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うっほぉ〜!これで頑張れる〜!!

 朝、目が覚めると目の前に美人の寝顔があった。

 夜の暗い中でも分かっていたけれど、朝の明るい光の中では、その美貌はより一層光り輝いているように見える。


(この人って本当にお姫様顔だな……。綺麗だな……)


 一般人のわたしにとって、この光景はあまりにも現実離れしていた。

 じっと見つめていると、優花里さんの瞼がゆっくりと動き出した。


「んん……。おはよう、サキ」


「おはようございます、優花里さん」


「ん〜……んん〜……」


 優花里さんはまだ夢心地なのか、甘えるような声を漏らす。

 

「サキ、キスして」


「あ、はい」


 わたしは照れ隠しに、ほっぺに「ちゅ!」と軽く音を立ててキスをした。

 すると、優花里さんは「いじわる……」と呟いて、顔を真っ赤にして伏せてしまった。


 この人がこんなに恥ずかしそうに赤面する姿なんて、普段からは全く想像できない。

 学校の誰も、あの厳格な風紀委員長がこんな顔をするなんて知らないだろう。


(もちろん、彼女の寝顔を見たのも わたし だけ。レアな わたし !)

  そう思うと、思わず笑みが溢れてしまう。


「サキのいじわる……」


「ん?いじわるって……?」


 優花里さんは、今度は期待を込めるように唇を突き出してきた。 どんどん積極的になっていくな、この人。


 この先どうなっちゃうんだろう……。


  (怖いよ、鏡子ちゃんが二人になっちゃうかも……)


 ふと最悪のシミュレーションが頭をよぎり、背筋が寒くなる。


「サキ……」


「はいはい」


 せがまれるまま、今度は唇へ「ちゅっ」と落とす。 優花里さんはすっごく喜んでいる。

 顔をどんどん赤くして、本当に、かわいい。


「そろそろ起きましょうか?」


「そうね」


 優花里さんはいつもの凛とした顔に戻り、二人で着替えを済ませた。

(もちろんお互い背を向けていたけれど)


  1階に降りると、そこにはホテルのバイキングかと見紛うほどの料理がテーブルの上に並んでいた。

(今晩からの食事への反動が怖いな……当分は残り物生活かな)

 もちろん味は抜群。さすがは母さん、気合の入り方が違う。


 そこへ、優花里さんが泊まっていることをすっかり忘れた美嘉が、パジャマ代わりのボロボロのトレーナー姿で降りてきた。

 優花里さんの姿を視界に入れた途端、美嘉は脱兎のごとく2階へUターン。上でバタバタと騒がしい音が響く。うるさいな。


  (もう忘れてたのかよ、ニワトリかよ)


 しばらくして改めて降りてきた美嘉は、ちゃっかりおしゃれまでキメていた。

 優花里さんはそんなこと気にしないのに。


「ゆ、優花里さん、おはようございますっ」


「美嘉さん、おはようございます」


 優花里さんの涼やかな声に、美嘉はアニメなら背景に「ふわわ〜」と文字が出そうなほど感激している。

 彼女も席に着き、並んだ料理の豪華さに目を見張っていた。

 そりゃあこの種類にはびっくりするよね。気持ちはわかるよ。


 お腹がいっぱいになり、食後のコーヒーを飲んでいると、ふと現実に戻った。


 (今日、優花里さんは帰っちゃうんだ。今晩はもうわたしの部屋にいないんだ……)


 急に寂しさがこみ上げてきて、横に座っている優花里さんの肩にコツンと頭を預ける。

 優花里さんもわたしの気持ちを察してくれたみたいで、そっとわたしの頭に手を回してくれた。


 ああ、やっぱりこの人はわたしの気持ちに寄り添ってくれている。 それが、すごく心地いい。


「優花里さん」


「なに? サキ」


「今日、帰っちゃうんですよね」


「そうね。明日から学校で期末試験も始まるし」


「寂しいな……(せめてもう一泊できたなら)」


 わたしが本音を漏らすと、優花里さんの声も少し切なくなった。


「サキ、わたしもよ。……でも、これ以上のわがままは言えないわね」


 そう、これ以上はわがままだ。


「でもサキ、まだわたしが帰るまでは時間があるから」


「はい……」


 期末試験という現実が迫っているけれど、残された時間を大切にしたい。

 優花里さんの温もりを感じながら、わたしはそう強く思った。



 その後もみっちりと勉強を見てもらったけれど、昨日以上に頭に知識が入ってくるのがわかった。

 優花里さんの教え方が上手いのはもちろんだけど、わたし自身の脳細胞が、彼女が隣にいてくれるおかげで限界を超えて活性化しているかのようだった。


「サキ、すごいわ。どんどん知識を吸収していくわね」


「優花里さんのおかげです。ここにいてくれて、勉強まで教えてくれているので」


 わたしが素直な気持ちを伝えると、優花里さんは少し思案するような顔をしてから、悪戯っぽく微笑んだ。


「じゃあ、もう一つ試験を頑張れる『おまじない』をあげようかしら」


「おまじない?」


 優花里さんは わたし の目をじっと見つめながら、とんでもないことを口にした。


「期末試験が終わったら夏休みよね。わたしは夏休み、予備校もあるけれど……予備校のない日に、わたしの別荘にサキを招待するわ。もちろん二人きりだから、誰に気兼ねをすることもないわよ」


「別荘!?」


 やっぱり持ってるんだ、お嬢様は……。と感動するのも束の間、 わたしはあるワードの破壊力に気づいて硬直した。


 招待? 二人きり? 別荘で……二人きり!?


