表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/63

二度目のデートと初めての?!

 当日の朝。 

 鏡子ちゃんはよほど待ちきれなかったのか、もはや当然のように我が家のダイニングでコーヒーを飲んでいた。

 例の服を着て階段を降りていくと、彼女は感激した様子で、家の中だというのにいきなり抱きついてきた。


 「サキちゃん、似合ってる! 本当に可愛い!」


 もう、鏡子ちゃんにとって我が家は自分の家同然らしい。

 今日の彼女は、清楚で可愛らしいワンピース姿だ。

 そのまま精巧なフィギュアにして飾っておきたいくらい完成度が高い。


 美嘉も、先日の惨劇から多くを学んだのだろう。

 姉が先週も水族館に行ったことなど、おくびにも出さない。

 彼女からの情報漏洩の恐れは皆無だと確信し、私は胸をなでおろした。


 玄関を出ると、安定の「蛇」が絡みつく。もはや日常茶飯事なので、わたしもさほど気にならなくなってきた。慣れって怖い。


 駅までの道のり、鏡子ちゃんは本当に嬉しそうで、いつもよりずっと饒舌だった。


 水族館に着き、チケットを買って、いざ「二週連続」の水族館デート開始!


 久し振りの水族館に、鏡子ちゃんは驚きの連続。

 わたしも負けじと、既視感を必死に抑え込んで「わあ、すごい!」と驚いてみせた。


 たまにトイレの場所や順路をスムーズに案内しすぎてしまったのはご愛嬌だ。

 幸い、不審がられずに済んだ。


 先週と同じ服、同じ場所、ほぼ同じ時間。隣に立つ人だけが違う。


 不思議な感覚だったけれど、鏡子ちゃんとのデートも間違いなく楽しい。

 彼女は何でも話せる、大切な親友だから。


 一通り展示を回り、お昼の相談になった。


(流石に、先週優花里さんと行ったあのレストランだけは避けなきゃな……)


 そう考えていると、鏡子ちゃんが「実は予約してあるお店があるの」と切り出した。

 連れて行かれたのは、別のシーフードレストラン。先週とはまた違った味わいで、とても美味しかった。


 ただ、隣の席の女の子が料理をひっくり返してしまって、わたしの服にちょっと付いちゃったりして大変だった。

 わたしの服を一緒に買いに行って気に入っている鏡子ちゃんは憤慨してたけど、おっちょこちょいなわたしは自分でもやらかした頃もあったりしてるので、そこは宥めて、ごめんなさいと泣いている向こうの女の子へもフォローをしたりと大変だった。


 後から考えるとそんなトラブルは笑える経験だったけれど……レストラン自体の満足度は高かった。


(今度はここに優花里さんを連れてきてあげようかな……)


 なんて不埒な考えが頭をよぎったが、全力で消し去った。

 今日はちゃんと鏡子ちゃんに集中しないと悪いよね。


 午後の鏡子ちゃんは、見ているこちらが楽しくなるほどのはしゃぎようだった。

 最近は瞳の光が消える(ヤンデレ化する)こともなく、本当に仲の良い親友関係が続いている。


 夕暮れ時、二人で海岸を歩いた。


 今日も海風が心地いい。

 水平線に沈みゆく夕日を二人で眺めていると、突然、鏡子ちゃんが正面から抱きついてきた。

 わたしも彼女の背中に手を回し、親友同士で固く抱き合う。


 密着した彼女の体から、激しい鼓動が伝わってくる。

 緊張しているんだ、とすぐに分かった。


「サキちゃん……」


「何? 鏡子ちゃん」


「今日は、本当に楽しかった」


「わたしも、鏡子ちゃんと一緒にいられて楽しかったよ」


「うん……ありがとう」


 鏡子ちゃんの声が、急に小さくなる。


「でね……」


「ん?なに?」


 顔を近づけた瞬間だった。

 柔らかい感触が、わたしの唇に触れた。


「えっ……?」


 今まで見たことがないくらい顔を真っ赤にして、鏡子ちゃんが俯く。


 (え、え、え、え、ええええええーーー!?)


「わ、わたしの(多分鏡子ちゃんにとっても)ファーストキスーーーーー!!???」


 パニックになるわたしに、鏡子ちゃんは消え入りそうな声で囁いた。


「サキちゃんの『初めて』……もらっちゃった。わたしの『初めて』もサキちゃんにあげちゃった……」


「ええええええーーー!!!」


 砂浜に、わたしの絶叫と波の音だけが虚しく響き渡った。


 ーーー


 その後、サキと別れて帰路についた鏡子は、夜の街を浮き立つ足取りで歩いていた。

 胸の鼓動がうるさくて、世界がピンク色のフィルターに包まれているみたいだ。


 「やった……やった! やったぁぁーーー!!」


 心の中で、何度も何度も快哉を叫ぶ。


 嬉しくて、胸のドキドキが全然止まらない。


 サキちゃんの――そしてわたしの――初めてのキスを、ついに。


 (嬉しい……嬉しいよぉ……!)


