頭に浮かぶ。


「そういえば、蜜柑ちゃんさんとかはどうなんでしょうね?」


「蜜柑ちゃん……?」


「恐らくあの人はおっさんでしょうから、もしかしたら蜜柑みたいなお腹をしているとか?」


「サキ、それは酷いわよ……ふふふっ!」


 優花里さんが楽しそうに笑う。その横顔を見ているだけで、なんだか誇らしい気持ちになった。


 ……その頃、部活の試合中だった美嘉が、原因不明のくしゃみを連発してミスをしまくっていたとは、わたしたちは知る由もなかった。


 「行きつけの銀座の店の駐車場」と言っていたけれど、案内されたのはまさに銀座のど真ん中にあるビルの地下駐車場だった。


 行きつけ……。わたしの行きつけなんて、駅前のボクドナルドと、家の近くのスーパー、あとはドラッグストアくらいだ。あ、アニメート雲乃伊戸店も、そうかな。


 ……いや、もうね、比べる必要すら感じないよ。住む世界が違いすぎて、逆に清々しいまである。


 車を降りて、有楽町駅まで数分歩く。ここからは電車移動になる。


 ふと疑問に思った。……優花里さんって、自分でお金を払って電車に乗ること、あるのかな?

「あの、優花里さん。西瓜スイカって持ってます?」


「西瓜? ……ええ、そろそろ時期だものね。お中元で届いていたかしら」


 あー、やっぱり! 交通系ICカードの存在すら怪しいのか!


「あ、いえ、カードの方です。スマホに西瓜のアプリも入れてないですよね?」


「?……アプリは使わないし、ほとんど入れていないわよ」


「あー、分かりました! じゃあ切符を買いましょう!」


 といっても、最近はスマホ決済ばかりなので、切符を買うのはわたしも久し振りだ。


「ええーと、路線図から値段を見て、と……。優花里さん、あの、失礼ですけど『硬貨』ってご存知ですか?」


「硬貨? お金の? ……サキ、もしかして、わたしの事をバカにしていない?」


 優花里さんがジト目でわたしを睨む。


「それくらいは分かるし、持っているわよ」


「よ、良かったです。てっきり、お金って紙しか存在しないと思ってて、小銭を見せたら『何この丸い金属の塊!?』とか言われるかと思いました」


「……そんなわけないでしょう。でも、そうね。現金自体、そんなに使わないかもしれないわ。家族カードがあるから」


 そう言って優花里さんが財布から出してきたのは、見たこともないような漆黒のカードだった。

 ……あ、これ、普通の人は持てないやつだ。インビテーション(招待状)がないと作れない、都市伝説級のカードだ。


 もうやだこの人……どこの国の石油王だよ!


「有楽町から秋葉原まで、150円ね」


「150円……。なんだか、おままごとをしているみたいで不思議な感覚だわ」


 券売機から出てきた小さな切符を、優花里さんは珍しそうに、そして大切そうに指先でつまんで眺めていた。無くさないでくださいね。


 ホームに上がり、山手線に乗り込む。東京駅を過ぎたあたりで席が空いた。


「優花里さん、座りましょう。……ここが椅子って分かりますよね?」


「サキ〜!わたしそんな世間知らずじゃないわよ。ちゃんと調べてきたから分かるわよ」

(あ、逆に、調べないと分からなかったんだ……)


「そろそろ秋葉原ですよ、降りますよ」


「早いのね」


「有楽町からだとすぐですからね」


 電車を降りて改札を抜ける。さすが秋葉原、ものすごい人の数だ。

 最近は外国人も多い。もし英語で話しかけられたら優花里さんに通訳を頼もう。


 駅を出た瞬間、優花里さんのテンションが爆発した。


「こ、これが秋葉原〜! アニメの聖地よね! ね! サキ! ここ見たことあるわ! あのキャラが歩いていた場所よね!」


「ゆ、優花里さん、落ち着きましょう……」


「あ、サキ! メイドさんがいるわよ! メイドカフェって本当にあるのね!」

(……あなたの家、普通に本物のメイドさんがいるだろうに)


 「うわ〜! すごいわ! あっ、サキ見て! リリーの大きな広告が! ああ、やっぱりリリーは可愛いわ……しかもあんなに大きく……!」


 地方の修学旅行生でもここまで感激しないだろう。

 やはり、彼女がこれまで送ってきた生活は世間とは切り離されたものだったんだと再確認する。


 「サキ! もっと向こうに行きましょうよ! 道の両側にびっしり……あ、リリーのフィギュア! サキ! サキ!」


 大興奮でわたしの腕を引っ張る優花里さん。ここまで喜んでくれると、連れてきた甲斐があったというものだ。


 と、ほっこりしていると、彼女が上目遣いで提案してきた。

 「ねえ、サキ、も、もし良かったら……メイドカフェに行ってみたいんだけど……」


(毎日がメイドカフェみたいな環境のくせに〜!)


「いいですよ、行きましょうか。あ、優花里さん、野良メイドさんに嬉しそうに手を振らないの!」


 それにしても、彼女と歩いているとすれ違う人がみんな振り返っていく。

 カジュアルな服装で抑えているつもりでも、溢れ出るオーラと美貌は隠しきれないらしい。


 ……わたしは、やっぱりお付きの人だと思われてるんだろうな……


 以前わたしが入ったことのあるメイドカフェの有名店にやってきた。

 30分ほど待って、ようやく店内へ。


「おかえりなさいませ〜! お嬢様!」


「ひゃっ……!」


 優花里さん、変な声が出てる。それにお嬢様なんて、家で毎日何度も言われているでしょうに!


