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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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68/127

68: 寝るだけ

「今度はヤトが失踪して、奴の残したあの小屋を見て、研究していた魔法が闇魔法だったと知ったオヤジは、あそこにあった書物も道具も全て燃やしちまった。で、その後やっと現れたのが、あの襲撃だ」

 フゥ、と疲れたため息を吐いて父上は口を閉じた。

「ヤト様は、ずっと勘違いしたままだったのですね……」

 本当のことを知らないままイオリ様を想い続けたヤト様が、痛ましい。

「イオリのことを「病気で亡くなった」と里の者達には説明していたのを、ヤトは全く信用しておらず、「邪魔になったから殺した」のだという証拠を探していたようだ。もちろん、そんな証拠はあるわけもなく、徒労に終わったがな。その後、何を思ったのか闇魔法の研究だ」

「ヤト様は、イオリ様を呼び戻すつもりだったようです……」

「呼び戻す?」

 父上が嫌そうな顔で聞き返す。

「黄泉の国から」

 自分で言ってからゾッとした。

 そんなこと出来るわけない、と思ってはいるけど、禁忌の闇魔法を使えば……あの真っ暗な空間にいた不気味な何かを使えれば可能なの?とも考えてしまった。

「父上、ヤト様が目覚めたら本当のことを教えて差し上げてもらえますか?そして、これを」

 ずっと持っていたイオリ様からの手紙を渡す。

「お前、これ……。いいのか?」

「はい。私はもう読みましたので。私よりヤト様の方が必要だと思います」

 起きたら渡してもらうよう父上に頼んだ。



「……っていうか、レオ。お前明日出発だろ

 、いい加減休め」

 父上がレオに向かって唐突に言った。

「……え?レオ……、どこかに行くの?」

 確かに既に日付けが変わってしまっている。っていうか、出発?どういうこと?

「ありがとうございます。では、失礼して休ませてもらいます。アオイ、行こう?」

 そう言って、私の腕をグイっと引っ張り一緒に部屋を出ようとする。

「え?は?ちょっと、待って!」

 廊下に出る間際、レオは振り返って父上にとんでもないことを聞いた。

「アオイの部屋で休ませてもらっても?」

「はぁ!?なななな、何言ってるの!?」

 父上より先に私が声を上げてしまった。

 父上なら「お前、何ふざけたこと言ってんだ」とか言うだろう、と思っていたら

「あぁ……、あー……、んんっ、お前……、魔力……」

 と、いまいちハッキリしない物言い。それに対してレオは

「そうとう使いました!」

 やたらにこやかな笑顔で言いきった。

 キクノスケお兄様まで、微妙な顔つきになっている。

()()()()だぞ」

「もちろん。()()()()です」

 男2人は意味深な目線を交わした。


 *****


「れ、レオ?本当にここで、ね、寝るの?」

 誰が用意したのかわからないけど、私の部屋に行ったらすでに布団が2組引かれていた。

 とはいえ、部屋の端と端に引いてあって、最大限距離を取ってある。何コレ。

「アオイ、今日は疲れただろ。風呂行ってきな」

 いろんなことがありすぎて、濃厚な1日だったことは確かだ。

 なんだか納得してないし、腑に落ちない状態のまま、レオに急かされてお風呂に行った。


 お屋敷には家族用のお風呂と、共同風呂があって、共同風呂は男女別れて二つある。

 私は家族用の風呂にさっと入って、埃を落とした。

 湯船につかっていると、今日あったことが全て夢の中のことのように思える。

 こざっぱりして部屋に戻れば、2つの布団(しかもくっつけてある!)とくつろいでいるレオがいて、現実を思い出した。


「さっぱりしてきたか?」

 いやに落ち着いてふわりと笑うレオも共同風呂に入ったようで、金髪はまだ濡れてるし、寝間着の浴衣の合わせは相変わらずユルユルで胸板が見えてる。

 濡れた髪を無造作に後ろに流して、こちらを見る瞳はいつもの黄緑だけど、色気が駄々漏れすぎて直視出来ない。


「あのっ!聞きたいことがありすぎるんですけどっ!なんで同じ部屋で寝ることに?明日出発って何!?」

「落ち着け。勢いすごいし、敬語混ざってるし」

 ククっと笑いながら布団の上で胡座をかいている。

 普段なら重厚な王国様式の靴を脱がない部屋で、上質なシャツとベスト、トラウザーズに艶々の革靴……という格好で、フカフカのソファーに優雅に座ってティーカップを傾けているような彼が、和室の布団の上で藍染の浴衣で胡座……っていうのを見慣れてきてる。


 とりあえず、私も隣の布団の上に座った。

「アオイ、アーネストと一緒に寝てたんだろ?」

 ピキっ、と空気にヒビが入った。気がした。

「ああ、いや、責めてるわけじゃない。ものすっ……………… ごく、嫌だったけどな」

 今、すっごいためたね……。

「で?お前、なんで自分の特殊能力を親にも教えてなかったんだ?」

 ああ、レオはやっぱり覚えていたのね……。

 物心ついて、魔法もある程度使えるようになってきた頃。これといった得意な魔法がない、と思っていたのに、たまたまレオとお昼寝したことで自分の特殊能力に気づいた。


 一緒に寝た人の魔力を回復する。


 当時、魔力の出力コントロールがハチャメチャだったレオは、よく魔力切れを起こしてダウンしていた。

 心配して、寝ているレオの側にいた私が一緒に寝てしまって、起きた時にレオの体調が回復していることに2人で気づいた。

 でも、それを誰にも言わなかった。


「……また、お前のことだから、その特殊能力が原因で他の人に影響を与えるのが嫌だ、とか思ってんだろ」

「……っ、ち、小さい頃はそんなとこまで考えてなかったけど……」

「けど?」

「……レオを、治せるのが、私だけ、って……いうのが、ウレシかった……ので……」

 小さい頃の、単純な好意が恥ずかしい。

「なんだよ、それっ……」

 ボソリと呟いたレオを見たら、私に負けず劣らず顔が赤い。

 ふいにグイっと腕を捕まれて、引き寄せられた。

 レオの腕のなかにすっぽり収まる。

「れ、レオ!」

 目の前が、は、肌色なんですけど!

 ぎゅう、としっかり抱き込まれて身動きが取れない。

「アオイ……」

 呼んだ、というより呟いた一言に心臓がキュンとなる。聞こえてくるレオの心音も心地よい。

 あ、これ、ダメだ。

 前もあった。

 レオに包まれて、この安心出来る心音を聞いてると、意識がトロトロと緩んでくる。

 まだ聞きたいことも沢山あったのに、すごく眠い……。

「……れお、お手紙……ありがと……。あれで、思い……出した…………」

「……。アオイ?」

 世界一安心出来る腕の中で、またもや私は眠りに落ちてしまった。

「……またかよ……」

 呟いたレオの声は、私にはもう届かなかったけど、苦笑混じりのソレは文句というより安心からくる響きだった。

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