82: 枷
「?申し訳ない、とは?」
本気でわからなくて聞き返した。
「レオの枷になってもらった」
その一言でレナルド様がレオの本質を見抜いているとわかった。
元々仲の良い兄弟だし、レナルド様は私など到底及びもつかないくらい聡い。きっと、もっと昔からレオのあの本性に気付いていたのだろう。
そして私を「枷」だとハッキリ言った。
「……。いえ、こちらこそ、私のような者がレオンハルト様の枷で申し訳ありません」
果たして「枷」として使い物になるのかどうかもあやしいけど。
「すまない。言い方が悪かったな」
苦笑いした顔は穏やかだった。
「アオイ嬢は、出会う前のレオのことを知ってるのかな?」
「陛下に……、魔法を暴走させてて乱暴だった、としか聞いていません」
そう言えば、それしか聞いてない。
そもそも出会ったのだって、お互い10歳前後で、その前ってそうとう小さい頃のこと?
「乱暴、確かに。それしか感情の発散の仕方を知らないくらい幼かったからね。実はレオが幼い頃は、私達とはあまり仲良くなかったんだよ」
「えっ!そうなんですか!?」
レナルド殿下とも、ウォルター殿下とも、レオは普通に素を出して接してるから、小さい頃からそうなんだと思ってた。
「仲が悪かった……というか、ほぼ接してなかった。レオを産んだ後のアリアーナ様は体調を崩されてね。かなり長い間ずっとベットの上で、絶対安静状態で、レオともあまり会えていなかった。そこにレオの魔法暴走。ますますアリアーナ様とは合わせてもらえず、暴走を恐れた侍女や乳母からも必要最低限のふれあいで……、要するに孤独だったんだよね」
初めて会った頃のレオを思い出す。
天使かな?と思わせるような容貌のくせに、口は悪いし態度も悪かった。
でも、会っていくうちに、リンやハヤテとも打ち解けて、普通に小生意気な少年、って感じになっていったっけ……。
「アオイ嬢と会ってからだよ。レオが人として成長してきたのは」
「そんな大袈裟な」
笑って言ったら、レナルド殿下は笑ってなかった。
「子供のくせに、何も執着してなかった。年頃の子供がねだるようなオモチャも、食べ物の好き嫌いも、人にも」
「ひと?」
「母親に会いたがったり、陛下……父に甘えたりもなかった。俺らのことも、異母兄弟ってことはわかってたみたいだけど、遠くから見ているだけで、遊んでくれ、と言われたこともない。
そんな状態は、子供として、というより、人としておかしかった。それが、アオイ嬢の所に出入りするようになって、変わったんだ」
ふわりと笑うレナルド殿下の顔は慈愛に満ちていて、兄としての顔だった。
「君たちは魔力も強くて、レオが多少暴走しても動じなかったんだろう?普通の「子供」として接してもらえるのが、嬉しかったんだろうね。どんどん生き生きしていくレオを、父上も、アリアーナ様も、とても喜んでいたんだよ。もちろん、私達兄弟もね」
王族、といっても家族……。
きっと、それぞれにいろんな思いがあったのかもしれない。
「それなのに、陛下が変なこと言ったもんだから、こじれさせちゃったね。それは本当に父に代わって謝るよ」
「えっ!?え?それって……あの、「忘れろ」っていう、アレですか?」
「それ」
変なこと、っていうか、最初はなんで?っていう方が強かった。
陛下自らが私に「レオと友達になって」と言ったのに、その後そのことを「忘れなさい」と言われて、幼い私は混乱した。
でもレオがあの虹を作った湖で、揺るぎなく「忘れない」と言ってくれたから、レオを信じた。
当時はそれでよかったけど、成長するにつれ、レオと私の身分だとか、王族であるレオの将来
のことに気付いた私は、陛下が「忘れろ」と言ったことに自分で勝手に答えを出した。
私は第三王子の気付け薬だったんだな、と。
その時には強力な効果で異常を回復し、平時には必要ない。
学園を卒業して戻ってきたレオは、立派な青年になっていて、確信した。
もう私は必要ないんだって。
レオ本人から必要とされても、レオの立場としては必要ない。
そう思って避けようとしたのに、レオは追いかけてきて……。
結局捕まった。
あの闇の中で見せられたレオの闇を知って、やっと私の覚悟が決まった……というか。
「いえ、あの……謝らないで下さい」
「陛下からマサユキ殿への手紙の内容、アオイ嬢は聞いた?」
「いいえ。なにせあの騒ぎの後、気づいたら馬車の中でしたので……」
陛下が手紙を父上宛に出したことも知らなかった。
「……。そうだった。まあ、こうなったらもう気にする内容じゃないけど、機会があればマサユキ殿に聞いてみて」
「?…はい……」
一体何が書いてあったのか。
「さて、レオが君の事を探し回ってるようだ。そろそろ戻らないとね」
そう言いながらレナルド殿下はスッと立ち上がり、エスコートのために手を差し出してくれた。
「なぜ?レオが探し回ってると……」
手をお借りして、立ち上がりながら聞いた。
「ん?あれ?気づいてないのか。レオ、君に目印を付けてる」
「は?」
「あまりにも何度も離れたせいかな。二度と見失わないように、とかなんとか言ってたけど。さすがにやりすぎのような気もしないでもない」
え?どういうこと?
「まあ、それだけの執着を見せるほど愛されているってことだよ。不肖の弟だが、よろしく頼むよ」
そう言って笑った顔は、皇太子として礼儀正しく威厳のある固めの今までのレナルド殿下は違って、親しげだった。
レオのパートナーとして、身内として認めてくれた、ってこと?
とはいえ、枷だけど。
おずおずと頷けば、ニッコリと笑い返された。
その顔を見て、フヨウ兄さんを思い出した。
「おお!レナルド殿下!こちらにいらっしゃいましたか。サテラス侯爵様が是非にお話したいことがあると、探しておられましたぞ」
セラト国の貴族と思われる、恰幅の良い男性がレナルド殿下に声をかけた。
振り返ったレナルド殿下が「大丈夫かな?1人で戻れる?」と聞いてきたので「大丈夫です」と、答えた。
すぐそこにホールの入口が見えているので、殿下達が去ったのを見届けて、そちらに向かった時、引っ張られたのだ。




