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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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60/127

60: 闇

 まとわりつく。

 粘度のある、でも手で掴めない何か。

 目を開けているのか閉じているのかわからない暗闇。

 落ちているのか浮上しているのかも、わからない。

 引きずりこまれた時にはこれで終わるかと思ったけど、トプンと全身入った後は、妙に心は落ち着いた。


 シンは大丈夫だろうか?

 炎に包まれてる所を見て愕然としていた隙に、足をからめとられ、引きずり込まれた。

 あれ?そもそもどうしてシンは私があそこにいるってわかったのかしら?

 助けに……、じゃなくて、迎えに来てくれていたのかしら?


 レオは?

 レオはどうしているのかしら?

 またもや逃げたした私に、とうとう愛想をつかせたのかしら?

 そりゃ、そうよね。

 2回もプロポーズして2回も逃げられたら、きっともうあきらめている。


 でも、それでいい。


 エレオノーラ様のことがあってもなくても、私ではレオの隣にはいられない、ってわかっていたもの。

 大丈夫、大丈夫……。



 真っ暗でどんよりしているこの空間に慣れ始めた時、小さく何かが見えた。


 小さいと思ったのは遠かったからのようで、そちらに近づこうともがいていると、段々大きくハッキリ見えてきた。


 幼い女の子が、ペタリと座り込んだまましくしく泣いている。

 見覚えのある、藤色の小花柄の着物。

 子供用にしては色が大人っぽくて、幼い私が気に入ってよく着ていた。

 あれは、幼い頃の私だ。


 やっとのことで近くに来れた。

「父上とタカユキ様が怪我をしたの……」

 そう言って、またしくしくと泣き出した。

 怪我?二人揃って?

 里でも魔力も戦闘能力も高い二人が怪我をするなんて、そうそうない。


 私が幼い……、ってことは過去にそのようなことがあったっけ?


「私のせいなの……」

「私の?」

 聞き返せば、幼い私がグリンと首をこちらに向けて言った。

「そうよ……、オマエノセイダ!」


「ひっ……!」

 見上げてきた幼い自分の瞳は真っ黒だった。




 ---------


『かわいそうになぁ。黒の蝶でなければこんな目にあわなかったのになぁ』

『拐ったはいいが、どうすりゃ効果がでるんだ?婚姻届か?いっそヤっちまうか?』

『だはは!お前、ガキに勃つのかよ!』

『でもよ?見ろよこのガキ。黒なんて、と思ったが、肌はきめ細かいし髪の艶スゴいぜ』

『人形みてぇに整った顔してるしなぁ』

『この泣きそうな不安な表情がそそるなぁ』

『だはは!お前、変態だな』


 ---------


『きゃああ!父上!!』

『アオイ、無事、か……?』

『父上!血が……、血がっ!』

『お前はタカユキと行け……』

『ハッ、ざまあねぇな!黒の長のくせに。黒の蝶はそんなに大事か』

『うる、さい!』

『黒の蝶なんて、お前らにとってはお荷物だろうに!だってそうだろ?こんな娘っ子1人のせいで、お前ら国の命運が分かれるだなんて、滑稽だな。まあ、俺らが十二分に活用してやるよ』

『やめて!やめて……。私のせいで父上やタカユキ様が傷つくなんて……いや!』

『そうだなぁ……。お前のせいだなぁ。コイツが倒れているのも、アイツが刺されているのも』

『刺され……?……っ!タカユキ様!!』

『あーっははは!』


 ---------


『いやあね。何なの?あの黒は』

『よくあれで殿下の隣に立てるわね』

『クスクス……。多分知らないのよ。自分がどんな色をしてるのか』

『殿下も殿下よ。なぜ黒をかまうのかしら?』

『同情じゃないかしら?きっと黒の気持ちをご理解できるのよ、第三王子は……ねぇ?』

『あら、そう、ね。クスクス……』


 ---------


『殿下!ご忠告致しますぞ。あの娘のせいで殿下まで下に見られますぞ。お声かけは控えて頂きたいと、あれぼと言ったではありませんか!』

『うるさいな。誰と話そうが俺の勝手だろ』

『夜会でのお相手はもう少し考えていただかないと。周りの目、というものがございます!』


 ---------


『ああ、全く殿下ときたらよりにもよって黒などとっ……!私の娘の方が髪も瞳も何倍も綺麗な色なのに!どこをみてらっしゃるのか……!あんな娘が周りをチョロチョロしているから、殿下の目は曇るのだ。まったく……』


 ---------


 オマエノセイ


 ワタシノセイ


 ワタシノ……







「それが、フィオの闇?」

 ふいに聞こえた声にビックリして振り返る。

 真っ暗の中、白いシャツに黒いズボン、簡易的だけど久々に王国の服を着たレオが浮かび上がった。

「どうして……ここに?」

 その黄緑の瞳が不安に揺れた。

「来て……、欲しくなかった?」

 思わず首を左右に振ってしまった。

「フィオ……」

 そう言って、手を差しのべて一歩近付いてきたのに、一歩後ずさってしまった。

 一瞬、傷付いたような表情をした後、それは苦笑いになった。

「フェアじゃないよね。俺の闇も見せてあげる」

 そう言って、後ろにあるものを見せるかのように体を横によけた。




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