89: お出かけ
また、逃げられた。と、思ってるかな。
今回は違うんだけどな。
そういえばレナルド殿下が「印をつけてる」とか言ってたっけ。
ということは、案外早く助けに来てくれるかしら?それとも、また逃げたと思ってもう愛想を尽かせて来てくれないかしら?
でも、あの病み具合ならたとえ本当に私から逃げたとしても追いかけてきそうだなぁ……。
頑張れば自力でも脱出出来そうではあるんだけどなぁ……。
「ちょっと!何ボーっとしてるの!?助けを呼ぶとかなんとかしなさいよ!!」
さっきまで、開かないドアをか弱い腕でとんとん(本人は多分渾身の力)していたダリア嬢は、こちらを振り返って言った。
かっわいいなぁ……。
シルエットやパーツ的にはすごく私と類似するんだけど、何かが違う。何が違うとこうもかわいくなるのか分からない。
「あの……、手が痛くないですか?」
「はあ!?今、そんなこと言ってる場合!?私達、閉じ込められてるのよ?しかもさっき「売り飛ばす」とか言ってたわよ?このままじゃあ、どうなるかわからないのよ!?」
「そうですねぇ……。でも、売り飛ばす、ってことは少なからず命の危険はないってことですよね。しかも令嬢二人、具合が悪そうだったりやつれていたら売り物にはならない、ってことは食べ物を与えないだの体罰をされるだのの不当な扱いを受ける可能性は低いですよ。ここで抵抗して誘拐犯の機嫌を損ねて、自らの身を危険にさらすより、大人しく助けを待った方がいい、と思うんですけど」
冷静に分析したことを言ったら、ダリア嬢はしばらくポカンとした後、理解してくれたのか真っ赤になって、黙った。
目隠しされて連れてこられて、小一時間くらいだろうか。窓が全くないし、来るとき階段を下りたので、多分どこかの地下の貯蔵庫だと思う。
古い木箱は何かの農作物を入れるもののようだし、小麦や穀物用の麻の袋だの、壊れかけの棚には錆びた農機具が立て掛けられている。
そのどれもが古びていて、最近まで使っていなかったとわかる。イコール、人はあまり来ない、ということだ。
石造りの床は固いし冷たいし、その辺の木箱をひっくり返してそこに座った。
「あの、ダリア様も座りませんか?」
もう1つひっくり返して聞いてみた。
反応がないので顔を見てみたら、目に涙がたまっていた。
「……っ、ふっ、うう~……」
そりゃそうだよね。
普通の公爵家令嬢が拐われて、こんな所に閉じ込められたら泣くよね……。
*****
「アオイ様、どうせ男性方は会議だの講習会だの見学会だのでお忙しいわ。その間、私と遊んで下さいます?」
朝食を取って、男性達が出掛けた後、ゴージャス美人な将来の義姉にそんなことを言われたら、頷くしかない。
今日はレナルド殿下とレオは、セラト国の魔法省の視察で、王宮の別館にある研究所に向かった。午後はそのまま王宮で、セラトの王族の方々との交流会、夜はレオだけ学園の時の旧友との会食、というめいいっぱいのスケジュールだ。
本当はレオに外出するのを禁止されているのだけど……。
先日の夜会で襲われたのは「黒」を忌避する貴族の仕業だったらしく、王宮の方で密かに処理されたらしい。
それをレオはかなり気にしていて、過保護が炸裂して私に外出禁止令を出した。
「アオイ様はセラトに来て王宮にいる間、ほぼ部屋から出ていないとお聞きしましたわ!せっかくセラトに来ているのに、何も見ないなんてもったいない!!後学のためにも是非街を見て頂きたいわ」
サラ様に力強く言われたものの、迷っている。
確かに先日のこともあるし、この国の黒への反応は心配な部分もある。
「……っていうのは建前で、私がアオイ様とお出かけしたいの。お友達に紹介された宝飾店があってね、ルド……レナルド様に何かプレゼントを差し上げたくてそこに一緒に来て欲しいのよ」
よくよく聞けば、帰国する頃にお二人が初めて出会った記念日があって、そこでレナルド殿下にプレゼントを贈りたいのだという。
「そこの宝飾店はね、アクセサリーに護符を付けてくれるの」
「護符……ですか?」
「そういう魔法が得意な職人がいて、防御だったり、騎士団勤めの方には攻撃力が上がる護符とかも付けられるんですって。一応、効果はお値段ごとに違うらしいんだけど、私じゃあそこまで見抜けないの。だから、アオイ様の能力ならもしかして審美出来るのではないかと思って……」
なるほど。確かに魔力は高いほど、他の魔力も感じやすい。
「あっ、もちろん、アオイ様が嫌だったら、断ってくれても大丈夫よ!それなりのお値段のものだったら、そうそう効果がない、ってこともないだろうし……。ただ、ルドにあげるものは、ちゃんと品質のいいものをあげたいというか……。私の気持ちの問題だから!」
それを聞いたら、がぜん行く気になった。
私の魔法なんて、どこで役立つのかわからなかったので、ちょっとでも誰かの役に立てるなら協力したい。
「サラ様、行きましょう!レオはどうせ遅いし、すぐ行ってすぐ帰ってくれば大丈夫です!」
「ありがとう!アオイ様!」
そう言って花のように笑ったサラ様が、とても可愛らしかった。
「そうと決まれば、早く行きましょう。アオイ様は準備にお時間かかります?」
「いえ、そんなには……」
言ってリンを見たら、頼もしく頷いてくれた。
外出準備のため、お互い一旦部屋に戻った。
「とりあえず、黒髪は隠しましょうか」
リンは私の髪を手早くまとめあげ、ツバの広い帽子を用意してくれていた。
こんな帽子持ってたっけ?と思っていたら、リンが「念のためにご用意しておいて正解でした」と言った。おねえちゃん、優秀な侍女すぎるよ。
公爵家は街の中心地から少し外れた場所にある。なので、途中までは馬車で行き、商店の並ぶ街中は歩きましょう、とサラ様に提案された。
サラ様も立場的に護衛を連れて、私はリンとハヤテがついてきてくれた。
とはいえ、あまりにもゾロゾロと引き連れての街中移動はいかがなものか、と思い、リンとハヤテには見えない位置からの付き添いをお願いした。
そうして連れてきてもらった宝飾店は、言われなければ宝飾店とはわからないくらいのひっそりとした佇まいの外観だった。




