人は生まれながらの得手不得手は避けられない
カイルは僕を背負って広大な魔術学校内を迷いなく進む。
こんなに進んで大丈夫かな?家からギルド間でさえ最近まで迷子になっていたらしいのに。こんな広い中…不安だ。
背中で揺らされているからか迷子の不安からか、胃から不快な液体が上がってきている気がする。
「カイル、大丈夫ですか?」
絞られる感覚に陥った胃を守る為に一縷の望みをかけて恐る恐る質問する。
「何が?」
「あ、あの…カイルって正直その…」
「ああ、迷子のこと?」
直接口に出しづらかった濁した言葉をカイルは理解してくれた。
「エドって家では迷わないでしょ?それがたとえ住んでいたのが結構前でも」
「そうですね。物心ついた時なら住んでいたなら忘れないと思います」
「エドもそうでしょ。俺もそう。だから迷わない」
「???」
「俺、ソロの時ここで寝泊まりしていたから」
背中越しに僕のイマイチピンと来ない顔を感じたのかカイルが前を向きながら声を発した。
確かに魔術学校には研究室が沢山あり、そこで寝泊まりする研究者も少なく無いと聞く。更に希望生徒には有償の寮もある。
「そうだったのですね」
ソロ探索者に限らず駆け出し探索者にとって住む場所は一番大きな問題と言っても過言じゃない。特に駆け出し探索者がターゲットの宿では殆どが一部屋に何個もベッドが置いてあるタイプ。ソロならば気が休まらない人との相部屋か高いお金を出して1人部屋にするしかない。ならば魔術師でもあるカイルにとってここに住むのは合理的な気がする。
「一番の理由は魔術学校に来るのに迷わないからでしょ」
どこからともなく聞こえた声に限界まで首を曲げて後ろを見るといつの間にかランディがニコニコしながら立っていた。
「確かにな」
「カイルってここに住み始めた理由が日の落ちる頃にここやギルドからホテルに向かっても着く頃には既に日が昇ってるからなんだよ」
え?流石に探索者以前に人として致命的すぎない?
「その話は置いといて何しに来たの?大体予想はついてるけど」
「今度の飯奢るから家まで連れてって」
カイルは愕然とする僕を背負いながらランディに向かって申し訳なさそうにお願いした。
「はあ、ちゃんと奢ってよ」
ランディは呆れを含んだ笑顔のまま答えた。
全身に力が入るようになったのでランディと並んでカイルの前を歩く。
外は快晴でやや暑くも感じる温かさ。しかし、僕は暑さとは違う変な汗が出ている。
「ランディ、これは何ですか?」
自分の左腕に付いている弛んだロープを指差す。
そのロープはランディとカイルにもつながっている。
「これが無いといつの間にか居なくなってるから」
本当なの!?それ方向音痴以前の問題じゃ…
「依頼中やダンジョンの中だとここまで酷く無いぞ」
カイルが精一杯弁明しているが-100が-10になった程度で弁明しきれていない。
目を離すと居なくなる、ロープを繋がないと居なくなる、どこかに1人で行けば居なくなる。それってまるで幼児やペッ…グッ!
ランディの隣をぼんやり歩いていると急に後ろに引っ張られる。
ランディかカイルが止まったらしい。
なんかまた気持ち悪くなってきた。
エドワード君は勘違いしていますがカイルは金を払わずに図書館などで寝泊まりしてました。タイミングが無かった。




