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これで完璧だよ!たぶん!!

「なんでわたしはヤンデレ気質にばっかり好かれるのぉ〜……!(二人だけだけど!)」


 鏡子ちゃんとの初めてを済ませた夜。

 真っ暗な部屋で、私は枕に顔を埋めて悶絶した。


 このまま月曜日の朝を迎えたら、わたしの命は終わるのだろうか。


「優花里さんは恋人」

「鏡子ちゃんは親友」


 そう、そのポジションのはずなのに。

 今の鏡子ちゃんは、わたしに恋人ができるのすら許してくれなさそうだ。

 もし彼女の独占欲を逆なでしたら、文字通りわたしの命の灯火が消される。

 なんで?親友なんだから恋人ができたら祝福してよ〜!


 かといって、優花里さんに「実は鏡子ちゃんとキスしちゃいました!てへ」なんて正直に話そうものなら、あの人はきっと、鬼の形相になってわたしの存在をこの世から抹殺するだろう。


 伊藤家の権力をもってすれば、わたし一人を社会的に消し去るなんて、アリを踏み潰すより簡単なはずだ。


「どっちに転んでも、わたしの生きる道がない……。なんで!? わたし前世でどんな大罪を犯したっていうの!?転生失敗例なの??」


 ……あ、そうか。 超絶美少女二人に同時に好かれた時点で、わたしは今の人生の運を全て使い果たしてしまったんだ。恐らくそうだ。


「ダメだ、悩んでも死ぬだけだ。まずは月曜、鏡子ちゃんが余計なことを口走らないように対策を……」


 二人の接触を最小限にする。

 幸い、風紀委員の挨拶以外で二人が深く話す機会はこれまでほとんど皆無だった。

 

 わたしが間に入って、話題を逸らし続け、鏡子ちゃんを優花里さんから引き剥がす。


 綱渡りどころか、剃刀の刃の上を歩くような緊張感。


「よし。考えるのはもうやめだ。寝る! 明日の夕方まで寝るんだ!」


 現実逃避という名の深い眠りにつくべく、わたしは毛布を頭まで被った。

 夢の中だけは、二人の美少女に追い詰められない、平和なアニオタライフであってほしいと願いながら。


 日曜日は夕方5時まで泥のように眠り続け、母親には呆れられ、妹の美嘉には「ニートの才能あるね」とバカにされ、わたしの散々な週末は幕を閉じた。


 いよいよ、明日次第ではわたしの命(社会的な意味でも物理的な意味でも)が終わる可能性がある。

 週末の次は人生の週末ってか?!そんなのやだよ!


 作戦は決まっている。

 二人の接触を最小限にする!それしかない!そのためには、鏡子蛇に一日中巻き付かれるしかない。


 さすれば、気高き優花里姫は容易には近寄らぬであろう……。

(最近日本史の勉強を頑張りすぎて語彙が戦国時代になっている……)


