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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第2章

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76: トンズラ

 今日、3日目の会議から、いよいよ今回の三国会議のメイン議題を話し合う、と聞いた。

 レオはもちろん、ワーグ隊長もここからが本番らしい。

 私には政治的なことは分からないけれど、西の海から定期的にやってくる魔物を、その度に倒したり蹴散らしたり追い返したりして、海岸線を守っているのが、三国の軍()()()()()になっているってことは知っている。

 実は、ここ数年はほとんどレオ1人で済んでいるってことも。


 多分、今回の会議は、グーラート王国の独壇場になるだろう。

 ハッキリと聞いたわけではないけど、レオやレナルド殿下の話っぷりを聞いていると、今まで隠していたレオの力を各国に認めさせ、討伐の責任を負う代わりに、こちらに有利に交渉を進めようとしているらしい。


 *****


「だから、多分3日目から周りの俺を見る目が変わる。媚びへつらって来る奴が現れるだろう。娘をあてがって来る貴族も出てくると思う。なにせ俺は()()()()()()()()()ことになってるからな」

「で?最終日に婚約者(わたし)がいることをアピールして、牽制してからトンズラするわけね」

「ぶは!トンズラ!アオイなかなかヒドイ言葉を使うな。そう。有能で独身(フリー)だと思われると後々やっかいだからな」

 こうも計算高くなってしまったのは、グーラート王国で令嬢方が次々と言い寄ってくるのを、夜会の度にかわし疲れたせいなのかしら?


「それに、俺の手でドレスアップさせたアオイと踊りたい」

 色気たっぷりに微笑まれた。

 確かに、突然だったし、華旺国からだったから、夜会に出るようなドレスも装飾品も何も持ってない。

 普段着だけはなんとか見繕ってきたので、フォーマルなドレスがなくてもまあいいか、と思っていたのに、まさかオーダーされてるとは思わなかった。

 実はグーラート王国にいる時にも、レオからは何度となくドレスを贈られてる。でも1着も着ていない。

 レオと踊ったのだって、レオが学園に入る前の幼い頃に、お互い練習相手として踊った時以来踊っていない。


「わ、私も、レオと……、踊りたい……よ?」

 勇気を出して言ってみた。

 自分で言うのもなんだけど、ずっとレオのことを好きだったくせに逃げ続けて、()()()()()があった後、ちょっと考えを改めた。

 いつも自分の気持ちをしっかり伝えてくれるレオに応えられるように……。ちゃんと自分の気持ちを伝えられるように……。


 真正面に座っていたので、その変化をしっかりと見てしまった。

 ティーカップを持ったまま静止したレオの顔が、ぶわーっと一気に赤くなるのを。

 ガション!とちょっと乱暴ぎみにティーカップを置いて、その手を口にあてて「これ、何かの褒美か?」と呟いている。

 よし、追い討ちをかけてやろう。

 幸いアランは食事の片付けで、食器を乗せたワゴンと共に一旦部屋を出ている。

 ササッとレオの隣に座った。

「えっ……」

 珍しくレオが動揺してる。

「ちゃんと、大人しく待ってるから、会議……が、頑張って……、ね?」

 やってみたものの、メチャクチャ恥ずかしい!!

 本当は、ちゃんと手を取りたかったけど、まだ出来なくて、袖口を掴むのが精一杯。

 顔だけはしっかり見て言おう!と思って見上げていたら、レオの赤い顔の眉が下がっていく。

「アオイ!なんなの!?急に!!俺、これから午後の会議なんだけど、行きたくなくなるだろーが!」

「えっ!いや、それを励ましたつもり……、だったんだけど?」


 *****


 余計なことまで思い出してしまった……。


 そんなわけで、本日3日目。

 さすがに昼食は来られなかったようで、すでに夕焼けが窓から見える時刻。

 毎夜毎夜、晩餐はセラト国はもちろん、共和国の貴族からもレナルド殿下と共にお呼ばれしているようで、今日はもう来られないだろう、と思っていた。

 明日は会議最終日にして、夜は晩餐会がある。

 ドレスももう試着も済ませ、クローゼットに準備されている。

 初めてレオの婚約者として公の場に出る、と思うと今から心臓が痛いくらいだった。

 昨日の昼食も、少ししかない時間に無理矢理来てくれたみたいで、サッと食べて慌ただしく行ってしまった。

 今朝はちゃんと一緒に食べたのに、もうレオに会いたくなってる自分にちょっと呆れる。


 あんなに、逃げ回ってたくせに……。

 今ではレオが側にいるのが当たり前になって、いないと不安になるくらい。

 まあ、レオがセラト国に向かう道中、馬車の中はもちろん、休憩中も食事中もずーっと私を離さなかったので、単純にそれに慣れた……っていうのもあるんだけど。

 宿ではさすがに別室だったけど、レナルド殿下の鋭い目線がなければ、多分同じ部屋で休む気だったと思う……。


 *****


「今日は来られなかったですね……」

 レースを編んでいる手を止めてリンが言った。

 ずっと部屋にこもって暇すぎた時間を、リンと2人がかりでレース編みをしていた。しかも大作。かなり細い糸で繊細に編んでいるので、全然進まない。

 これの完成形が何になるのか、リンは何も言わないけど分かってる。

 まあ、いつ出番があるか、はたまたないか、わからないけど暇潰しには丁度良かった。


「ちょっと、お茶にしましょう」

 と、私も手を止め、茶器が用意されている棚に向かおうとしたら、コココッとノックが聞こえた。

 ドアの側の椅子で待機していたハヤテが誰何すると、「アランです」と声がした。

 ハヤテがドアを開け、アランが顔を出すとニッコリと笑顔をこちらに向けた。

「レオンハルト殿下が参りますが、よろしいですか?」

 アランは丁寧に毎回レオがこの部屋に来る度に、こうやって自らが先触れに来てくれる。

「はい!大丈夫です」

 思わず声に喜色が出てしまったのは、しょうがない。


 ハヤテがドアを大きく開けると、廊下を歩いてくるレオが見えた。

 ちょっと疲れているようにも見えるけど、こちらを見ると片手を上げてフワリと笑った。

 ハッキリと表情がわかるくらい近づいた時、レオの後ろからものすごい勢いで駆け寄ってくる女性が見えた。


「ハルト!やっと捕まえた!」


 そう言って、声の主はレオの背中に抱きついた。


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