83: 存分に存在を確認
誤字脱字報告ありがとうございます!
1ヶ所は、作者の表現の希望で訂正しませんでした。ご指摘、ありがとうございました。
「レオ!」
両頬を掴んで強引にこちらを向かせる。
やっと目線が合った。
「私は無事。でもせっかくのドレスが無事じゃないの。どうにかして!」
私の無茶な要求に、レオは目を見開いた。
それまでほの暗かった黄緑の中で、何かがキラリと光ると表情が和らいだ。
人々のざわめきが聞こえる。
さっきの男性の悲鳴を聞き付けた人達が、何事かと大元を探し始めてる。
レオは、浮いていた男性をその場に降ろし、両腕と両足を魔法で縛った。
「正規の警備の制服でないとわかれば、捜査されるだろう。追及はもう一匹にしてやる」
そう言って、まずは私の泥だらけのドレスを魔法でキレイにしてくれた。そして男性を置き去りにして私の手を取り、ざわめきの少ない方へと歩き出した。
*****
「レオ、レオってば!」
王宮の廊下を小走りに走る。
私を横抱きにしたまま。
「ね、降ろして。私、自分で歩けるから」
さっきまで震えていた手は、今はがっちり私の体を危なげなく支えてる。
唐突に止まって目の前の部屋に入ったとたん、閉まったドアの前でそのままギュウっと更に抱き込まれた。
「レオ?」
ぎうううう、と腕に力が入る。
「アオイ……アオイ、無事か?どこか痛い?やっぱり離れるんじゃなかった!」
「大丈夫、大丈夫だから。ね?痛い所もさっきレオに治癒してもらったし、ドロドロになったドレスだってキレイにしてくれたじゃない」
「アオイを害するなんて許さねぇ。あんなんじゃ手ぬるかった。消しとけぱ良かった」
「いやいやいや、王宮内で私刑とか、レオが犯罪者になっちゃうから!」
ヤバい。ヤバい。
これ、壊れかけてるよね?
闇の中で見たレオになりかけてるよね?
「あの……、何かありました?」
ずっとレオの胸元しか視界に入ってなかったけど、アランの声で周りを見た。
レオが滞在している部屋で、アランは私達が夜会に出てる間、待機していたらしい。何やら書類を持って立ち止まってこちらを見た形のまま止まってる。
「アラン、どうしよう。レオが壊れそう」
あの闇の中で見た壊れたレオの側にアランもいた。彼はレオがこうなるのを知っているはずだ。
「あー……。何があったんですか……」
脱力してる。
「え、と。私が暴漢に襲われて……」
「えっ!?」
「大丈夫!レオがちゃんと助けてくれたから」
「あの……、前回もそうだったんですが、アオイ様を失うとなるとダメみたいですね……」
「………………。そう………」
それは、完全に逃げ回った私のせいでそうなったのよね……。
「わたくしは席を外しますので、レオンハルト殿下に存分に存在を確認して頂いて下さい」
「!?ちょっ……、アラン!?」
そのままアランは静かに部屋を出て行ってしまった。
私とアランが会話してても、ずーっとレオは私を抱きしめたままだった。
ふーっ、と息をはいて、大人しくレオに体を預ける。
「レオ、とりあえず座ろ?ソファーに行ける?」
微かに頷いて、しっかりした足取りでスタスタとソファーに移動する。
ストンと座ったら隣にでも座らせてもらえるかと思ったら、そのまま膝の上だった。
セラト国に来るまでの馬車の中でも、ずっとこの体勢だった。そして着いたら着いたで、レオは忙しくてなかなか会えなかったから、こうしてくっつくのが久々に感じてしまう。
しばらく大人しく無言でギュウと止まったままだった。
あー、まずいわ。
なぜかこのレオの心音を聞いてると眠くなる。
多分、めちゃくちゃ安心しちゃうからだと思う。
「アオイ?髪ほどいていい?」
あ、戻ってきたかな?
「うん、できる?」
ドレスに合わせてリンが結い上げてくれた髪は、抱き締めたときに邪魔なのかもしれない。
レオが、黄緑のラインストーンの付いたヘアアクセを取って、ソファーの前のローテーブルに置く。
「首筋、見えてんのエロい」
そう言って、そこに軽くキスを落としてきた。
「んぅ……!」
あまりない刺激に変な声が出る。
レオはさっきまでの壊れた様子はまるでなかったかのように、クスクス笑いながら沢山付いてるピンも1つ1つ外していく。
その行為がなぜか恥ずかしくて、眠かったのに目が覚めた。
全てを外し終えて、私の視界にも黒髪が見える。
私の髪はクセが付きにくく、サラサラストレートと言えば聞こえはいいけど、結い上げたりアレンジするのがなかなか難しい。
なので普段はあまりいじらず、そのまま下ろしている。
その髪を1房手に取って、レオが毛先に口づける。
その仕草に見とれてしまう。
「ああ……、またアオイとダンスが踊れなかった……」
「ごめんなさい……。1人になるな、って言われてたのに……。途中で抜け出してしまったけど、大丈夫なの?」
「ん、あらかた挨拶はしたしな」
「お友達とも、会えた?」
「ああ、あいつらはいいんだ……」
「お疲れ?」
「うん。疲れた……。」
膝の上で抱き締められたまま、ポツリポツリと会話が続く。
セラト国に来てから、いや、来る前からも怒涛の展開で、こんなにゆっくり話すのは久しぶりな気がした。
「そういえば、みんなレオのことを「ハルト」って呼ぶのね」
「ん?ああ。学園では、身分はみな同一という校則だったからな。殿下だの、様だの付けない呼び方ってなったら、ああなった」
「そうなの」
「なあ、アオイ?リンを呼んでいいか?」
?
なんでリン?
レオの指が頬をなぞり耳朶に移動する。そのままイヤリングを外され、更にネックレスも外された。
「明日からは王宮を出て、サラ姫の祖母の屋敷……公爵家に泊まる。さすがにそこではちょっと無理そうだから……」
「……ん?」
なんのこと?
「このドレス、1人で脱げる?」
は?
「リンに浴衣持ってきてもらう?」
浴衣?
「な、なんで?」
「一緒に寝よう」
「………………っ!!華旺国で、一回許しちゃったからって!あのときはレオの魔力が底をついてたからっ!父上にまで宣言するからっ!!」
まさかの発言に動揺しないわけがない。
「嫌か?」
その聞き方ズルい!
甘く溶けたような目線が近づいてくる。
ちゅ、と小さく音を立てて唇が重なる。
「なぁ?ダメか?」
聞きながらまたキスされた。顔が熱い。
「アオイが近くにいないと」
手が、いつの間にか指と指を絡める繋ぎかたになってる。
それを持ち上げて、指先にキスされる。
「不安になる。また、どこかに行ってしまいそうで」
そう言って、人差し指をカプリと咥えた。
「……っ、や……!」
赤い舌が艶かしく動いて、次は薬指に移った。背中がゾワゾワする。
「アオイ?だめか?」
黄緑の熱っぽい瞳から目を反らせない。疑問形のくせに否を許さない甘い囁き。
私が答えを出す前に、今度は深く口づけられた。
「……っ、ふ、……ん……」
勝手に漏れる声が恥ずかしい。
キスしたままなのに、レオがクスリと笑ったのがわかった。
一瞬離れて、また近づく。
レオに翻弄されてるけど、それが気持ちいいってもう知ってしまった。
嫌がらない私に気を良くして、レオはどんどん遠慮なく攻めてくる。
頭の中がレオを感じることで一杯で、そのざわめきに気付くのが遅れた。




