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逃げられ王子と追われる令嬢  作者: キョウ
第1章

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55/127

55: タイムアウト(レナルドside)

遅くなりました。

いつも、誤字脱字報告ありがとうございます!

 久方ぶりに見た見目麗しい(ハズの)我が弟は、今まで見たことないほどボロボロになっていた。見た目も精神も。

 でも、悪いが更に鉄槌を下ろす。

「レオ、タイムアウトだ。迎えにきたぞ」


 ペリドットに例えられたその黄緑の瞳は、今や澱んだ沼のようになってるし、ご令嬢方が密かに触りたがってやっきになっていたフワフワの金髪は、ツヤもなくパサパサになっている。

 ここの民族衣裳なのか、装飾もない素朴な綿の簡易的な服の中の胸板は、不摂生していたのかやつれているのが一目で分かるほど薄い。

 感情がなくなったような顔で俺のことを見上げているが、ここまで壊れるとは……。


「ターナー」

「はっ」

「明日にはここを出る。このままレオを連れてセラト国で行われる三国会議へ向かう。山の麓の街で他のものは待機している。本来はお前は報告のために陛下の元へ戻ってほしかったが、レオがこの状態では付いてきてもらった方がいいだろう。明日までに報告書を作成しとけ。別の者に持たせる」

「承知致しました」

 レオの従者のアランも、疲れきった顔をしている。


 *****


 元々、期限をつけて送り出していた。

 だから、この国に入るのにも正式に先触れを出していたため、実にスムーズだった。手続きは。

 まさかあんな深い森を歩かされるとは思わなかったし、かなり強い隠蔽魔法がかけられているのもわかった。


 レオが幼い頃から惹かれてずっと離さなかった令嬢―――フィオレンツィア・カーライト伯爵令嬢。

 俺はずっと、その程度の知識しかなく、腹違いの弟の淡い恋心を微笑ましく思っていた。

 王族としての政略的婚姻は、俺が隣国の公爵令嬢と、弟のウォルターは幼なじみでもある国内の公爵令嬢とすでに婚約が決まっている。

 だから父上もレオに強くそれを求めていないと思っていたのに。

 まさかそこに、あの腹黒オヤジの策略がからんでいるとは知らなかった。

 会議への出席とレオを迎えに行け、と命じられた時、初めてその全貌を聞かされて唖然とした。

 レオがずっと調べていた「黒の蝶」のこと、父上の目論み、その全てを知って尚迎えに行くと決めたレオ。

 それでも、本人が納得しているなら俺の口を出すところではない、と思ってたし、そんなに接触はしてないが、俺から見たフィオレンツィア嬢もレオに心を寄せているように見えたから何の不安もなく送り出したハズだったのに……。


 華旺国の国王やターナーから話を聞いて、愕然とした。なんだってまた、そんなにこじれてやがる。


 *****


 聞いてはいたが、華旺国に来てあまりの文化の違いに圧倒された。

 そして、レオに会って壊れっぷりに更に驚愕し、そんな俺にお構いなしに、関係者を集めて状況を聞かされた。

 城……というか、横に大きな木造の屋敷に案内され、広い長四角の部屋に通される。どうやら本来は床にじかに座る様式のようだが、俺に気を遣ってか普通に椅子とテーブルがセッティングされていた。それぞれの足元に小さな板を挟んであるが、なんだこれ?この植物で出来ているような床は家具を置けないのか?土足も出来ないし、付いてきた従者達も戸惑いを隠せない。


「愚弟が、大変お世話をかけたようだ。父……カイザーに代わってお礼申し上げる」

 片手を吊るした精悍な顔つきの男が静かに頷いた。

 これが、華旺国国王マサユキ・キサラギ。

 父上と学園で知り合い意気投合した、と聞いている。あの父と気が合うということは、この人物もなかなかに曲者ということだ。

「いや、こちらも求婚を受けておきながら、保留にしている。だが、これはこちらのしきたりでな。ご理解頂きたい。が……、俺もまさかここで娘が逃亡するとは……、思ってなかった」

「それなのですが、どうもフィオレンツィア嬢がこの婚姻に及び腰になる原因が、父にあるらしいのですが」

 全員の視線が集まる。

 黒髪黒目ばかりで区別が付きにくいな。

「こちらに、父・カイザーからの手紙を預かってきました。マサユキ様に、と」

 書状を差し出せば、訝しそうに受け取り早速封を開けてその場で読み始めた。


 マサユキ様が読んでいる間に、レオに向かって聞いた。

「レオ、本当はフィオレンツィア嬢がどこにいるのかわかってるんだろう?」

 隣で死んだ目をしてる馬鹿に聞いた。

 アラン以外の全員が驚いているが、さすがにここまで逃げられていたらレオなら印を付ける。

 案の定、力無くコクンと頷いた。

「じゃあなぜ迎えに行かない?」

「……思い、出しても、避けられてるんじゃ、どうにもならねー……」

「ふーん。じゃあ、タチバナ殿にでも行ってもらおうか。フィオレンツィア嬢が心配だ」

 とたん、ギロリと俺を睨む。

 その首元をグイっと引っ張って無理矢理立たせた。

「今のお前に睨む権利はない」

「はなっ……、離せ!」

「もっとも、迎えに行く時間もない。事前に伝えてあったはずだ。セラト国での会議はお前も出席する、と」

 俺よりもついていたハズの筋肉が落ちている。以前のレオならこんな状態をすぐ振りほどけただろう。

「タチバナ殿、入国してきた時に通った森にフィオレンツィア嬢を感じる。里の近く。右の山側。もう1つ何やら禍々しい魔力持ちと一緒にいるようだ。心当たりはあるか?」

 背後にいた銀髪の男がすぐさま答えた。

「あります」

「迎えに行くか?」

「もちろん」

 振り返って顔を見ようとしたら、すでに部屋を出て、紙の引戸をスタンと閉めた所だった。


 手を離すと簡単にレオは倒れこんだ。

「レナルド!フィオに会ったこともないくせに、なぜフィオの魔力だとわかる!?」

 魔力を感じ取ることが得意な俺は、会ったことのある魔力持ちなら、よほど遠方にいない限り魔力を頼りに気配を察知出来る。魔法の痕跡をたどることや、強力な魔法や魔力を感じとることも人より敏感だ。

「あれだけお前の魔力をまとっていればすぐわかる」

 レオの顔が、カッと一瞬にして赤くなった。

「フィオレンツィア嬢のことはここまでだ。王族としての責務を果たしてもらうぞ」


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