わたしの限定フィギュア〜!!
「あ〜あ、終わっちゃったよ……、なんだかんだあったけど、楽しかったな……」
去りゆく車の余韻に浸りながら、ポツリと独り言をつぶやく。
祭りのあとのような寂しさが胸に広がりかけたその時、背後からガシッと肩に手を置かれた。
「……何、美嘉? もう、急に驚かさないでよ」
苦笑いしながら振り向くと、そこに立っていたのは美嘉ではなく――満面の笑みを浮かべた鏡子ちゃんだった。
その笑顔が逆に怖くて、心臓が跳ね上がる。
「き、きき、鏡子ちゃん!? ど、どうしたの、こんなところで……」
「ん? サキちゃんと、ず〜っと会えなかったから、おうちで待たせてもらってたんだよ」
横にいた美嘉が、引きつった顔でこっそり耳打ちしてくる。
(……お、お姉、鏡子さん、朝から、ずっとうちにいたんだよ……勘弁してよ……)
ひとりの『ヤンデレお嬢様』をなんとか落ち着かせて、帰したと思ったら、間髪入れずに『ヤンデレ親友』の登場である。もう心が休まる暇がない。
肩に置かれた手に、ぐっと力がこもる。鏡子ちゃん、痛いよ……
「ねえサキちゃん……昨日、一旦おうちに帰ってきて、今朝またお出かけしたんだよね?お泊まりなんかしてないんだよね?ね?」
「は、はい! そ、そうです! その通りです!!」
「ねえ……それにしては、ちょっと荷物多くないかな?かな?」
鏡子ちゃんの顔の上半分が、影で暗くなってきた。アニメの怒りのシーンとかで、よくある奴だ。
「あ、こ、これはほら! 優花里さんのお屋敷に行くのに、汗臭かったら失礼かなって思って! き、着替えをたくさん持っていったんだよ!」
「ねえ、カバンの中、見ていい?」
「いやだよ!汗かいたから、着替え臭っちゃってるし」
「わたしはその方がいいんだけど」
「え?」
「ううん、なんでもないよ!!」
なんか、鏡子ちゃんの、心の闇の声が聞こえてきた気がするけど……?
すると、おもむろに鏡子ちゃんの鼻先がわたしの首筋に近づき、クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
「あれ? サキちゃん、シャンプー変えた? いつも私とお揃いの使ってたよね?」
「あ! こ、これは……向こうのお屋敷には温水プールがあって! そ、そこでシャワーを浴びたから、備え付けのやつを使ったんだよ!」
「へぇ〜、そうなんだ〜……ねえ?」
「は、はい!?」
鏡子ちゃんの瞳から、すうっと温度が消える。
「……変なこと、されなかった?」
「へ、変なことって……?」
「こういうことだよ」
言うが早いか、鏡子ちゃんにガッシリと後頭部を固定され、唇を塞がれた。
「んんっ!?」
あまりに突然の、そして強引なキス。
優花里さんのそれとは違う、焦燥感と独占欲の混じった激しい感触。
「……こういうこと、されてない?」
「ひゃ、ひゃい! だだ、大丈夫! されてないです、はい!」
嘘である。めちゃくちゃされた。けれど、ここで正直に言えば、今度は鏡子ちゃんに監禁されかねない。
どころか、わたしや優花里さんの、命の危険性すらある。
「それなら良かった! 安心したよ〜」
鏡子ちゃんはパッと表情を明るく戻すと、「じゃあわたし、帰るね! また明日ね!サキちゃん!」と軽やかに手を振って駆けていった。
嵐が去ったあとのような静寂が戻る。
「……はは、ははは。もう、イベント多すぎだよぉ……!」と、呟いた時だった。
「お、お姉……今、鏡子ちゃんと……」
げっ!美嘉の存在を全く忘れていた!
「い、いや、あれは……ってほら、外国でよくあるじゃん!挨拶代わりのキス、って奴だよ……うん」
「あれが……?でもさっきのキスって、口だったよね?」
「あ、はは……まあ、鏡子ちゃんは友情が深いからかな……?多分」
美嘉からの冷たい視線を浴び、膝から崩れ落ちそうになりながら、わたしは天を仰いだ。
明日からの学校生活。優花里さん、鏡子ちゃん。
アニオタとしての平穏な日常は、もはや遥か彼方の銀河系へと、消え去ってしまったようだった。
結局、美嘉から両親へ、さっきの衝撃シーンを黙ってもらうために、私の部屋からリリーの限定フィギュアが一体、美嘉の部屋へと、移動して行ったのであった。
実は、リリー好きの美嘉。
これからもサキのフィギュアが美嘉のものへとなっていきそうです。