「あ〜、メイドさんみんな可愛いわ……これがメイドカフェなのね……」


 優花里さんは目を輝かせて、キョロキョロと周りを見回している。

 メイドさんがやってきてメニューを説明してくれる。今日は飲み物を注文することにした。


「ねえ、サキ。あのアレ……『おいしくなあれ、萌え萌えキュン!』って、やってくれるのかしらね!? ね!? 楽しみだわ!」


 ……なんか知識が偏ってるよな。なんでそっち方面だけ完璧に調べてるの?


 やがて飲み物が運ばれてきた。

「さあ、お望みの『萌え萌えキュン!』ですよ〜」


 メイドさんと一緒に、優花里さんは全力で詠唱していた。しかも、顔を輝かせて。

 「萌え萌え、キュンっ!!」


 この人のこんな表情、初めて見た。


 家で本物のメイドさんに

「優花里お嬢様、お紅茶でございます」

「ありがとう」


 とやり取りしている時とは、きっと正反対の楽しさなんだろうな。

 今日から伊藤家のメイドさん達って萌え萌えキュン!とかやらされるんだろうか……


 あっ!動画撮っておけば良かった!こんな優花里さん二度と観られないだろうし。


 メイドカフェに大感激の優花里さん。……あ、メイドさんとチェキ撮ってる。


「サキ! サキも一緒にメイドさんと撮りましょう!」


「いや、何枚撮るんだよ! スマホの連写モードじゃないんだから!これ別会計ですよ!」


 大はしゃぎだな、この人。

 あの凛々しい風紀委員長が、猫耳ポーズで微笑んでいるチェキを風紀委員の皆様に見せてあげたいよ。……きっと委員のみんなショックで風紀委員会が解散しちゃうかもしれないけど。


 優花里さんは自分の分だけでなく、メイドさんにもチェキをプレゼントしていた。

 まあ、これだけの美人だもん。モデルさんか何かだと思われているんだろうな。


 メイドさんたちに「いってらっしゃいませ、お嬢様!」と見送られ、満足げな表情で店を出る。


「サキ、メイドさんって可愛いわね……」


「伊藤家のメイドさんの制服を勝手に変えたりしないでくださいね?」


「そうね、それもいいかも……」

 あごに手を当て真剣に考える表情。


「普通のメイドさんなのに、そういうのはやめてあげてくださいね!メイドはメイドでも種類が違うんですから!」


 そんな半分冗談を言いながら歩いていると、優花里さんがパッと目を輝かせてあるビルを指差した。


「ねえサキ、あそこに入りましょうよ!」


 指差した先は『La新版』。……この人と一緒に入ると、何時間も出てこられなくなりそう……


 「いいですよ。その代わり、買うのは手で持てる範囲にしてくださいね」


「手で? どういうことなの?」


 不思議そうな顔をしていたけれど、中に入った途端、その理由はすぐに理解されたようだった。


 「サキ! ああ、これも欲しい! こっちも……どうしたらいいの……?」


「とりあえず、一通り見ていきませんか?」


 二階に上がると、そこにはアニメのBDやDVDが所狭しと並んでいた。


「円盤よ! これも欲しいわ!」


「中古なので、少し前の作品もありますよ」


「あー! 本当だわ。どうしたらいいの……?」


 お嬢様なんだから、通販で新品を全巻買い占めればいいと思うんだけど、目の前にこれだけ実物があるとテンションが上がってしまうのはオタクの性なんだろうか。


「サキ、こっちは? これが『薄い本』というものなのね!!」

「しっ!優花里さん、声が大きい!!」


 上の階へ上がるたびに大はしゃぎする優花里さん。

 後ろからついていくだけでもうヘトヘトだ。


「サキ、見て! このリリーのフィギュア、造形が素晴らしいわ!」


「あーそれはレアな限定品ですね」


「欲しい!これなら買えるわ!」

(優花里さんに買えない物なんてないでしょ……)


 結局、彼女の手には収まりきらないほどの買い物カゴが……。

 あんなに「手で持てる範囲」って言ったのに、お嬢様の物欲にブレーキをかけるのは至難の業だった。


「優花里さん、どうするんですか? これらのグッズは……」


「自宅に宅配便で送るわ」


「お家って、厳しいんじゃなかったんですか?」


「やる事さえちゃんとやっていれば大丈夫よ!」


 配送の手続きをテキパキと済ませる優花里さん。

 ……この大量の戦利品が届いた夜、お嬢様の部屋が一夜にして「ガチのオタ部屋」に変貌する光景を想像して、わたしは余計な心配をしてしまった。


 その後、某漫画店で「薄い本」を見たいと言い出したのは、全力で阻止した。

 流石にそれはまだ早い!わたし達18歳未満だし!


 街の至る所で開催されているアニメイベントに目を輝かせ、行ったり来たり。ひとしきり堪能したところで、神田明神へ。


「ここが! あの伝説のアイドル作品の!」


 彼女がそっち系のアニメまで履修済みだったのは意外だったけれど、二人でお参りをして、お揃いの学業守りを購入した。


 ここでも、境内を隅々まで目を輝かせて走り回る元気なオタクの優花里さんだった。


 わたし、今日は保護者みたいだな〜。


優花里さんの初めての秋葉原でした。

わたしの経験も入っていたりします(笑)

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