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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第2章

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74: 会議初日 (アランside)

「あー……、めんどくせぇうんざり戻りたいアオイのところに行きたい」

「殿下!本音だだもれてますよ!!」


 只今、会議開催五分前。

 広い会議室は講堂のような造りで、前にステージがあり、こちら側はテーブルが添えられている席が整然と並んでいる。さすがに五分前では既にほぼ席は埋まっていて、小声とはいえ周りの来賓方に聞こえてはいないかとヒヤヒヤする。

 華旺国を出てからというもの、レオンハルト殿下はアオイ様にベッタリだ。

 馬車の中はもとより、お食事中も、王宮についてからも自室よりアオイ様のお部屋に入り浸ってる状態。

 まあ、色々あってやっと手に入れた彼女を手放したくない気持ちはわからなくもない、が、それにしてもくっつきすぎ。

 今日から4日間は毎日朝から晩まで会議がみっちり入っているから、アオイ様とお会いする時間は確実に減る……、のに既にこの調子では先が思いやられる……。


 それに加え、ものすごく嫌な予感がする存在がいるんだよな……。


 *****


「お疲れ様でした、殿下。レナルド殿下はまだ中に?」

 午前中の会議を終えて、会議室から出てきた面々にそれぞれの従者やら付き人が声をかける。

 会議は、基本的には各国の要人と、セラト国の貴族だけが会場に入れて、俺のような従者は会議室の脇にある待機所で終わるのを待っている。

 まあ、従者同士の情報交換などもあるのだが、こういう場所が初めての俺は、レナルド殿下の従者であるカイン様の後ろに付いて周りを観察しているだけで終わってしまった。

 カイン様はまだ出て来ないレナルド殿下を待つ、というのでレオンハルト殿下と昼食休憩のために部屋に戻ろうとしていた。

「レナルド、多分メシ食えないぞ、あれ」

 どうやら細かいことで有名らしいセラト国の財務大臣につかまり、政策にかかる費用と効果の話しを延々とされているらしい。おいたわしや。


 4日ある会議は、各国の政策の報告や、国同士の貿易交渉や、人材、教育の相談、農業や工業技術の情報交換……と、内容は多方面に渡るものの、今回のメイン議題は「西の海から来る魔物への対策」。

 3日目から始まるこの会議から、レオンハルト殿下の本当の出番となる。

 今日は顔合わせと肩慣らし、といった所か。

 考えながら宮殿の廊下を歩いていると、少し前を歩いていた三人の貴族達が話している内容が聞こえてしまった。


「三男は噂通りたいしたことはなさそうじゃな!会議の間中、ずっと手元の資料を見つめて、発言はレナルド殿しかしておらんかったぞ」

「まあ、三国会議も国外での活動も初めてらしいですから、あんなもんじゃないんですか?」

「見た目だけはやたらと綺麗でしたねぇ……。昨日の夜会でも、会場中の女性の目を釘付けにしていたとか」

「おぬし、参加しておらぬから知らぬだろう。あれだけ高位貴族の娘が何人も話しかけても、全く無表情で、誰ともダンスの相手をしなかったのだぞ!ダリアでも断られておった!セラト国の女性を馬鹿にしておるのか!?」


「心に決めた女性としかダンスしたくないそうですよ」

 そこに、聞き覚えのある声がした。

 三人の貴族のそのまた前にいたのは、ワーグ隊長だった。

 軍関係の会議は3日目からなので、彼は今日は1日フリーだったはず。

 グーラート王国でもその厳つい見た目からご令嬢方はもちろんのこと、その他の小心者達を目線だけで震え上がらせる彼なので、三人の貴族達も後ろから見てても分かるくらいに固まった。

「あなたは……、確かグーラート王国の軍部の隊長だったかな?」

 三人の中では1番背が高く、落ち着いた感じの公爵が最初に立ち直った。

 夜会で顔を見た人物はあらかた覚えたので、この三人が誰なのかは分かる。


 1番大声でダンスをしない殿下を怒っていたのは、グラナダ公爵。セラト国の公爵家の中では比較的新しい血族でいて、顔は広いのか、昨日の夜会では沢山の貴族や国外の賓客とも挨拶を交わしていた。

 ひょろりと長身で落ち着いているのは、セト公爵。穏健派と聞いたとおり、夜会でも誰のそばにいても当たり障りのないそつない返答で、逆に頭の回転は早そうだった。

 もう1人、小柄でちょっとふくよかな方はログナルト伯爵。昨日は夜会に参加されていなかったが、先ほどの会議室から出て来た時に、少しお見かけした時にはニコニコと他の方が話されているのを聞いていた。


「なぁ、レオンハルト殿下?」

 三人を飛び越えてワーグ隊長の目線が俺らに向いた。

 それと同時に貴族三人がバッと振り返った。

 あ、非常に気まずそうな顔。

 殿下をチラリ、と見れば見事な無表情。

「公爵方、決してこの国のご令嬢方をないがしろにしたつもりはない」

 グラナダ公爵がムッとした顔をした。貴族にしては感情を出しすぎだな。

 殿下はこれ以上話すつもりはないらしく、そのまま三人の脇を通りすぎた。

 ワーグ隊長も何も言わず付いてくる。

 後ろで舌打ちしてるのは、俺だけでなく殿下にも聞こえているだろう。


 *****


「殿下、1つお聞きしたいことがあるのですが?」

 廊下をアオイ様の部屋に向かいながら聞いた。

 晩餐は、親睦も兼ねてあちこちの貴族達に招待されているレナルド殿下とレオンハルト殿下。なので殿下は、朝食と昼食だけは意地でもアオイ様と一緒に取ろうとしている。

「なんだ?」

「グーラート王国にいた時には、うっさんくさいキラキラ笑顔を振り撒いて、ご令嬢方と散々ダンスどころか引き連れてたりしていたのはなんでですか?」

「……。お前、なぜここ(セラト国)でダンスしないのか、と聞かない所が嫌味だな」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めてねぇ」

「それは俺も聞きたい」

 唐突にワーグ隊長も入ってきた。

「……。あれはなぁ……。アオイが言ったんだよ」

 眉間に皺を寄せて嫌そうに言った。

「学園を卒業して戻ってきた時の夜会で、まずはエスコートを断られた」

「まあ、殿下の卒業祝いの夜会でしたからねぇ。主役の横にいたくないという、アオイ様の御気性でしたら、お気持ちもわかりますよ」

「次にはどっかの貴族の夜会で、タカユキがエスコートして来たから、せめてダンスを踊ろうと誘うも断られた」

 あー……、なんか、だんだん分かってきたぞ。

「その後も何度か声をかけるものの、全て断られた」

 そしてだんだん不憫になってきたぞ。

「そのうちにアオイにハッキリ言われた。誘えば誘うほど、当たりが強くなるからやめてくれ、と」

「当たり?」

 ワーグ隊長は()()()()()()は読めないだろうな。

「それで、アオイ様にちょっかい出されるくらいなら、自分で見張ってようと思ったんですか……」

「見張っ…………。まあ、あながち間違いではない……」

「だけど完全に無視することも出来ずに、毎回あんな嫌味の応酬みたいな会話になってたんですね……」

 返答がない。のは、図星ということか。


 *****


 アオイ様の部屋に近づくにつれ、何やら室内で騒いでいる声が廊下まで聞こえてきた。

 スッと冷えた黄緑の瞳になった殿下が、ノックもせずにドアを開けた。

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