「ほ、本当ですか!?」


「本当よ。海沿いにわたしの別荘があるの。プライベートビーチもあるから、誰にも邪魔されずに泳げるわよ」


 なにそれ、アニメなら確実に「水着回」確定の神イベントじゃないですか!


 更にふとある言葉に気づいた。『わたし』の別荘?普通『うち』の別荘だよね?


「伊藤家の別荘ですか?」


「伊藤家の別荘だけど、わたしの別荘なの」


「??」


「ああ、ごめんなさいね、わたし専用の別荘なの」


「へ?専用?」


「そう、姉も妹も他に別荘を持っているのよ」


 なに?それ、一家にひとつじゃなくて一人にひとつ?もう想像ができない……


「だから二人きりなのよ」


思わず一瞬ポカンとしてしまったが、すぐにわたしの脳内では、すでに眩しい太陽の下、優花里さんと波打ち際で戯れる わたし の姿がフルカラーで再生されていた。


「がんばります! がんばります! 死ぬ気でがんばります〜〜!!」


「ふふ、じゃあ、まだまだ勉強の追い込みができるわね」


「はいっ!!」


 単純だと言われようが構わない。

 その後、 わたし の脳細胞はまるで高圧電流が走ったかのように覚醒し、試験範囲の難問を次々と撃破していった。

 夏休みの「水着回(二人きり)」という巨大なニンジンをぶら下げられた わたし に、もはや死角はなかった。


 その後は自分でも驚くほどだった。

 優花里さんという最高のご褒美を目の前にして、わたしの集中力は限界を突破し、気がつけば目の前の参考書や問題集の内容がすべて頭の中に完璧な地図となって整理されていた。


 これで明日からの期末試験には、自信を持って臨むことができるだろう。


「優花里さんのおかげです! 本当にありがとうございました」


「ううん、それ以前にサキの頑張りよ」


 優花里さんは優しく微笑むけれど、わたしはぶんぶんと首を振った。


「いえ、優花里さんにご褒美を教えてもらえましたし……」


  頭をかきながら照れるわたしを、彼女は愛おしそうに見つめている。


「それだけじゃないわ。あなたが一生懸命だったから……こうしてあげたくなったの」

そう言って、優花里さんは両手でわたしのほっぺたにそっと触れた。


「優花里さん……」


 ひんやりとして、でも芯に熱を感じる彼女の掌。

  至近距離で見つめ合うと、吸い込まれそうな瞳の中に、わたし一人が映っているのがわかった。

 優花里さんの顔がゆっくりと近づく。鼻先が触れそうな距離で、彼女は囁くように言った。


「明日からは頑張ってね。応援しているわ」


「はい……! 優花里さんも、直前にわたしのために時間を作ってくれて、本当にありがとうございました」


 優花里さんの真っ直ぐな愛情と、この二日間の夢のような時間を思ったら、急に胸がいっぱいになってしまった。


 視界が潤み、ポロリと涙がこぼれ落ちる。


「もう、サキは泣き虫ね」


  優花里さんは困ったように笑い、わたしの頬を伝う涙を、細い指先で優しくすくってくれた。


 その指先の感触が、明日からの戦い(試験と、そして鏡子ちゃんとの関係)に立ち向かうための、何よりの力になるような気がした。


 そして、遂に優花里さんが帰る時間となった。

 今日はいないお父さん以外の家族総出で、玄関先まで彼女を見送りに出る。

 例の重そうなトランクも、迎えに来た運転手さんがテキパキと車へ運んでくれた。


「今回はお泊まりまでさせて頂きまして、ありがとうございました。大変お邪魔いたしました」


 優花里さんは、絵画のように美しい動作で深々と頭を下げた。


「いいのですよ、もし優花里さんが良ければ、いつでも遊びに来てくださいね」


「優花里さん、また来てね……」


 美嘉は何故か、まるで生き別れの姉を見送るかのように半泣きになっている。

 多分優花里さんが姉だったらよかったのに、とか思ってるのかも。


(優花里さん……そういう わたし も半泣きだけど……)


「お母様、美味しいお食事、大変ありがとうございました。美嘉さん、また来ますわね」


 優花里さんは優しく微笑み、最後にわたしの方を見た。

「サキ、また学校でね」


「はい……(でも試験中は校門にはいないんだよな)」


 名残惜しくて、思わず口をついて出た。

「試験中はRINEしますね」


「サキ、試験中はあなたに集中してもらいたいから、RINEは控えましょう。終わってから、お互いの楽しみにしておきましょうね」


「はい……」


 寂しいけれど、どこまでもわたしを気遣ってくれる優花里さんの優しさが胸に沁みる。

 本当に、どこまで慈悲深い人なんだろう。

 そう思うと、もう我慢ができなかった。


 ここで泣いては彼女を困らせてしまうと分かっていても、堪えきれずにわたしは優花里さんに抱きついて泣いてしまった。


 この二日間、勉強ばかりでハードだったけれど、優花里さんが隣にいてくれたから頑張れた。


「本当にありがとうございました。優花里さんに教えてもらったことを無駄にしないように、テストがんばりますね」


「サキなら頑張れるわ。わたしこそ、二日間ありがとう」


  優花里さんはわたしの頭を優しく撫で、そのまま笑顔で車に乗り込んだ。

 

 ゆっくりと走り出すリムジンが見えなくなるまで、 わたし はずっと手を振り続けた。


 その日の晩御飯から、当分は「豪華な残り物」の処理が続いた。


 一人分席が空いた食卓は、昨日までの華やかさが嘘のように静かだったけれど、味はやっぱり最高だった。


甘酸っぱい気持ちで、ゆかりと別れたサキ。

しかし夏休みには大きなイベントの予定が出来ました。

もうテストは死に物狂いで頑張るの一択です。

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