61: ないだろ
毎度のことながら、誤字脱字報告ありがとうございます!
自分の過去を、よりにもよって自分ですら見たくない過去をレオに知られた。
嫌……。
全然大丈夫なんかじゃない。
自分の中で一番淀んだ暗い部分を、好きな人になんて見られたくなかった。
指先からすぅっと体が冷えていく。
足に力が入らない。
自分から逃げたくせに、まだ嫌われたくないだなんて思う自分が浅ましい。
「……っオ……」
苦しそうなうめき声にハッとした。
レオがどいたその先の暗闇に、ぼんわり浮かんできたのは、背もたれのない椅子に座ってる男性の背中。
その向こう側にはベットがあり、誰かが横になっている。
「っ、フィオ!!」
突然ガバリとベットから飛び起きたのは、レオだった。
「殿下!」
座っていたのは、アラン。
良く見ると見覚えのある部屋で、アマーリア様の診療所だった。
「フィオ!フィオはどうした!?」
ガッとアランの襟元を掴み、怒鳴るレオの姿にビックリした。
「でん……か……。フィオ、レンツィア様、は、只今、そうさく、中、です……」
襟元を絞められて、苦しそうに言ったアランに返事もせずレオはそのままアランを投げ飛ばした。
ガタン!と椅子が倒れ、アランもベットのサイドボードに思い切り叩きつけられていた。
「……っ!」
打ち所が悪かったのか一瞬アランのうごきが止まったが、即座にベットを降りてヨロヨロとどこかへ行こうとしたレオの腕をアランは掴んだ。
「離せ」
静かだが有無を言わせない響き。
冷たく無機質に言葉を発するレオを見たことはあるけど、こんなに冷徹で憎悪を込めたような言い方は聞いたことがない。ゾワっと鳥肌が立つ。
「殿下……。休んで下さい。まだ体力も魔力も回復していません。フィオレンツィア様の捜索はその後でも」
話の途中でレオはアランを躊躇無く殴った。
「フィオを後回しに、だと?」
顔を殴られてうつむいたままのアランは、痛みをこらえているのか微動だにしない。でも、レオの腕は掴んだままだった。
「何をやってるんだ!」
そこに、今度はシンが現れた。
段々分かってきた。
これは、私が華旺国でアーネストに連れ去られた後のことなんだ……。
「離せ!フィオをどこへやった!!」
ベットに戻そうとしたシンを押し退けるレオ。アランも加わって二人がかりで押えるも、レオは暴れるのを止めない。
「フィオ!フィオ!!」
錯乱しているのか、何度も私の名前を呼ぶ。
魔法を発動させようと手をかざすも、薄く水色のもやがフワリと出るだけで、何もおこらない。魔力があそこまでなくなるレオも初めて見た。
ついにはまーくんまで加わって、とうとうレオはベットに縛り付けられた。
「マナト、レオを寝かせろ。これじゃ、精神が持たない」
「はー……。ちょっと待ってて。薬持ってくるから」
結局、レオは睡眠薬を無理矢理飲まされて眠った。魔法より体に負荷がかからない、とまーくんが説明していた。
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隣にいるレオを見れば、無表情でその光景を見つめている。
レオを見ている私に気づいて、こちらを見て静かに笑った。
「……。こんなの、見たくなかっただろ?」
なんて返したらいいのかわからず、戸惑っていたら、また違う光景が出てきた。
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木造の見慣れた廊下。すぐにお屋敷の母屋だと分かった。
夜なのか、直接床に置いた灯りが長く影を作る。その大本には、さっきのレオとは全く赴きの違うレオ。
亡霊のようにユラリと突っ立ってるのに、ピクリとも動かない。
「……フィオ?寝てるの?」
唐突に喋りだした。
けど、廊下には誰もいない。
「俺の隣にいてよ……。フィオ?」
力無く呟くレオ。
ふいにアランが現れて、レオの背中をそっと押して、部屋に連れて行った。
見ているものが信じられなかった。
さっきの暴力的に暴れまわるレオも、今見たみたいに精神的に病んでるレオも、初めて見るレオだったし、私の中のレオ像からかけはなれていたから……。
「フィオのせいだよ」
呆然としていたら、後ろから抱き締められた。
「私の……せい……」
散々言われ続けたその言葉を、耳元で言われた。低音にゾワリと背中が震える。
「ヒドイよね、俺。フィオがわざと逃げられないような言い方で縛ろうとしてる」
「縛る……」
「そう。俺はもう、フィオがいないとダメなんだ。見ただろう?はは、自分でも引くな。あんなにぶっ壊れた奴が王子とか、ないだろ……」
自嘲するレオは、それでも私を抱き締める力は緩めない。
「なぁ……、逃げたのは、俺が嫌だったわけじゃないんだろ?」
そう言って後ろから私の左手を持ち上げる。
そこには暗闇でもキラキラ光る指輪がある。
隠していたのをレオに暴かれてから、どんなに外そうとしても外れないし、再び隠蔽魔法をかけようにもかからない。
「取れないんだろ?これ」
確信を持って言われて、振り返る。
「どう……して、わかるの?」
なんだか嫌な予感がしたけど、思わず聞いてしまった。黄緑の瞳が嬉しそうに細まる。
「俺のことを好きだと、外れない魔法がかけてあるから」
「なっ……!」
グイっと対面に向かされる。
「いいんだ。フィオのせいでも。俺はそれが嬉しい」
眩しいくらいの笑顔で言われた。