「じゃあ、さっき起きたばかりだけどまた寝る!」

 わたしは現実逃避の二度寝を決め込んだ。



 そして、運命の月曜日。


「起きて! 起きて!」


「んん……美嘉、今日はいつもより起こし方が優しいな……」


 そう思って薄目を開けると、視界いっぱいに、美少女の顔があった。


「うわわわわわぁぁぁ〜!!」


「あ、サキちゃん、起きた」


「ちょ、ちょちょちょ! 顔近い近い近い!!」


 心臓が口から飛び出しそうになる。


「もう、起きなかったら『セカンドキス』しちゃおうと思ったのに♡」


「な、なに!? 鏡子ちゃん、キャラ変わってない!? セカンドキスって何!?」


「だって、ファーストは終わっちゃったから」


「うわぁぁぁぁぁ、そうだったーーー!!」

 頭を抱える。そうだ、おとといの夕暮れ、わたしはこの子に唇を奪われたんだ。

 夢じゃなかったんだ。


「もうサキちゃん、逃げちゃうんだから」 鏡子ちゃんがベッドに這い上がってきて、わたしの体にぴったりと密着する。


「サキちゃん。もう、わたし達キスしちゃったんだし……覚悟は出来てるよ……」


「しちゃったんだしって何!? 覚悟?ってなんなの?!切腹でもするの?わたしがされるの?!」


 鏡子ちゃん、怖い、怖いよ! 瞳の奥のハイライトが消えているというか、逆に爛々と輝いているというか……。


「き、鏡子ちゃん、着替えて下に行くから、ちょっと待ってて!」


「ん〜、サキちゃん。今日も、お・き・が・え」


 血の気がどんどん引いていく。

 鏡子ちゃん、あのキスで自分の中の「何か」の堤防が決壊しちゃってるよ!

「どうしよう」と思う間もなく、パジャマ代わりのトレーナーが脱がされる。


「また手ブラする〜。わたしとサキちゃんの間柄なんだから遠慮することないよ!わたしはサキちゃんの全てを、見たいの……」


「鏡子ちゃん! 目にハートマークが出てる! アニメじゃないんだから! 落ち着いて! 収まってぇぇ! わたしのひんぬーでよかったら、いくらでも見ていいから、それ以上近づかないでぇー!」


 毎朝、こんな心臓に悪いイベントが発生するのだろうか?

 校門に着く前に、わたしの精神が削り取られて更地になってしまうよ……


 朝食の時間すら「アーン」の危機を間一髪で回避し、わたしは文字通り「蛇」に全身を巻き付かれた状態で登校の路についた。


 ついに運命の校門が見えてくる。

 そこには、凛とした佇まいで立つ最推し――優花里さんの姿。


 けれど今日の鏡子ちゃんは、これまでの比ではなかった。

 腕を絡めるだけでは飽き足らず、わたしの肩に頭を乗せ、体重の半分を預けるようにして密着している。


「お、おは、おはようございます……」


「おはよう、美山さん」


 優花里さんの声は至って冷静だ。

 しかし……


「おはようございます。い・と・う・せ・ん・ぱ・い♡」


 鏡子ちゃん、やめて! その一文字ずつ区切って勝ち誇るような言い方、完全に喧嘩売ってるよね!?


「おはよう、後藤さん」


 優花里さんは普段通り……と思ったら大間違いだった。

 視線が、視線がナイフみたいに鋭い。

 その矛先は鏡子ちゃんへ向かうかと思いきや、真っ直ぐわたしに突き刺さった。


(ひいいいいい! 優花里さん、ごめんなさい! 許してください! 抹殺しないで、まだ16年しか生きてないんですーーー!)


 逃げるように校舎へ入るが、鏡子ちゃんの密着ぶりは加速するばかりだ。

 これまで「仲の良い二人」を見慣れているはずの生徒たちですら、「え、なんか今日の二人ヤバくない?」と二度見、三度見していくのがわかる。


(もうやめて……まだ登校したてなのに、わたしのライフはもうゼロよ……)


 ふと隣を見ると、鏡子ちゃんは朝からずっと、花の咲くような満面の笑みを浮かべていた。


 ……びっくりしたけれど、彼女にとっては「親友」とはファーストキスを捧げるくらい当然の存在なんだろうか。


 だとしたら、茜ちゃんとも……いや、それはないのか。


 ただ、鏡子ちゃんの「親友」の定義が、わたしの知っている辞書の内容と180度違うことだけは確信した。


このままお泊まり会まで、わたしの胃壁はもつのだろうか。


 ホームルームが始まった。やっと「蛇」の締め付けから解放されて、ガタガタと震える膝をなだめながら席につく。


 ふぅ、と一息ついたのも束の間、ポケットの中のスマホが短く震えた。


(この時間に、わざわざ送ってくる相手なんて一人しかいない……)


 恐る恐る画面を覗き込むと、そこには心臓が止まるような文面が並んでいた。


『サキ様、今朝はずいぶんと仲が良さそうでしたけれど、土曜にお二人になにかあったのでしょうか?』


「ひいいいいいいいいいい〜〜!!」 叫びそうになる口を両手で押さえる。

 疑われてる! 完全にマークされてる! どうしよう、どうしよう! 嘘をつけば地獄、真実を言えば即・抹殺。

 まさに詰みのルートに入ってしまった。


 ふと隣を見ると、茜が「……サキ、強く生きなよ」と言わんばかりの、憐れみに満ちた目でこちらを見ていた。


(くそぅ、茜! その目はなんだ! お願いだから、代わりに優花里さんに抹殺されてくれない!?)


