71: 爪のおかげ
毎度毎度、どこか間違う……。誤字脱字報告、ありがとうごじいます!
「改めて、婚約おめでとう、と言わせてもらうよ。アオイ嬢」
爽やかな笑顔で、レナルド殿下が何か言った。
「…………え……」
固まった私を見て、怪訝な顔をした後、レオをギロッと睨んだ顔はさっきの爽やかな笑顔をした人物とは別人のようだった。
「レオ?説明はしていないのか?」
「アオイは先ほど起きたばかりでしたので」
しれっと誤魔化した!
*****
休憩地点として一行が停まったのは、開けた高台の草原だった。
街道添いではないものの、賊が隠れるような所がなく、見晴らしがいい。
やっと顔が上げられるようになって、周りを見れば、かなりな大所帯だったことに気付く。
国として公に外国へ行く。しかも第一、第三王子と共に、となると護衛や従者、侍女、荷物等でなかなかの一団が出来上がっていた。
ワラワラと馬車から従者や侍女達が現れ、草原に敷布を広げ、簡易的な椅子やテーブルがセットされていく。
簡易的とはいえなかなか座りごこちのいい椅子に下ろされた。そしてレオは当たり前とばかりに隣の椅子に座った。
外に出て初めて気付いたけど、どうやらもう昼前くらいの時間だった。
私、めちゃくちゃ寝てたのね……。
馬車からは、レナルド殿下と従者のカイル様、外交補佐官のウェーバー公爵様と軍部の第一部隊のドナルド・ワーグ隊長が降りてきていた。別の馬車からはハヤテとリンも降りてきて、んんん?なぜかお父様……タカユキ様までいるんだけど!?
ここでお昼休憩、ということで準備されているが、レナルド殿下とレオと私の席と、他の方々の席は離れていて、ちょっとホッとした。
王宮のお偉いさん方に、私は昔からあまりいい顔をされてないから。
こちらのテーブルはリンを中心にハヤテとカイル様、数人の侍女が昼食の準備をしてくれた。王国風にサンドイッチや果物が並ぶなか、三段のお重も広げられて、おにぎりや厚焼き玉子、煮物、漬物……という、かなりカオスな卓上になっている。
そんなことを思ってる時に、ふいにレナルド殿下からお声かけ頂いたのが「婚約おめでとう」だったので、心底ビックリした。
*****
「あの、婚約って……、だって、陛下が……」
「グーラート王国として華旺国に婚約を申し込んだはずだよ。陛下が書状をレオに持たせた」
レナルド殿下が言うと、
「マサユキ殿に受理されたぞ」
と、レオ。
「え、っと、では、父上……華旺国の返答……は?」
国としてっていうことは、この場で1番の国の代表者であるレナルド殿下に聞いたのに、レオが答えた。
「もちろん、了承済みだ。更には、元々俺は華旺国式でも婚約の申し込みをするつもりだったんだが……、爪のおかげで省略された」
「「つめ?」」
殿下と被ってしまった。
レオが私の胸元を指差す。
もしかして……、と思って首を確認すれば紐がぶら下がっている。辿って引っ張り出せば、小さな巾着が出てきた。
手のひらにコロンと出した龍の爪は、相変わらず魔力駄々漏れだわ。
「うわ、何それ。すごい神聖な魔力だね」
さすがレナルド殿下。
よくお見せしようかと爪を差し出したら、「んんっ!」と顔をしかめられた。
「それ、私には触れないな。拒否されてる。……。もしかしてレオは平気なの?」
ヒョイっと私の手から爪を持ったレオは、ニヤリと笑った。
「そう。アオイと俺以外には持てないらしい」
華旺国の正式な求婚では、男性が文を送り女性が受けとり、それを持って2人で女性側の両親に認めてもらう……。という作法なのだけど。
「出発前の夜に、マサユキ殿とキクノスケ殿の前で、これを見せただろう?」
確かに、あの時出した。そして2人とも変な顔してた。
「2人ともコレが普通は触れないって、知っていたんだ」
「……へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「黒の蝶と、黒の蝶が認めた相手だけ触れることが許される、ってこと」
めっちゃくちゃ嬉しそうに、艶やかに笑ってレオは言った。
意味が解ったとたん、ドカーッという勢いで顔が熱くなる。
レナルド殿下がクスクス笑ってる。
「じゃあ、華旺国ではもう認められた、と思っていいんだね。グーラート王国では、一応アランの報告書にも記載しておいたけど、帰って陛下に直接報告だね」
わたしがスヨスヨと呑気に寝ている間に、いろいろなことが進行していたようだ。
この、セラト王国行きもその1つ。
「元々、レオと私と他数人で三国会議に出席することは決まってたんだ。だから華旺国へ行くレオにも期限を設けてたんだけど……。まあ、色々あったようだしね」
含みを持たせて言われてしまった……。
「あの……、今更ですが私がついてきても大丈夫でしょうか?宿泊等、こうなったら自分達でなんとかしますので……」
レオが無理矢理連れてきたんです!とは、口に出せないけど、レナルド殿下はわかってそうだな……。
「なんとかする、ってどうするつもりだ?街の宿屋にでも泊まるつもりか?」
お弁当のおにぎりを遠慮なくモグモグしていたレオが、急に低い声で言った。
「4人くらい予約なくてもなんとかなる……」
「ダメだ」
「そうだね。それは私も止めるよ」
レナルド殿下まで。
「まだ公にはしていないけど、アオイ嬢はもうグーラート王国第三王子の婚約者なんだ。それ相応の対応はさせてもらうし、素直に従ってもらえるかな」
言い方は穏やかなんだけど、反論否定は一切受け付けないオーラががすごい。
「は、はい……。わかりました」
それ以外の返答はないでしょ、これ。
なんだかんだ話ながらも、レオとレナルド殿下でお弁当をすごい勢いで平らげてしまっていた。殿下は「始めて食べるものだがなかなか旨いな」と言ってくれていたので、お口にあったのかと安心した。従者のカイル様は毒味もせずヒョイヒョイ食べてしまうレナルド殿下にアワアワしてたけど……。
「アオイ嬢に軽く説明しとくと、三国会議とはグーラート王国、セラト王国、ストラウト共和国の三国が2年に1度集まって行う恒例会議なんだ。会議自体は4日間行われる。あとは、歓迎夜会や交流会など、開催国の王室主催で行われるパーティーと、議長国の貴族が個別に行う催しや講演会、夜会や細かい打ち合わせ的な集まりがある。滞在予定は10日間だけど、その間私とレオはかなり過密スケジュールになると思う」
き、聞いただけでめんどくさそう!
でも、そんな公の場にレオが出席するのは初のことで、それだけ陛下がレオの国政への参加に本腰を入れたことの証明だ。
「アオイ嬢達は正式な参加者ではないから、観光とか好きにしててくれていいんだけど……」
そこでチラリとレオを見る。
「夜会やパーティーには、出る?」
「出ません!」
即答したら、レオに睨まれた。




