60: 闇
まとわりつく。
粘度のある、でも手で掴めない何か。
目を開けているのか閉じているのかわからない暗闇。
落ちているのか浮上しているのかも、わからない。
引きずりこまれた時にはこれで終わるかと思ったけど、トプンと全身入った後は、妙に心は落ち着いた。
シンは大丈夫だろうか?
炎に包まれてる所を見て愕然としていた隙に、足をからめとられ、引きずり込まれた。
あれ?そもそもどうしてシンは私があそこにいるってわかったのかしら?
助けに……、じゃなくて、迎えに来てくれていたのかしら?
レオは?
レオはどうしているのかしら?
またもや逃げたした私に、とうとう愛想をつかせたのかしら?
そりゃ、そうよね。
2回もプロポーズして2回も逃げられたら、きっともうあきらめている。
でも、それでいい。
エレオノーラ様のことがあってもなくても、私ではレオの隣にはいられない、ってわかっていたもの。
大丈夫、大丈夫……。
真っ暗でどんよりしているこの空間に慣れ始めた時、小さく何かが見えた。
小さいと思ったのは遠かったからのようで、そちらに近づこうともがいていると、段々大きくハッキリ見えてきた。
幼い女の子が、ペタリと座り込んだまましくしく泣いている。
見覚えのある、藤色の小花柄の着物。
子供用にしては色が大人っぽくて、幼い私が気に入ってよく着ていた。
あれは、幼い頃の私だ。
やっとのことで近くに来れた。
「父上とタカユキ様が怪我をしたの……」
そう言って、またしくしくと泣き出した。
怪我?二人揃って?
里でも魔力も戦闘能力も高い二人が怪我をするなんて、そうそうない。
私が幼い……、ってことは過去にそのようなことがあったっけ?
「私のせいなの……」
「私の?」
聞き返せば、幼い私がグリンと首をこちらに向けて言った。
「そうよ……、オマエノセイダ!」
「ひっ……!」
見上げてきた幼い自分の瞳は真っ黒だった。
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『かわいそうになぁ。黒の蝶でなければこんな目にあわなかったのになぁ』
『拐ったはいいが、どうすりゃ効果がでるんだ?婚姻届か?いっそヤっちまうか?』
『だはは!お前、ガキに勃つのかよ!』
『でもよ?見ろよこのガキ。黒なんて、と思ったが、肌はきめ細かいし髪の艶スゴいぜ』
『人形みてぇに整った顔してるしなぁ』
『この泣きそうな不安な表情がそそるなぁ』
『だはは!お前、変態だな』
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『きゃああ!父上!!』
『アオイ、無事、か……?』
『父上!血が……、血がっ!』
『お前はタカユキと行け……』
『ハッ、ざまあねぇな!黒の長のくせに。黒の蝶はそんなに大事か』
『うる、さい!』
『黒の蝶なんて、お前らにとってはお荷物だろうに!だってそうだろ?こんな娘っ子1人のせいで、お前ら国の命運が分かれるだなんて、滑稽だな。まあ、俺らが十二分に活用してやるよ』
『やめて!やめて……。私のせいで父上やタカユキ様が傷つくなんて……いや!』
『そうだなぁ……。お前のせいだなぁ。コイツが倒れているのも、アイツが刺されているのも』
『刺され……?……っ!タカユキ様!!』
『あーっははは!』
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『いやあね。何なの?あの黒は』
『よくあれで殿下の隣に立てるわね』
『クスクス……。多分知らないのよ。自分がどんな色をしてるのか』
『殿下も殿下よ。なぜ黒をかまうのかしら?』
『同情じゃないかしら?きっと黒の気持ちをご理解できるのよ、第三王子は……ねぇ?』
『あら、そう、ね。クスクス……』
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『殿下!ご忠告致しますぞ。あの娘のせいで殿下まで下に見られますぞ。お声かけは控えて頂きたいと、あれぼと言ったではありませんか!』
『うるさいな。誰と話そうが俺の勝手だろ』
『夜会でのお相手はもう少し考えていただかないと。周りの目、というものがございます!』
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『ああ、全く殿下ときたらよりにもよって黒などとっ……!私の娘の方が髪も瞳も何倍も綺麗な色なのに!どこをみてらっしゃるのか……!あんな娘が周りをチョロチョロしているから、殿下の目は曇るのだ。まったく……』
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オマエノセイ
ワタシノセイ
ワタシノ……
「それが、フィオの闇?」
ふいに聞こえた声にビックリして振り返る。
真っ暗の中、白いシャツに黒いズボン、簡易的だけど久々に王国の服を着たレオが浮かび上がった。
「どうして……ここに?」
その黄緑の瞳が不安に揺れた。
「来て……、欲しくなかった?」
思わず首を左右に振ってしまった。
「フィオ……」
そう言って、手を差しのべて一歩近付いてきたのに、一歩後ずさってしまった。
一瞬、傷付いたような表情をした後、それは苦笑いになった。
「フェアじゃないよね。俺の闇も見せてあげる」
そう言って、後ろにあるものを見せるかのように体を横によけた。