 必死に脳細胞をフル回転させ、震える指で返信を打つ。


『優花里さん、大丈夫ですよ』

……自分でも驚くほど、答えになっていない。これで誤魔化せたら奇跡だ。


 しかし、現実は非情である。即座に既読がついた。


『サキ様、大丈夫とはどういう事?』


 「とはどういう事?」って返信きたよ!

 文字面からマイナス100度の冷気が漏れ出してる気がするんだけど!?

 怒ってるよね? 絶対に怒ってるよね!?


 わたしはもう、ヤケクソで画面を叩いた。


『優花里さんが心配するようなことは、何もないと思います』


 これでどうだ! 優花里さんは人付き合いが苦手だって言っていたし、このまま深入りせずに納得してくれるかもしれない……。


『そうなの? 信じていいのよね、サキ様』


「ううっ……!!」 胸のあたりに鋭い痛みが走る。


 心が痛い! 嘘をついている罪悪感と、優花里さんの純粋な(?)独占欲が重すぎて、窒息しそうだ。

 ごめんなさい、優花里さん。私は最低のアニオタです。


 その代わり、土曜日のお泊まり会は、魂を削ってでも心を込めておもてなしをします!

 だから、どうか月曜日から金曜日まで、私の命が保ちますように……!


 綱渡りのような一週間だった。鏡子ちゃんの過剰なスキンシップと、優花里さんからの静かなる圧。

 その板挟みに遭いながら、なんとかわたしは命を永らえることができた。


 ーーー


 そしてついに、明日は優花里さんが我が家にやってくる「勉強会(という名のお泊まり会)」当日。


 ……ぶっちゃけ、この一週間は生きた心地がしなくて、勉強なんて一文字も頭に入っていない。

 このままでは中間試験の半分も取れれば御の字という、アニオタ以前に学生として終わっている状況だ。


明日からの二日間、死ぬ気で脳細胞を活性化させて挑むしかない!


「まずは掃除だぁぁぁ!」

 夜中だというのに掃除機を振り回すわたしに、美嘉が「うるさい! 安眠妨害!」と叫んでいるが知ったことではない。


 ミッションは明確だ。


 ひとつ!優花里さんに我が家で最高に気持ちよく過ごしてもらう。

 ふたつ!先日の「浮気疑惑」を完全に払拭(忘却)させる。

 みっつ!ついでに勉強を教わり、成績をV字回復させる。


 これさえ完遂できれば、わたしの勝ちは確定だ!!


 母さんには「優花里さんが泊まりに来る」と伝えてあるので、すでに明日の料理の仕込みに入っている。

 なんだかハンバーグのタネを叩く音が、いつになく力強い。


 美嘉には「いらないことを言うな。あの人が怒ると、うちらは社会的に抹殺される」と厳重に言い含めてある。


 そして幸いなことに、父さんは現在、出張中(出頭ではない)。

 変に優花里さんを怒らせて、会社をクビになるリスクも回避された。

(調べたら、伊藤家は父の勤める大和商事の大株主らしい。マジで洒落にならない)


「これで、わたしの命と成績と美山家の未来は守られた。……多分!」


 鏡子ちゃんには「マジで留年の危機だから、今週末は家で缶詰になって勉強する。誰とも会えない、対応できない!ごめんね!!」と、決死の予防線を張っておいた。


 完璧だ。布陣は整った。 わたしはベッドに潜り込んだ。明日、後世にまで語り継がれるであろう「お泊まり会」が幕を開ける!!


お泊まり会前夜、サキの完璧?な準備完了です!

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