 奪った瞬間の、あの驚いたような、柔らかな感触。


 サキちゃんが、本当にわたしのものになったんだという確かな実感が、熱い塊となって全身を駆け巡る。

 今日のデートの帰り道に、絶対にやろうって決めていた。


「わたしのサキちゃん」

「サキちゃんのわたし」


 その証明を刻むために、震える勇気を全部振り絞った甲斐があった。


 今も思い出すだけで、全身の血が沸騰しそうなくらいバクバクしている。

 大好きで、大好きで、狂おしいほどたまらないサキちゃんと。

 一生に一度しかない「初めて」を共有できた。

 どうしよう、幸せすぎて怖いくらい。


 (もう今夜は、絶対に眠れない……!)


 サキちゃんとバイバイした後も、唇にはまだ、あの子の感触が熱く残っている。

 嬉しい。嬉しい。嬉しい……!


 「今日は、わたしの人生で最高の日……うふふっ」


 月明かりの下、鏡子の瞳には陶酔したような光が宿っていた。


 ありがとう、大好きな、大好きな、わたしの愛するサキちゃん。


 ーーー

 

 鏡子ちゃんにキスされた……人生に一度きりのファーストキス。


 鏡子ちゃんは大好きな親友……だけど、キスをするような相手だとは思ってもみなかった。

 しかもあんなに熱っぽく、大切そうに。

 どうしよう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。優花里さんにだけは、口が裂けても相談できない……


 そんな時に限って、画面に優花里さんの通知が躍る。


『こんばんは、サキ様。今日のデートはどうだった?』


 指が震えて、返信が打てない。

 でも、返さないわけにはいかない。


『鏡子ちゃんと楽しく過ごせました』 罪悪感で胸が押し潰されそうだ。嘘はついていない。


 でも、肝心なことが抜けている。


『良かった。それで期末試験の勉強会のことなんだけど、来週の土曜日はどうかしら?』

『はい、その日でお願いします』

『ところで、土曜日だからお泊まりはどう?』


 いつもなら「無理無理!」と断っていたはずだ。

 でも、今のわたしはどこか自暴自棄というか、優花里さんの優しさに縋りたかったのかもしれない。


『はい、お願いします』

『えーっ! いいの? 本当に! 嬉しい! サキ様の部屋に一晩中一緒にいられるなんて夢みたいだわ』


 画面越しでも分かる優花里さんの狂喜乱舞ぶり。対照的に、わたしの心はどんどん沈んでいく。


『私も楽しみです』

『どうしたの?』

『なんでもないですよ』

『元気ないの?』

『大丈夫です、私はいつも元気まんまんです!!』

『元気まんまん? やる気まんまんでしょ? サキ様は面白いわね』


 優花里さんの明るい声が聞こえてきそうなメッセージに、少しだけ救われる。


 でも、その直後、抑えきれない不安が指先から漏れ出した。


『ありがとうございます』

『うん、それじゃあ楽しみにしておくわね』

『はい、優花里さん、ちょっといいですか?』

『なに?』


 わたしは、震える指で禁断の質問を打ち込んだ。


『優花里さんって、浮気したりする人ってどう思いますか?』


 ……送ってしまった。

 画面の向こうで、優花里さんがどんな顔をしているか想像するだけで、心臓が止まりそうだ。


 スマホの画面を見つめる私の指先が、冷たく凍りついたような感覚になる。


 優花里さんからの返信は、これまでの浮かれたテンションとは打って変わって、静かで重いものだった。


『浮気ね……私は絶対に許さないわ』


 心臓がドクンと大きく波打つ。

 わたしは震える手で、確認するように返信を打った。


『そう……なんですか?』

『ええ。もしサキ様に浮気なんかされたら、私、自分でもどうなってしまうか分からないわ。……サキ様も相手も許さない、かも』


「ヤバいよ……」


 冗談めかした雰囲気は微塵もなかった。

 画面の向こうで、優花里さんが氷のように冷たい、けれどどこか熱を帯びた瞳でスマホを見つめているのが手に取るように分かる。


 彼女にとって、わたしは「色をくれた大切な人」であり、同時に「自分だけの恋人」なのだ。


(どうしよう……。鏡子ちゃんとキスしたなんて、絶対に、絶対に知られてはいけない)


 優花里さんの「許さない」という言葉の重みと、鏡子ちゃんの「初めてもらっちゃった」という歓喜の叫び。

 二人の美少女の想いが、わたしの胸の中で激しく衝突して、火花を散らしている。


 もしバレたら。 もし鏡子ちゃんが、勝ち誇ったように優花里さんにその事実を告げたら……


 わたしの平和だったアニオタライフどころか、物理的に平穏な学生生活が終わってしまう……

 (1話冒頭参照)


「……はは、ははは……」


 乾いた笑いが漏れた。

 来週の土曜日は、優花里さんが我が家にお泊まりに来る。


 そこでわたしは、この「罪悪感」を抱えたまま、彼女と同じ屋根の下で(あるいは至近距離で)一晩を過ごさなければならない。


(これって、もしかして、天国じゃなくて……修羅場の入り口?)


 鏡子ちゃんからの「好き」と、優花里さんからの「執着」。


2つの巨大な愛情の渦に、わたしは、いち女子高生として、どこまで耐えられるのだろうか……?

ついにサキの初めてが!

しかも優花里ではなく鏡子と……

優花里のお泊まりは無事に過ごせるのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